ある日、JA甘楽富岡の広報誌の見出しを眺めていると、「青年の主張」という文字が目に入りました。記事を拝見すると、令和3年度JA群馬青年部大会「青年の主張」で最優秀賞に選ばれた、横尾晃さんの発表が掲載されていました。
横尾さんは、南蛇井にある有限会社ガーデンファームヨコオの二代目。その発表からは、若い力と新しい風を取り込むために、試行錯誤しながら “鉢花農家” の魅力を伝えようと努力されている様子が伝わってきました。
それまで花の栽培は “園芸” というひとくくりの言い方だと思っていた私には 、“鉢花農家” という言葉がとても新鮮に感じ、(人を笑顔にする花は、どんな想いで育てられ、私たちのところへ届くのだろう…)と興味が湧いてきました。
そこで今回は、横尾さんの想いを聞かせていただくとともに、市内の小学校で行われている活動や、就農する上で大切なこと、花の栽培に関する豆知識など、様々なお話を伺ってきました。
【横尾 晃さん】
富岡市南蛇井出身。35歳。埼玉県にある株式会社実野里で研修後、2011年に有限会社ガーデンファームヨコオへ就農。二代目代表取締役となる。2015年に富岡市の認定農業者連絡協議会会長に就任。2022年4月から2年間、JA甘楽富岡青年組織協議会の会長を務める。
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鉢花農家の魅力
ー 横尾さんは鉢花農家を営むお父さんを幼い頃から見て育ち、いつかは家業を継ぐのだと漠然と思っていたそうですが、鉢花農家を経営したいと自ら考えるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
横尾さん:家に就農する前に行った研修先は販売が主な仕事で、お客さまの反応を感じることの面白さや楽しさを知りました。花を買っていくお客さまはみんな笑顔になる。その喜びを感じられるのが鉢花農家なんだ。そう思えたのがきっかけです。
ー 鉢花農家として伝えたいことはどんなことですか?
横尾さん:季節を知れるという事と、育てる楽しみ…花の一番の醍醐味ですね。そのためにうちでは、自然に近い環境で、花が長持ちしやすいよう工夫して栽培しています。
花は、自分へのご褒美、贈り物、季節を愛でるものだったりと、喜びに直結することばかり。その喜びを肌で感じ取ることができる鉢花農家という職業の魅力を伝えたいです。
ー 横尾さんは富岡市内の小学校へも納品しているそうですね。
横尾さん:富岡市では『一人一花運動』といって、児童に花を育ててもらい、それを卒業式に飾るという取り組みを行なっています。その花苗の納品を一部の学校にさせていただいています。
ー 花を育てる楽しみを小学生のうちから、地元産の花苗で知ることができるんですね。
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家庭で花を育てるコツ
ー 花を育てるのは、どんな人が向いていると思いますか?
横尾さん:花にもそれぞれ個性がありますからね…。気温や場所、状態によって水やりも変わってきたりするので、ある程度放っておける人のほうが育てやすいのかな。植物は基本的には自分で育っていくので、気にしすぎて触りすぎたりすると、花にストレスを与えてしまうこともあります。
― なるほど~。個性と聞いて、咄嗟にあの「世界に一つだけの花」の歌詞を思い出しました(笑)。家庭菜園をしてみたい方へのアドバイスもお願いします。
横尾さん:植物が育っているのを手助けするのが家庭菜園だと思っているので、見守りながらお世話することがいいのかなと思います。
― 野菜と一緒に植えると効果的な「コンパニオンプランツ」というと、どんな花がありますか?
横尾さん:一緒にいると何となくいいよ、っていうのがコンパニオンプランツかな。例えば、茄子のそばにマリーゴールド。マリーゴールドを植えることによって、線虫という地面から来る虫が寄りづらくなったり、実をかじるアザミウマという虫が茄子のところへ行きづらくなったりします。それと、トマトとバジル。これはおすすめです!料理の相性もいいし、味もよくなります。
― 富岡市の気温、夏の暑さや冬の寒さに負けない種類の花を教えてください。
横尾さん:その時期に花の直売所へ行った時に、一番多く販売している花と思ってもらえれば。例えば冬場のパンジーは、雪の中に埋もれても、日が差して溶けるとしゃんとしてきます。春から夏にかけてのペチュニアなどは、乾燥に強い性質がありますね。
季節ごとの初心者向けのお花を聞いてみました。
【春】マリーゴールド、ペチュニア、ベゴニアなどの一年草。
花がたくさん咲くのが常に確認できるので感動も大きい。
水をたくさんあげておくと咲いてくれるのも春の花の特徴。
【夏】ひまわり、千日紅など暑さに耐えられる花
花は少なく葉が多いのが特徴。
【秋】菊、ガーデンマム、コスモス、早咲きパンジーなど
【冬】パンジー、ビオラ、ハボタン、シクラメンなど
シクラメンは5月頃まで楽しめる。
ペチュニア(左)とベゴニア(右)
ジュリアン(左)とガーデンマム(右)
パンジー(左)とビオラ(右)
シクラメン(左)とハボタン(右)
冬の時期、贈り物に寄せ植えをお願いしました。花のお世話の仕方も丁寧に分かりやすく教えてくださるので、不安なく楽しむことができます。
5名~最大15名程度の人数で「寄せ植え体験」にも対応してくださいます。(農繁期には対応できない場合がありますので、事前のご確認をお願いいたします。)
〈覚えておくと便利な言葉〉
一年草(花がたくさん咲くが、1シーズンで枯れてしまう)
多年草(2年以上枯れずにもつ。何年も咲き続ける花もある)
宿根草(地上部が枯れてもまた発芽し花が咲く多年草)
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仲間とのつながりを大切に
― 鉢花農家さんの一日の主な作業を教えてください。
横尾さん:水やり、土を作って土詰めのあとに植え込み、肥料の追肥、摘芯、手入れなどを行っています。暖かくなると害虫が多くなるので消毒を。それから出荷の準備もあります。
― 新規就農を考えている方へメッセージをいただけますか。
横尾さん:鉢花農家を新規でやるのはなかなか難しいと思いますが、農業全体と考えると…まずはベテランの先輩を頼ることですね!農業というのは地域で作っていく職業なので、基本的な技能やノウハウについては共有しながら、お互いに高め合っているんです。
初めて農業を始める時には、仲間とのつながりがとても重要になります。一人でやらずに、周りの仲間にどれだけ聞けるかでも先が変わってきます。作った後の売り先も考えた方がいいですね。
ー 鉢花農家さんは、生産者同士の横の繋がりはありますか?
横尾さん:群馬県には群馬県鉢物研究会という会があって、西毛・中毛・東毛・北毛と4つの支部に分かれています。西毛地域ですと富岡市・安中市・高崎市・藤岡市が一つのチームとして、現地視察でお互いの圃場へ行くなど情報共有をしています。
― それは心強いですね。
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南蛇井(なんじゃい)でパパイヤも栽培中
― お住まいの富岡市南蛇井は、横尾さんにとってどんな場所ですか。
横尾さん:県外で生活しているころ、出身地を聞かれたときに『群馬県富岡市の南蛇井から来ました』と言うと、『なんじゃい?なんだいそれ?』と始まって会話が繋がるという面白さを感じました。『南蛇井駅』も珍名駅として知られているので、話のきっかけになっています。
そんな南蛇井で、横尾さんは青パパイヤの栽培も行っているそうです。
先代が趣味で始めたという青パパイヤ栽培。種から撒いて採れるようになるのだろうか?と鉢から始め、本格的に畑に植え始めたのは昨年からとのこと。
栄養豊富なパパイヤ料理の中で、横尾さんから教えていただいたものの一つが…なんと「お茶」でした。
横尾さん:葉の新芽を乾燥させてフライパンで炒ると、ほうじ茶のような風味になります。
これは意外にも美味しそうなので、新芽が出る頃に試してみようと思います!
私も何品か挑戦してみました。
左から、グラタン、コンポート、きんぴら。
パパイヤは殆どくせがないので、どんな料理でも楽しめそうです。収穫時期は8月下旬〜11月中旬だそうなので、ぜひ挑戦してみてください(^^)
そして…!
もしかすると、青パパイヤだけでなく「富岡産の完熟パパイヤ」ができるかも!!との情報をいただきました!楽しみです!
花が咲くまでのストーリー。それぞれ個性を持った花たちを日々見守りながら手助けをして育てていく、まるで親心のようなものも感じました。手に取る花々の見方も変わってきそうです。
陽気も良くなってきたので、好みの花を植えてガーデニングも楽しいですね。
(マツモト)