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まゆといと

2023.03.28 建築シリーズ

ここがすごいよ富岡の建物《第7回》富岡市社会教育館

富岡市内の建築物について素人目線で学ぶシリーズ第7弾☆

このシリーズ初の近代和風建築※1で国登録有形文化財の『富岡市社会教育館』に迫ります!

※1:明治時代以降に建築された、日本の伝統的様式や技法で建てられた建造物。

 

 

どこにあるの?と思ったみなさんは、こちらの記事をおさらいしてくださいね。貫前神社の隣ですよ!

↓ ↓ ↓

おでかけしようよ!ふらっとTOMIOKA 〜一ノ宮さんぽ〜

 

 

今回の案内役は、同館で令和4年4月から館長を務めている山内久志さん。

一緒に見学するのは、建築シリーズではお馴染み、公共建築に詳しい新井久敏さんです。

 

市民のみなさんはもちろんのこと、和の雰囲気や歴史あるものが好きな方、撮影やイベントの会場を探している方もぜひご覧ください!

 

 

 


 

 

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建物の歴史から時代の変化が見えてくる

 

正門

 

昭和11年3月竣工。敷地面積10,609㎡(約 3,200坪)、延べ床面積1,162㎡(約 350坪)。建物は東西116mに及ぶ。

 

 

― 立派な門をくぐると、手入れされた広いお庭に、東西に長〜い平屋の建物。現在は市の施設ですが、元々は何のために作られた場所なのでしょうか?

 

山内館長:きっかけは昭和9年11月、天皇陛下が群馬県内で行われた陸軍特別大演習の視察に訪れた際、先導役の警部が誤った道を案内し大騒ぎになるという事件が起きたんです(昭和天皇誤導事件)。これにより当時の県知事は辞任。その後着任した新しい知事が、天皇陛下のため、そして群馬県民の名誉のために県民から寄付を募って建てたのが、この建物だと言われています。

昭和9年に天皇陛下が貫前神社を参拝されたこともあり、隣接したこの場所が選ばれ、土地も寄付されたそうです。現代の価格で総工費約10億円をかけて、昭和11年、青年男女の精神修養を目的とした「東國敬神道場」として開館しました。

 

― 戦時色が濃い時代の出来事だったんですね。

 

山内館長:7月に設計図を依頼し、28枚もの設計図が1ヶ月強で仕上がり、9月に地鎮祭、12月に上棟、そして翌年の3月に竣工と、現代ではありえないスピードで作られたことからも、どれだけ力が入っていたかわかりますよね。

 

 

昭和12年製の時計と、高円宮両陛下が来館された時の写真。

 

 

山内館長:昭和20年の終戦以降は「群馬懸公民會館」「群馬県立社会教育館」と名称を変えながら、社会教育や研修、講座などに使われました。ダンスパーティーが行われ若者で賑わっていたこともあったそうです。

利用者の減少により平成14年に宿泊が廃止され、平成17年に所有者が群馬県から富岡市に移りました。現在は地域のサークル活動などで使われています。

 

― お茶会やコンサートが開かれることもありますよね。実は誰でも利用可能な施設なんですよ〜というお話は最後にとっておいて、建物を見ていきましょう。

 

 

 


 

 

意匠がちりばめられた貴重な近代和風建築

 

 

正玄関の車寄せ

 

 

― 玄関が2つあってどちらから入るか迷いますが(どちらからでも入れます)、今日は東寄りの「正玄関」からお邪魔します。

…もう玄関からして素敵で、しばらく眺めていたくなります。

 

山内館長:設計は、近代和風建築の大家である大江新太郎※2が主宰する「大江國風建築塾」の森口三郎が担当しています。市内の「日本料理 ときわ荘」の建物も手掛けていますね。建築的な質から見れば、前橋市の臨江閣や、安中市の旧碓氷社本社事務所、太田市の中島知久平邸などと並ぶ、県内屈指の近代和風建築と言えます。

※2:代表作は明治神宮宝物殿。日光東照宮の修復や伊勢神宮の造営にも携わった。

 

― 建築的にも価値のある建物なんですね!それでは、東のお部屋から行ってみましょう。

 

東から、講堂棟、講師室棟、玄関及び事務室棟、和室棟。

 

講堂棟へと続く渡り廊下

 

講堂棟は床が階段3段ぶん高くなっている

 

 

山内館長:日が昇る東は沈む西よりも尊いと考えられているので、一番東にある部屋がこの建物の中で最も位が高いとされています。床が高くなっているのはそういった理由からです。建物の西の和室棟にも同じように階段があり、最も西にある部屋は床が低くなっています。

 

― 位の上下を床の高さで示しているんですね。

 

山内館長:他にも、講堂棟には濡れ縁(外の縁側)に欄干(手すり)がついていますが、その西にある講師室棟は濡れ縁のみ、といった違いもあります。

ちょうどここから欄干が見えるので、頭上の照明と見比べてみてください。

 

 

講堂棟の欄干(手すり)の模様と、

 

廊下の照明の模様が…

 

 

欄干と照明の模様がおそろい

 

山内館長:見た目へのこだわりが伺えます。

 

 

講堂: 99㎡(60畳)、100人収容可能(制限なしの場合)

 

 

― この建物の最も東に位置する、講堂にやってきました。和洋折衷という感じで、天井も床も凝っています。

 

新井さん:格式の高い部屋に用いる「折上げ格天井」ですね。折上げ部分は湾曲しているのが一般的ですが、こちらは直線で持ち上がっていて非常に珍しいです。それにしてもいい木を使っているなぁ。こんなに節がなくて目の詰まった木は、なかなかありませんよ!

 

山内館長:木曽ヒノキや台湾ヒノキが使われているそうです。

 

年輪の幅が狭いヒノキは重くて丈夫な高級建築材

 

講堂のステージ奥にある神殿部

 

 

― この扉の奥にはいかにも神様がいそうな雰囲気ですが…

 

山内館長:神殿は終戦後に取り払われ、現在もここに神様はいません。こちらの扉と欄干は、建設当初の設計書・図面・写真を元に、平成29年度の改修工事の際に復元したものです。

 

新井さん:ところで耐震補強工事はどのように行われたのでしょうか?

 

山内館長:講師室には見える形で鉄骨が入っていますが、他の部屋には筋交い(建物の柱と柱の間に斜めに取り付ける部材)が中に入った耐震壁が設置されています。

 

 

講堂の隣の休憩室にある耐震壁

 

 

― 真っ白な分厚い壁は耐震壁だったんですね。他の部屋でも探してみます。では渡り廊下を戻って、講師室へ行ってみましょう。

 

 

書院造りの講師室:41㎡(25畳)

 

別角度から。茶室としても使用できる。

 

 

― ただ座っているだけで贅沢な気分になれる和室。着物は普段着ませんが、ここでは着物で過ごしてみたくなります。棚や欄間に施された花の模様がとってもお洒落で可愛らしくて、ここから見えるお庭の景色がこれまた…

 

 

 

 

 

― 古いガラス越しに見る景色、どの季節も素晴らしい!

ところで庭の手入れや建物の掃除は、どなたがされているのでしょうか。

 

山内館長:私ともう一人の職員、それから庭専門の方が一人の、3人でやっています。夏は草が勢いよく生えますし、建物内には虫やホコリが常に入ってきますから、掃除は大変ですね。ガラス戸も格子なので、拭くのが本当に大変なんですよ。

 

― こんなに広いのに、たった3人で(うち2人は他の業務も行いながら)この美しさを保っているとは驚きです!

 

山内館長:ところで、この壁にある窓は何だかわかりますか?

 

開けても外が見えない小さな窓が壁に…?

 

 

― えーと…あ!わかりました。雨戸を動かす時に使う小窓ですね。

 

山内館長:正解です。戸袋の模様も凝っているので、あとで外から見てください。続いてこちらが応接室です。

 

 

正玄関の一番近くにある応接室:20㎡(12畳)

 

 

山内館長:板の間に床の間。和洋折衷です。講堂、休憩室、応接室の床板は、全て模様が違います。

 

 

左:講堂の床、右上:応接室の床、右下:休憩室の床

 

 

― 本当だ!これまたお洒落ですね〜。

 

山内館長:それでは事務室と湯沸室、二ノ口玄関(西寄りの玄関)の前を通って、和室棟へ行きましょう。

 

 

談話室:63㎡(38畳)、和室:33㎡(20畳)✕3部屋、食堂などが横一列に並ぶ

 

時代に合わせ、机と椅子が並べられた部屋もある。(和室のうち1室は板張り)

 

 

― お部屋からは山々の景色が、廊下からは裏庭が見られていいですね〜。気持ちよく過ごせそうです。

 

山内館長:和室は日当たりが良いので、冬でも暖かいですよ。

 

 

食堂兼多目的室:50㎡(30畳)

 

食堂:60㎡(36畳)

 

 

― 階段を3段下って、食堂にやってきました。今までとは雰囲気が違い、「改修しました!」という感じですね。

 

山内館長:梁やガラス戸は建設当時のものです。かまどを使っていた時代の最後の煙突も残されています。

 

 

最後の煙突

 

厨房

 

― 厨房は改修工事でプロ仕様に生まれ変わっていますが、このご時世で使われていないようですね。これから有効活用できますように!

他にも改修工事で大きく変わった所といえば、トイレでしょうか。

 

山内館長:はい。トイレは最新式で個室がとても広く、オストメイト対応の多目的トイレもあります。館内全てバリアフリーとはいきませんが、車いす用の出入り口から多目的トイレまでは段差なく行けますので安心してご利用いただけます。

 

― これで建物の一番西まで来ましたね。お伝えしきれなかった注目ポイントの写真を最後に載せますので、ぜひ皆さんも社会教育館に来て、撮影場所を探してみてください。これから咲く桜やツツジも綺麗ですよ〜♪

 

 

 

山内館長、お写真の提供もありがとうございました!

 

 

 


 

 

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驚きの使用料!?見学なら無料で予約不要♪

 

 

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こんなに立派な建物なんだから、使用料がお高いんでしょ…?と思われるかもしれませんが、とってもリーズナブルなんです!

 

 

富岡市外の方が使用する場合は上記の3倍の料金がかかりますが、それでもお安いですよね。

ぜひ富岡に来て、社会教育館で贅沢なひとときを過ごしてください☆

 

 

【富岡市社会教育館】

開館時間:8:30~17:00
休館日 :月曜日・祝日・年末年始

 

社会教育館 | 富岡市ホームページ

【国登録有形文化財】社会教育館 | しるくるとみおか 

 

 


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(ナカヤマ)

 

 


 

 

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