富岡市の暮らしと移住のWEBマガジン
まゆといと

2024.03.01 移住-Iターン

人の縁に導かれて富岡へ—— 八木橋 紗芳さん

昨年秋のある日のこと。富岡のまちやど『蔟屋 MABUSHI-ya』が開催したトークイベントに参加した私ナカヤマは、宿を運営する方々のお話に耳を傾けていました。

 

【蔟屋 MABUSHI-ya】富岡製糸場近くに2019年にオープンした宿。まち全体を一つの宿に見立てており、チェックインは洋品店「いりやま」またはレストラン「イルピーノ」で行う。⇒蔟屋ホームページ

 

 

イベント中盤、話題は「宿泊客と地域の人々との交流」に。

そこで 入山寛之さん があるエピソードを紹介すると、会場がかすかにざわめきました。

 

「宇都宮の大学生がゼミ合宿で泊まった時に、先生からの依頼で、地域の人たちとの交流会を企画したことがあります。じつはこの交流会がきっかけで、富岡での就職を決めて、富岡に移住した人がいるんです。」

 

 

いりやま店主で蔟屋取締役の入山さん。

 

 

え?蔟屋が富岡に移住するきっかけに??

 

いったい何が起こったのかが気になって、居ても立ってもいられなくなった私。すぐにご本人にお会いして、詳しいお話を聞かせて欲しいとお願いしました。

 

 

……

 

 

インタビューを快く引き受けてくださったのは、栃木県出身の八木橋 紗芳(やぎはし さやか)さん。2021年4月、パーソルダイバース株式会社への就職を機に富岡市へ移住し、同社が運営する『とみおか繭工房』に勤務して丸3年になるそうです。

 

【とみおか繭工房】障害者の雇用促進と地域貢献を目的としたパーソルダイバース株式会社の拠点の1つ。群馬県の養蚕業の課題を解決すべく、桑園の管理、養蚕、絹糸を使ったアイテムの製作などを行っている。ニュースリリース「【とみおか繭工房】後継者不足の養蚕業、障害のある社員が生産した252キロの繭を群馬県富岡市で初出荷」

 

 

 


 

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共通点が引き寄せた 人生を変える出会い

 

 

八木橋さんが蔟屋に宿泊したのは、大学3年生だった2019年7月。地域づくりや地域創生を学ぶ学部に所属していた八木橋さんは、フィールドワークを兼ねた1泊2日のゼミ合宿で富岡を訪れたのでした。

 

 

先生と学生合わせて10名ほどで蔟屋に滞在した時の様子。

 

 

ゼミの仲間と。左から二人目が八木橋さん。

 

 

― 蔟屋に宿泊した当時、八木橋さんは富岡市にどんなイメージを持っていましたか?

 

八木橋さん:訪れる前までは、富岡製糸場が世界遺産になって賑わっているイメージがありました。実際に来てみると、〈人が少ないな。空洞化した街に住む人たちはどう思っているんだろう?元からいた商店街の人たちは大丈夫なんだろうか…〉といったことが気になりました。

 

― 宿泊した日に、地域の人たちに直接話を聞く機会があったそうですね。

 

 

入山さんの呼びかけで集まった地域住民との交流会。

 

 

八木橋さん:入山さんが、「蔟屋や地域の取り組みを紹介するから、よかったら聞いていってね」と交流会を開いてくださったんです。そこには富岡の商店街や市役所の方もいらっしゃって、中島飛鳥さんもご夫婦で参加されていました。

 

― 中島さんご夫婦… まゆといとで4年前にご紹介した、飛鳥さんと直紀さんですか?

 

(👇こちらの記事は結婚される前でした。)

シルクがつなぐストーリー 安西 飛鳥さん・中島 直紀さん

 

 

八木橋さん:その飛鳥さんが自己紹介の時に「お蚕が大好きで、富岡に憧れてここに来たんです!」とおっしゃっていて。お蚕が大好きな人ってあまりいないし、ずいぶん富岡への愛が強い人がいるんだな〜と気になったんです。私も生き物が好きなので話が合う気がして、詳しいお話を聞かせてもらいました。

最初はお蚕の話をしていたんですが、飛鳥さんのお仕事について聞いていくと、「障害のある方を雇用して養蚕を行い、伝統産業である養蚕業の継承に取り組んでいる」ということがわかりました。

 

― 飛鳥さんの当時の勤務先で、八木橋さんが現在働いている『とみおか繭工房』の事業ですね。

 

八木橋さん:そのお話を聞いてまず、「伝統産業を守る」というところに、地域の活性化やまちづくりのヒントがあるのではと思いました。さらに、私のバイト先が障害がある方のグループホームだったこともあり、〈障害がある方でも、働くことで地域に貢献できる場があるんだ!そういう人たちにとっても、伝統産業に携わっているという誇りがあるんじゃないかな?おもしろい仕事だな〜〉と興味が湧いたんです。そこで、工房を見に行ってもいいか飛鳥さんに聞いてみると、「よかったら見学に来てください」と会社の名刺をくださいました。

 

― “生き物好き” と “障害のある方と関わっている” という共通点で、一気にそこまで話が進んだとは!実際に見学へは行きましたか?

 

八木橋さん:約2ヶ月後の9月に見学に行きました。その時は就職までは全く考えていなくて、せっかく地域の方と繋がりができたし、研究のヒントになれば…くらいの気持ちだったんです。飛鳥さんともそれ以降、連絡を取り合うことはありませんでした。

 

 

蔟屋のチェックインの様子を入山さんと八木橋さんで再現してもらいました)

 

 

 


 

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ピンチのなか 流れに乗って掴んだ就職

 

 

 

― 就職を考えるようになったきっかけを教えてください。

 

八木橋さん:就職活動が本格化するのが3年生の3月なんですが、同時にコロナが始まってしまい、私の就職活動は全くうまくいきませんでした。公務員試験と民間企業を両方受けようと思っていたのに、ロックダウンで説明会にも行けず、受けたい民間企業が見つからなくて…。

すると4年生の夏に突然、飛鳥さんからメールが来たんです。「うちの会社(パーソルダイバース株式会社)で今度こういう採用があるから、受けるだけでも良かったら…」という内容でした。見学に行ってからだいぶ期間が空いていたので、私のことを覚えていてくれたことにビックリしました。

 

― しかもちょうど困っていたタイミングで!

 

八木橋さん:実際に見学した時に良い印象を持った会社なので、思い切って受けてみることにしました。公務員試験の方は落ちてしまったんですが、最終的には「この会社に就職したい!」という気持ちになっていたので、よかったなと思っています。

 

― そしてめでたく就職が決まり、見学に行った『とみおか繭工房』に配属されることになり…。入山さんと飛鳥さんとの出会いが、八木橋さんの人生を変えたと言ってもいいですね。

 

八木橋さん:本当にそうですね。飛鳥さんや入山さんという頼れる人たちがすでにいたので、引っ越す時も安心して富岡に来ることができました。

そしてこれは就職が決まった後に母から聞いて知ったことなんですが…私の名前「紗芳」の「紗」という漢字は、「絹の薄衣」という意味なんですよ。

 

― 名前にシルクが!?もう最初から富岡に呼ばれていたとしか思えないです。

 

八木橋さん:不思議ですよね。ありがたいご縁に恵まれて、今ここにいるんだなと思います。

 

 

久しぶりに蔟屋を訪れる八木橋さん。

 

 

 


 

 

 

「この街に居たい」と思う理由

 

 

― 富岡で暮らし始めて、困ったことや寂しかったことはありませんでしたか。

 

八木橋さん:困ったことは全然ないです。富岡の人は温かくて、受け入れてもらえているという安心感がありましたし、いろんなイベントに誘ってくださるので寂しさもありませんでした。

それに富岡は私の出身地よりも都会で、お店も揃っているので住みよいですね。最初はペーパードライバーだったのでそれだけは大変でしたけど、通勤で妙義山に行くので運転には自然と慣れました。

 

― お仕事の方はどうでしたか。

 

八木橋さん:事前に見学に来ていたのもあり、イメージとかけ離れているということはありませんでした。障害のある方にどう活躍してもらうか、そのためにどうサポートできるかを考える風土があるせいか、働いている人たちは「誰かの役に立ちたい」という気持ちを持った人ばかりなんです。なので私もたくさんサポートしてもらえました。

 

― それはよかったです。この3年間で知り合いや友達は増えましたか?

 

八木橋さん:街なかのインベントに参加するたびに知り合いが増えています。入山さんが開いている「げつのみ」という飲み会に参加すると、年上の人が多いので、人生のノウハウを教えてもらったりとか(笑)。この前のイベントでは、同じボランティアとして参加していた高校生の子と知り合って、その後もちょこちょこ連絡をもらっています。人のつながりができて、より「居たい」と思える街になっていますね。

 

 

築50年以上の木造長屋をリノベーションした蔟屋は、2棟の宿泊棟が連なっている。

 

 

 


 

 

 

「富岡と他の地域とのつながりを作りたい」

 

 

― これからやってみたいことはありますか?

 

八木橋さん:富岡と他の地域とのつながりを作れたら面白そうだな、と考えています。私は宇都宮のまちづくり活動にも参加しているんですが、宇都宮ではアーティストを集めたりして、刺激的で都会的な活動が行われているんですね。一方富岡は、なんでも受け入れてくれる温かさと、関わりやすい気楽さが魅力だなと感じていて。そんな富岡と宇都宮の人たちがお互いのことを知って、お互いに刺激を受けられたらいいんじゃないかな?と思っています。

 

他の地域とのつながり、大賛成です!こうして八木橋さんとお話しできただけでも、とても刺激になりました。

 

八木橋さん:私もナカヤマさんと知り合えて良かったです。人とのご縁は大切だと実感しているので、これからもいろんな人とお会いして、いろんなつながりを作っていきたいと思います。

 

 

 

 

 


 

 

 

物腰が柔らかくて、朗らかで、芯の強さも感じられる八木橋さん。お話しするのが楽しくて、彼女を富岡に引き寄せてくれたみなさんにお礼が言いたくなりました。

魅力的な人が、魅力的な人を呼ぶ。この連鎖はきっとこれからも続いていくことでしょう。

 

そしてこれを読んでいる若いみなさん!

出会いや経験がその後の人生でどのように役立つかは、その時にはわかりません。だからいろんな場所に行って、いろんな人と会って、いろんな経験をしてほしいなと思います。

壁にぶつかったとしても、八木橋さんのようにご縁を大切にして行動を起こしていけば、新たな道が拓けるかもしれませんよ。

 

(ナカヤマ)

 

 


 

 

カーテンと山を愛するヒト 佳織さん

 

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笑顔で乾杯するために。 入山 寛之さん【後編】