妙義山の麓に、新しいタイプの絵画教室【妙義アートハウス】がオープンしました。
講師で日本画家の頼黄田(ヨリコーダ)さんは、これまでは東京を拠点にアーティスト活動を行っていましたが、今年8月に妙義へ移住。
詳しくお話を聞いてみると、30代半ばでアーティストに転向した頼黄田さんならではの気づきと想いが、この妙義アートハウスという場所には込められていたのです。
そこで、絵の勉強をしたことがない私ナカヤマが、実際に教室に参加して感じたことも合わせてお伝えしていきます!

【頼黄田(ヨリコーダ)さんプロフィール】
1986年大阪府生まれ。京都精華大学日本画専攻卒業。中学高等学校美術教員免許取得。12年間の人事採用業の会社員を経て、2021年より日本画家へ。2025年、富岡市妙義町へ移住し、妙義アートハウスにて教える。
人生の「反転」―バリキャリからアーティストへ
― 美大を卒業してからアーティスト活動を始めるまでの間、会社員として働いていた期間があったそうですね。
頼黄田さん:奨学金を早く返したかったこともあって、新卒で大手飲食企業に就職しました。出世街道まっしぐらの、いわゆる“バリキャリ”でしたね。でも中堅になって会社のことがよく見えてきた時に、ここで続けるのは違うなと思い、12年で辞めました。
じゃあ次は何をしよう?となり、ちょうどコロナ禍でステイホーム期間だったこともあって、家でデッサンをしてみたんです。すると、これまで絵を描きたい気持ちはあっても描けなかったのに、会社と距離を置いたことで久々にじっくりと描くことができました。しかもそれが、なぜか以前よりも上手くなっていたんですよ。
デッサンが成長した理由を考えた時に、「これまで培ってきた経験が空間認識能力を変えたんだ!」と気づけたことは凄く大きくて、絵でやっていけるかもしれないと思えたひとつのきっかけになりましたね。

― 絵を描けずにいた状態から、どのようにしてアーティストとしての道を進んでいったのでしょうか。
頼黄田さん:会社員時代に矯正された脳内の思考が絵を描かせてくれなかったので、それを外していく作業をしました。と言っても最初から理解してやっていたわけではなく、後から「そういうことだったんだ」と思ったんですけどね。
まずは、山に登ったり、パワースポットと呼ばれるような場所に行きました。物理的にあらゆる物を捨てて“家なき子”になった時期もあります。寝袋と絵だけを持って山で一晩中絵を描いて過ごした時には、「私はこれだけで幸せなんだ」と自分の軸に気づくことができました。
また、初めての個展では、私の絵と“あなたの価値”とを交換する【価値交換】というプロジェクトを始めました。絵と「手料理100食」を交換してくれた人がいた時には、1食のために交通費を毎回千円払うという、収支で見るとわけがわからない状態になりましたけど(笑)。でもそうやって資本主義から脱することで、「そもそもお金とは何か」をインストールし直すことができたんです。
そんなこんなで、ガチガチに固まっていたいろんなことが外れていき、次第に絵が描けるようになっていったし、自分の絵に値段をつけられるようにもなっていきました。
「今」を大切に生きて辿り着いた場所で伝えたいこと
― 私が頼黄田さんと初めてお会いしたのは、昨年の夏に『妙義自然の家プラス』で開かれた日本画ワークショップでした。妙義とのつながりはいつ頃からあったのでしょうか?
頼黄田さん:会社を辞めて間もない時に、友人が『いとのにわ』のキャンプサイトで焚き火をしながらYoutube配信をしているのを見て、バックに映った妙義山の姿に衝撃を受けたんです。この岩山は何?!行きたい!って。普段私は風景は描かないんですけど、妙義山は初めて「描きたい」と思ったんですよね。
後日その友人にくっついて『いとのにわ』を訪れると、初めてお会いした水澤さんや坂口陽さんたちが、離れの建物のこの部屋(現在の妙義アートハウス)で会議をしていました。私もその中に入れてもらい、そこから『古民家宿sazare』の改修のお手伝いをしたり、『妙義自然の家プラス』のクラウドファンディングのお手伝いをしたりと、何度も妙義に通うようになったんです。
昨年の夏は水澤家に1ヶ月半ほど居候したんですが、人の家庭の中に入り込んで、しかも東京とは全く違う環境で暮らすという経験は、それまであった自分のスタンスを崩すことにもつながりました。
キャンプ場『いとのにわ』
― 妙義山との出会いは、アーティスト人生の始まりにおいて大きな出来事だったんですね。では今回妙義への「定住」を決めたのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
頼黄田さん:水澤さんに誘われて軽い気持ちで妙義に来てみたら、「教室をやるならこの部屋を使っていいよ」と言われ。それならと以前からやりたかった教室を始めることになり、徐々に定住しようという気持ちが高まっていった感じです。
そして妙義アートハウスを始めたところ、今度は地域の方から「別の場所でも教室を開いてほしい」というお声掛けを頂きました。いつもこんな風に出会いとお声掛けで次の展開につながっていくので、先に決めてから動くことはせずに、その時その時を大切にしています。
自然光がたっぷり入る妙義アートハウス。窓からは妙義山が見える。
― 妙義アートハウスをどんな場所にしていきたいと考えていますか?
頼黄田さん:私は会社という“箱”に入っていた状態から飛び出して、アーティストとして自然に身を委ねる人生を送っています。そして、今のほうが人間らしい生き方だと感じています。こんな人間もいるというのを見せることで、今“箱”の中で我慢して生きている人たちに「どうにかなるよ!」と伝えたいんです。
教室の内容も決めつけはせず、いつも余白を持たせながらやっていこうと考えています。ワークショップを何度か開催してわかったんですが、2時間集中する時間を持つだけで、各々のアンテナで“気づき”が起こるんですよね。
自分が今何を感じているのかに敏感になるだけで、人生が豊かになり、生きやすくなると私は確信しています。だから、そんな時間をみなさんと共有したいと思っているんです。
妙義山に見守られながら過ごす「瞑想」のような時間

ここからは【妙義アートハウス】についてご紹介していきます!
まず大きな特徴は、
◎ 月謝制ではなく単発参加OK
◎ 希望する日程で開催してもらえる
◎ 少人数のゆったり空間
◎ 初心者大大大歓迎!
そして豊富なコンテンツ(まだまだ進化中)がこちら👇️です。
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■ POP日本画(150分)
日本画の小作品を仕上げます。材料を自分で用意する必要はありません。完成までに2回以上の参加が必要ですが、日本画の工程を全て体験することがき、自分のペースでじっくりと取り組むことができます。


\体験した感想/
単発のワークショップでは省略されてしまう工程も全て体験し、その工程の多さに驚くと同時に、日本画の奥深さを知ることができました。一つ一つの作業をじっくりと味わううちに心が穏やかになり、「コスパやタイパよりもこんな時間を大切にしたいな〜」と痛感。そして日本画を鑑賞する際の着眼点が増えたので、美術館に行くのがより楽しみになりました。
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■ はじめてのデッサン(150分)
鉛筆の正しい持ち方、 鉛筆の硬さ・柔らかさの使い分けといった、デッサンの基本の“き”から学びます。経験に応じて難易度を上げていくことができます。


\体験した感想/
美術の授業でデッサンをやった記憶がありますが、何本もの鉛筆を持ち替えて描くのはこれが初めて。鉛筆の硬さによって質感が変わることがわかったとたん、描くのがとても楽しくなりました。ノッてくると150分があっという間で、終わった時には「もっと描きたい!」という気持ちに。自宅ではこんな風に集中することはできないと思います。
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■ 名画構図研究会(150分)
好きな名画を、縦横の比率を変えてリサイズします。パーツを組み合わせたり鉛筆で描いたりしながら、作者の意図を想像し、答えのない問いに向き合います。

\体験した感想/
何も考えずにリサイズすると作品の雰囲気が変わってしまうので、パーツを減らしたり、位置を変えたりと、たくさん頭を使いました。ただ模写をするよりも遥かに多くのことに気づけるので、絵画をもっともっと深く鑑賞できるようになること間違いなし!です。この時に自分で考えた構図を、POP日本画で描いてもいいですね。
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■ うまく描けるトレ(人物クロッキー)(無料/90分)
人物1ポーズを3〜5分で短時間スケッチ。棒人間でOK!2時間で上達を実感できるトレーニングです。無料で参加できるのでお気軽にお試しください。※道具のレンタルは500円かかります。
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■ はじめての書道(150分)
書道教室とは違ったアプローチで、筆の使い方を習得します。呼吸や筆の運びを整え、精神を統一していくことで、リラックス効果を得ることもできます。
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■ プライベートレッスン(90分)
個人作品の指導などを行います。内容はご相談ください。

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どのコンテンツも初回は2,000円(材料費別)で参加できます。まずは【妙義アートハウス】のインスタグラムで詳細をチェックして、DMで問い合わせてみてくださいね。
ワークショップのお知らせ
『妙義山の日 丸一日アート特別企画「そこに山はあるんか」』
開催日:2025年11月4日(火)
場所:妙義ビジターセンター
地域おこし協力隊の片山さんと二人で、妙義ビジターセンターをジャック!頼黄田さんは日本画体験と無料トークライブを行います。空き状況とご予約方法は妙義ビジターセンターのお知らせをご覧ください。
「会社にいた頃の同僚が今の私を見たらびっくりしますよ」と頼黄田さん。
それほど大きく人生をひっくり返した経験があるからこその、視野の広さと、芯の強さを、お話を聞けば聞くほど感じました。(ヨリコーダというアーティストネームも、本名をひっくり返しているそうです。)
実はまだ驚きのエピソードがあり、曾祖叔父(曽祖父の弟)が台湾近代美術の先駆者「黄土水」だったことを、つい数年前に知ったのだとか…。
そちらのお話は、また別のどこかで目にすることができるのではと思います。
自然に身を委ねて生きることでミラクルがたくさん起きている、頼黄田さんの【妙義アートハウス】。
絵が好きな人も苦手な人も、アートな生き方を体感してみたい人は、ぜひ訪れてみてくださいね。
(ナカヤマ)


