富岡市の西部にある吉田地区は、富岡市街地から8kmあまり離れ、西上州の山々(神成山、大桁山、鍬柄岳など)に囲まれ、鏑川を挟み下仁田町と接しています。
上信越道を挟んだ東側は広い農地が広がり、西側は典型的な中山間地域。
こんにゃくを中心とした産業が発展し、こんにゃく製品の工場が多くあります。
また、下仁田町馬山地区と並んで下仁田ねぎが広い面積で栽培され、米作りと麦の栽培も盛んな地域です。
富岡市の西部に位置する吉田地区
地域の中心「なんじゃい駅」
吉田公民館
地域の中心となる南蛇井駅近くに吉田公民館があり、そこが吉田地区地域づくり協議会の拠点となっています。
※地域づくり協議会:公民館単位で組織されるまちづくり団体。区長会や各種団体の代表者らが所属し、地域課題の解決を図るため、様々な活動に取り組んでいる。
吉田地区地域づくり協議会では、昔からの行事を継続しながら新たな試みを年間行事に取り込むなど、形にこだわらず、新旧の良いところを取り入れた地域づくりに取り組んでいます。
その中の区長会で2年前から中沢区長を務める浦野公男さん(64歳)が、地域づくり協議会の外郭団体としての地域づくり団体を立ち上げようとしている――との情報を耳にして、賛同者の集め方や事業の進め方について記事にしてみたいと思い立ちました。
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「地域づくりのNPOを立ち上げたい!」
中沢区長の浦野公男さん
― NPO(営利を目的とせず社会的活動を行う団体)をどんな想いから立ち上げようと思ったのですか?
浦野さん:魅力の乏しい地域に、人を呼び込める魅力を創出したい。これに尽きます。すでに富岡のまちなかではいろんな団体が地域を盛り上げようと活動していますが、周辺地域ではそのような活動が見られないため、地域づくりに専念する団体を作りたいと考えました。
― それは、いつ頃から考えるようになりましたか。
浦野さん:4年ほど前から地域の人と話す機会がある度に、「地域のNPOを立ち上げて遊休農地の解消や地域の魅力UPを図り、極端な少子高齢化に歯止めをかけたい」と漠然とした計画を思い描いていました。そこへ思いがけず自身が区長職に推挙され、地域づくりに関わることになりました。
― 地域の方々へどのようにして呼び掛けたのか教えてください。
浦野さん:2年の区長任期を終える昨年の暮れに、退任予定の同期の区長さんにNPO立ち上げの想いを語り、賛同を得ることができました。そして年明けに吉田地区地域づくり協議会に働きかけたところ、賛同する方々の参加表明を受け、さらには回覧で吉田地区全体に呼びかけたことで、最終的に15名の賛同者を集めることができました。積極的に地域づくりに関わろうという方にこれだけ集まっていただけたのは、非常に運が良かったと言えます。
― 地域づくり協議会との違いはどんなことがありますか。
浦野さん:地域づくり協議会や区長会は、昔からの数多くの行事を次へ伝え繋いで行く役割があります。その上新たな提案や事業を行うことは、次を担う区長会や運営委員の皆さんに余計な仕事を残してしまうことになりかねません。NPOはそういった新しい提案や事業の受け皿となる、自由な発想で柔軟に動ける団体という立ち位置と考えています。
受け皿があることで地域づくり協議会の新規提案もしやすくなり、結果とし て双方が柔軟に動けるようになるのではないかと期待しています。
― どのような団体構成になっていますか?
浦野さん:これまでに8回のNPO立ち上げ準備会議を開き、団体名を『ふるさと吉田』とすることや、4名の理事と2名の監事を決めました。初代の代表理事には、前南蛇井中区長・元市教育長の横田公男さん(69歳)に就いていただきます。実は私はもう一期(あと2年)中沢区長として地域づくり協議会側で活動することになったため、ふるさと吉田の事務局として関わっていきます。
現在はまだNPO法人ではなく任意団体の扱いですが、初年度の事業計画を立てて活動し、必要になった時点でNPO法人に移行して行く予定です。
―『ふるさと吉田』として、まず初めに取り組む地域づくり事業はどんなことでしょうか。
浦野さん:私が当主を務める農家民宿ひなたで昨年米作りに挑戦していたグループ(Furatto)のメンバーから、「今年度は野菜作りに挑戦したい!」との話がありました。せっかく地域に若者グループが農作業に来てくれるのなら、個人ではなく『ふるさと吉田』として地域で受け入れたほうが良いと考え、会議で相談し、承認を得て実行することになりました。
遊休農地の活用に向け、理事の横尾秀光さん他コアメンバによるミーティングを経て、まずは野菜づくりを体験するための農地(500m²)を準備し、4月の種まきに始まり5月のGWの定植を終えて、現在は収穫に向けて活動しています。
神成山を望む上信電鉄沿線の広々とした畑を準備
ガーデンファームヨコオのハウス内で種まきや鉢上げを教わるFurattoメンバー
パプリカ、ピーマン、ズッキーニ、なす、かぼちゃ、芋類などを苗付け
「ふるさと吉田」の今年度の活動は、若者たちとの野菜作り!
どんな野菜を作る予定なのか尋ねると、レタスやキャベツなどの葉物野菜をはじめ、たくさんの野菜作りに挑戦しているとのこと。経験と知識が豊富な地域の方々のご指導もあるので、作業を通してコミュニティも広がりますね。
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「みなさんに出会えてよかった」
今年は野菜作りに挑戦している Furatto のメンバーたちに、地域の受け入れについて聞いてみました 。
私たち Furatto は、メンバー全員が農作業初心者。昨年は農家民宿ひなたで米作りに挑戦し、どうやってお米になるのかを知るのが興味深く、定期的な作業では毎回その成長にワクワクしました。
今年は憧れの野菜農園に取り組めることになり、「種はどう撒くの?土はどうするの?」と、はじめから疑問だらけの私たち。今回『ふるさと吉田』のみなさんのお力をお借りすることになり、大先輩方の知恵と知識をたくさんいただき、初めての農園は想像以上に豊かで素敵な農園になりそうです。
当初は夏野菜が収穫できれば…と思っていましたが、『ふるさと吉田』のメンバーから「この作物もやってみよう!この苗と種芋が余ったから植えてみる?」と次々にご提案いただき、現在育てている作物の多様さに驚いています。中には聞いたことのないおもしろい作物や品種まで。これも、地元の方と一緒に作業できる魅力です。
『ふるさと吉田』のメンバーとお話しするのは楽しく、“地域を盛り上げたい”という熱意に刺激を受けています。地元の魅力、美味しいお店、おもしろい人、ディープな情報を教えていただけますし、親父ギャグも可愛くていつも笑わせてもらっています。
『ふるさと吉田』に歓迎され、いつも私たちの活動を温かく受け入れ、見守り助けていただいていることに感謝しています。みなさんとの関わりを通してこの土地に愛着がわき、私たち若手にとってこの地域は、また帰ってきたい第2の場所・地元になりつつあると思います。今後何らかの形で『ふるさと吉田』のみなさんや、この土地に貢献できるようになれたら嬉しいです。
収穫した野菜で夏野菜カレーを作りたい!ピザやパスタのイタリアンにしても美味しいだろうな!この地域でできたものでお茶や調味料を作ってみたい!と、やりたいことがたくさん浮かんできて、いつもわくわくしています。挑戦を応援してくださる『ふるさと吉田』 の強力なサポート体制があるからこそ、安心して一歩を踏み出せます。
地域で頑張っている『ふるさと吉田』のみなさんと出会い、一緒に活動でき、新しいものを作り出せることが嬉しいです。これからも楽しみです。(Furattoメンバー・みずほさん)
【Furattoってどんなグループ?】
農業を通して地域の方との触れ合いを大切にコミュニティを広げていきたい!と、休日を利用しながら地元群馬で活動をしています。
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原動力は“ふるさとへの想い”と“発見の楽しさ”
代表理事の横田公男さん(69歳)に、NPO立ち上げの呼びかけに賛同した理由や、これからの活動についてお話を伺いました。
ふるさと吉田代表理事の横田公男さん
横田さん:私は自然が好きで歴史も好きで、この場所に生まれ育って良かったと思っています。上信電車は小さい頃に祖母におんぶをされて連れて行ってもらった思い出の場所。自分で行けるようになってからも随分遊んだ場所なので、個人的には上信に思い出があります。だからこそ見ていると、もっと出来ることがあるのに何故やらないんだ…という気持ちがあってね。
生まれ育った場所は、発展はしなくてもいいけど、いつまでもいい場所であって欲しい。だったらその為に何ができるのか。地元の役に立ちたい、少しでも地元を盛り上げたい。賛同したのはそんな想いからだね。
今回、若い人たちが来てくれているが、そういった交流を通して「吉田っていいところだな」と思う人が増えて、「行ってみたい」という気持ちになってもらえたらありがたいね。
それに今後の食糧問題は避けて通れなくなる。そういう点では来年に向けて、出来るだけ多くの小麦を栽培したい。小麦はいろいろ使い勝手がよいし、保存も出来る。そういった作物を作るのは大事だね。
『みんなの吉田』(公民館単位で行われた円卓会議の名称)では “吉田地区の自慢できるところ” についてみんなで話をしたけれど、人任せでは見つからないので、もう一度みんなで「各地区に埋もれているものはないか?」と探して、それぞれが持ち寄ったものを共有しながら、良い方向へ持って行ければいいと思う。
自分たちでおおごとして作ったからこそ意義のあるものになり、人へも紹介したくなり、 人が来れば案内もしたくなる…。それが大事だと思う。
自転車が趣味の横田公男さん
横田さんは、健康づくりとして5年前からサイクリングを始めています。こちらの写真は『妙義山ビューライド in 富岡 2022』(妙義総合公園発着、制限時間5時間内で61kmを自転車で完走するイベント)へ参加した後に撮らせていただきました☆
吉田公民館だよりでも紹介されていますが、自転車に乗る魅力は「発見があること」だそう。「走っているとその場所の空気を感じるんだよ」 と話す横田さんの目標は、瀬戸内しまなみ海道を自転車で走り、中国地方から四国へ渡ることだそうです!「瀬戸内海を渡る70キロのサイクリングロードを走るのは、きっと気持ちがいいだろうな〜」そんなお話を聞いて思わず、わぁ〜!と感動しちゃいました!
横田さんは「楽しくないとね!!」と笑顔で言い残し、取材の後も自転車で帰って行きました。
吉田地区を通る姫街道
無事しまなみ海道を完走した横田さん(ご本人提供)
「自分の故郷をどうにかしたい!!」というそれぞれの想いを胸に、無理をせずできることから活動を始めて行こうと『ふるさと吉田』の活動が始まりました。
その活動の様子は Instagram、Facebook で発信していますので、ぜひチェックしてみてください。
また、吉田地区地域づくり協議会でも SNS 発信を始めています。円卓会議『みんなの吉田』の皆さんから集められた吉田地区の魅力と自慢を定期的に発信し ています。
また訪れてみたい、暮らしてみたい、そう思ってもらえるような地域づくりに、私もできることから参加したいと思います!
(マツモト)
昨年度のFurattoの農業体験の様子↓