旧妙義青少年自然の家が『妙義自然の家プラス』に生まれ変わり、その施設内に【妙義極楽カリー&cafe】がオープンしましたよ〜 とお伝えしたのは、昨年の春のことでした。
( ↓ こちらの記事です)
あれから1年が経ち、【妙義極楽カリー&cafe】がリニューアルしたと聞いて訪ねてみると…
厨房に立っているのは、本家鎌倉『極楽カリー』の店主、竹迫順平さんではないですか!
店主の竹迫順平さん
聞けば竹迫さんは、10年以上続けた鎌倉のお店をクローズし、7月に拠点をこちらへ移したとのこと。つまり妙義に移住されていたのです。
「転がり込んで来ただけですよ。」と笑う竹迫さんに、スパイスのお話や群馬の印象など、いろいろなことを聞いてみました。
体が目覚めるスパイスのちから
水を使わず香辛料と野菜で3日かけて鶏肉を煮込んだチキンカリーライスに、サラダとホットチャイが付いた「妙義極楽カリーセット」。
ー 極楽カリーといえば、味付けが塩のみというチキンカリー。スパイスが効いているのに辛さは控えめで、コクがあるのに全く胃もたれせず、初めて食べた時は衝撃を受けました。このメニューは鎌倉のお店のオープン当初から変わっていないのでしょうか。
竹迫さん:修行したお店で教わったのがこのカレーだけなので、これだけをずっと作ってきました。作り方も変えていません。たぶん数百年前からイスラム教徒の人々に食べられてきたレシピなので、僕は変えることはできないです。それに一人でやっていたので、他のカレーを作る余裕もなかったですね。妙義に来てからは二人体制になったので、数量限定で野菜カリーの提供も始めました。
1日10食限定の野菜カリーは、辛くないスパイスと自家製ギー(ミルクオイル)を使用。地元の食材を使い、小さなお子さんでも食べられる優しい味になっている。
― 極楽カリーをどんな人に食べてもらいたいですか?
竹迫さん:食べるとシャッキリするので、ちょっと調子が悪いなとか、なんか元気が出ないなとか、二日酔いかも…みたいな、なんとなく不調を感じている人に食べに来て欲しいです。スパイスは薬のような効能を持っているので、難しいことを考えずに美味しく食べるだけで元気なれる、すごくいいツールだなと思っています。
自給率ゼロのスパイス「クミン」の国産化を目指して
店内には竹迫さん直筆の極楽画&極楽語がたくさん。左はオリジナルキャラクターの「クーミン」。
― 竹迫さんは横浜市出身だそうですが、群馬とはどのような接点があったのでしょうか。
竹迫さん:3年前に、知人に何の理由もなく群馬に連れて来られたことがありました。すると来てすぐに、頭の中に「国産スパイスを作らなきゃ」というインスピレーションが湧いてきたんです。カレーに使われているスパイスはほぼ100%輸入なので、もし輸入がストップしてしまったら日本中のカレー屋が潰れてしまう。だからスパイスを育てながらカレー屋をやっていこうって。でも畑は持っていないし農業の知識もなかったので、土地を探しながら【国産クミン協会】を設立して、全国の人たちにクミン栽培に挑戦してもらう活動を始めました。
◎【国産クミン協会】のおもな活動
春まきと秋まきの年に2回、国産クミンを育ててカレーを作る「ゴクラクミンまつり」を開催。参加希望者にはクミンの種を配り、収穫したクミンを提供してくれた人には、国産クミンで作ったカレーを送っている。⇒ 国産クミン協会ホームページ
これまでの研究をもとにクミンの栽培方法を解説した虎の巻
― 群馬に来たことがきっかけで【国産クミン協会】の活動が始まったんですね。様々な種類のスパイスがある中で「クミン」を選んだのはどうしてですか?
竹迫さん:もし1種類のスパイスだけでカレーを作るとしたら何を使うか?と考えた時に、「クミン」だろうと思ったんです。あまりメジャーではないけれど、クミンはカレーの魂。なのに自給率は0%。この0.00%を、0.01%にしなければならないと思いました。
― クミンは日本では栽培が難しいようですが、だからこそ挑戦したい!という人は、富岡にもきっといると思います。
竹迫さん:ぜひお願いしたいです!今は趣味として取り組んでいる人が多いですが、今後儲かる作物になるかもしれないので、農家さんにも挑戦してもらいたいと思っています。
人のご縁をつないでいきたい
― 『妙義自然の家プラス』を運営している『いとのにわ』の水澤充さん・安津美さんとは、どこで知り合ったのでしょうか。
竹迫さん:3年前に群馬に連れて来られた時に泊まらせてもらったのが、水澤家の自宅だったんです。その時は初対面だったこともあって、ほとんど会話はなかったですけどね。でも後日、充さんが僕に絵葉書を送ってくれたんです。そこには「妙義に来てください」と書いてあって、そんな風に言ってくれる人がいるなら行っちゃおう!ってなりましたよ(笑)。
― そこから妙義を度々訪れるようになって、【妙義極楽カリー&cafe】が誕生したわけですね。
竹迫さん:じつは、群馬にはもともとご縁があったんです。例えば、横浜の会社に勤めていた時の同僚が南牧村で自然農園をやっていたとか、昔ボリビアで暮らしていた時のルームメイトが高崎の人だったとか、好きな作品の作者が群馬に住んでいたとか。そんな事が本当に多くて、気づいたら周りが群馬の人だらけでした。だから何に惹かれて群馬に移住したかと言ったら、温泉でも妙義山でもなく、「人のご縁」ですね。
― こちらのお店も、こ゚縁が生まれる場所になるだろうなと感じています。竹迫さんが他のお客さんと話していると、なぜか自分もその会話の中にいる感覚になって、客同士で話しやすい雰囲気になるというか。
竹迫さん:それはわざとやっています。他のお客さんにも聞こえるように喋りながら、人と人をつなぐマッチングアプリみたいなことをずっとやってきました。カレーを食べるだけじゃなく、ここに来れば知りたいことが分かるとか、会いたい人に会えるとか、そんな場所になるといいなと思って。お客さんの人生にちょっとだけ関われるのが、小さな個人店の醍醐味ですよね。
心もお腹も満たす「ラドゥ」に想いをのせて
インドのお祝いやお祭りで食べられている伝統的なお菓子「ラドゥ」は2粒から注文可能。
― 丸いお菓子のラドゥは、甘さ控えめでチャイともよく合い、とても満足感がありました。メニューには「山の娘 ぎりじゃのラドゥ」と書かれていますが、この方は…?
大竹さん:「山の娘 ぎりじゃ」は私です。「ぎりじゃ」というのは、今年2月に私がインドに行った際にお世話になった方の名前で、サンスクリット語で “山の娘” とか “山から生まれたもの” といった意味があります。私は山が好きなのでぴったりだなと思い、屋号として使わせてもらっています。
スタッフの「山の娘 ぎりじゃ」こと大竹淳子さん。自家製ギーの製造も担当。
大竹さん:7月に妙義へ来てからたまたま作り始めたラドゥですが、今はこの商品に自分の夢や人々の想いを乗せていきたいと考えています。1つ目の目標は、登山の行動食や補食としてラドゥを広めること。もう1つは、ハンデを持つ人や貧しい国の女性と子供たちの自立支援です。これからいろんな人に関わってもらい、助けてもらいながら、形にしていきたいと思っています。
― 新しくやりたいことが見つかった時のワクワク感がとても伝わってきました。想いが形になりますように!
チキンカリーとラドゥは、真空冷凍パックも販売中。店頭またはオンラインで購入できます。
気づいて欲しいこの土地の魅力
― 妙義で暮らしてみて感じたことは何かありますか?
竹迫さん:毎朝同じ風景を見ていますけど、妙義山の形は変わらなくても、葉っぱの色が変わったり、風が吹いたり雨が降ったりで、毎日違って飽きないですね。何気ないことだけれど、飽きない場所に住んでいるって、かけがえのないことだと思うんです。
こういった自然とかをお金に換算できるとしたら、群馬の人は超リッチですよね。温泉も湧き水も豊富だし、野菜も美味しいし、災害は少ない。東京で1兆円払っても持てないものをみんなで共有できているって、すごいことじゃないですか? 群馬の人は自分たちの土地の魅力に早く気づいて、大切にしていって欲しいなと思います。
朝の妙義山と妙義自然の家プラス(竹迫さん撮影)
― 最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします!
竹迫さん:ここが着地点というわけではなく、まだ長い旅の途中で、またどこかへ行ってしまうかもしれません。だから早めに食べに来てくださいね〜。
【妙義極楽カリー&cafe】
〈営業日〉土日営業(連続する祝日も営業)
※変動あり。妙義自然の家プラスのホームページやインスタグラムをご確認ください。
〈時間〉11:30-16:00(15:00L.O)
ここには書ききれないほど、たくさんのお話をしてくださったお二人。
旅のお話や、クスッと笑える「極楽語」のことなど、まだまだ聞きたいことがあったのですが… またお店に食べに行った時のお楽しみにします。
すでにスパイスの香りが恋しくなっている私。その時はすぐに訪れそうです。
(ナカヤマ)