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まゆといと

2023.01.24 建築シリーズ

ここがすごいよ富岡の建物《第6回》富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館

富岡市内の建築物について素人目線で学ぶシリーズが、2年ぶりに帰ってきました!

過去の記事をまだ読んでいない方は、ぜひこの機会にご覧ください👀

 

まゆといと建築シリーズ 記事一覧

 

 

第6回は、もみじ平総合公園に建つ『富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館』に迫ります。

 

案内役は、公共建築に詳しい元県職員の新井久敏さんと、富岡市文化課職員の星野さん

あまり知られていない美術博物館のあんな場所やこんな場所もお見せしちゃいますよ♪

 

 

新井久敏さん(左)と職員の星野さん(右)

 

 

 


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出目地加工のコンクリート壁が凄い!

 

 

新井:この建物は富岡市がプロポーザルを行い、柳澤孝彦氏の設計で1995年に完成しました。柳澤さんは新国立劇場や東京都現代美術館など、ホールや美術館を数多く手掛けた建築家です。

 

ー 有名な方の作品なんですね。連続するカマボコ型の屋根がとても印象的です。

 

星野:周囲の山と調和するようにデザインされたそうですね。

 

新井:過去に紹介した建物もプロポーザルによるものです。提案内容を審査するプロポーザルで選ばれる設計者は素敵な建築をつくってくれますね。

 

 

プロムナード

 

 

ー では入り口から見ていきましょう。ここに立った時点で、市立の美術館にしてはずいぶん立派な建物だな〜と感じます。

 

新井:圧倒されますよね。完成当初は通路の両脇に水が張られていて、今までの富岡にはない建物だなという印象でした。

 

ー 今は砂利が敷き詰められていますが、以前は水が張られていたんですね。

 

新井:ここに限らず、水を張るのをやめた施設はたくさんあります。循環やろ過の設備にお金がかかるのですが、少し残念な気持ちです。見て欲しいのは、このコンクリートの壁。目地が引っ込んでいるのではなく、出っ張っていますよね。これを作るのが大変なんです。

 

 

杉板の木目と出目地加工が特徴的なコンクリート壁

 

 

新井:一般的にこのような壁は、板で作った型枠にコンクリートを流し込んで作ります。ここでは、出っ張りの断面が三角形になるように削った細い杉板を組み合わせて型枠を作っているんです。型枠を外す時にも丁寧にやらないと出っ張りが欠けてしまうので、本当に施工が大変なんですよ。でも綺麗にできていますよね。県内と市内の施工者が組んで建てたわけですが、たいしたものだなと思います。

 

ー その工程を想像したことがなかったので、コンクリート壁の凄さに気づきませんでした。いつも石の壁の方が気になっていて…。

 

新井:この石はライムストーンという化石がたくさん入った石です。綺麗にアンモナイトが見えていますね。

 

 

化石がたくさん見つかる石の壁

 

 

 


 

 

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自然とのつながりを感じる中庭とロビー

 

 

エントランスホール(1階)

 

2階から見たエントランスホール上部(2階への入場は観覧料が必要)

 

 

ー 中に入ると、コンクリートと石に木の温かみがプラスされましたね。高い天井と広いエントランスホールが美術館らしくて、展示室に向かう幅広の階段を上る間に気持ちが高まっていく感じがします。では2階から見ていきましょう。

 

新井:壁際の照明が、綺麗に出目地の影を出してくれています。出目地が生きていますね。

 

星野:上の照明を交換するのが大変なんです。でも綺麗に見える効果があると言ってくださると、やりがいがあります。以前、「ここでファッションブランドカタログの撮影をさせて欲しい」といったお話もありました。

 

ー アーチ部分の光は自然光で、それがまた素敵です。そして後ろを振り返ると…開放的な大きな窓!

 

 

中庭を眺めることができるロビー(2階)

 

絵本原画展の開催にあわせ、自由に絵本を読めるスペースにしたときの様子(2019年4月撮影)

 

 

ー このロビーがとっても居心地がいいんですよね〜。コロナ禍前はコーヒーも飲めましたよね。ここで企画展のたびに開かれるコンサートも気になっています。

 

星野:コーヒーもそうですが、コロナ禍前はここに素敵な木製の椅子があったんです。消毒で傷んでしまうので今はパイプ椅子になっていますが、また落ち着いたら戻せるといいなと思っています。企画展の関連事業として行っているピアノや吹奏楽アンサンブルなどのコンサートは、着席には整理券が必要ですが、混み過ぎなければ立ち見もできます。ぜひお越しください。

中庭には自由に出られますので、どうぞ外もご覧ください。外の作品は触ることもできます。

 

 

中庭には彫刻作品が展示されている

 

木々の息吹を感じながらスロープ状の回廊を歩く

 

 

ー 丘の上に建っていることを思い出させてくれるこの中庭、季節ごとに表情が変わるので大好きです。作品の近くも自由に歩いていいんですね。ウインクしている可愛い作品があるので、読者のみなさんもぜひ探してみてください。

 

 

 

 


 

 

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アーチ型天井は難しい?いい感じ?

 

 

最も広い展示室の企画展示室

 

 

新井:美術館では「ホワイトキューブ」という白い立方体の内側のような展示空間が主流になっていますが、ここはアーチ型の天井が2つ繋がっています。するとこのように、アーチの繋ぎ目の壁に影ができてしまうんですよね。これは展示には苦労するでしょうね。

 

星野:そのためスポットライトをつけて影を消す工夫をしています。また、天井のスクリーンを開けると自然光が入るようになっていますが、自然光は絵画にはよくないため、まだ自然光を生かした展示は行ったことがありません。

 

ー そうですか…作品の配置を考えるのも難しそうですね。

 

 

企画展示室

 

 

星野:どの作品をどこに並べるかは毎回学芸員が考えています。企画展によっては、展示の趣旨に合わせてパーテーションでお部屋のように分けるときもあります。

 

新井:天井が低くなっている部分を効果的に使った展示も以前ありましたね。展示はしづらいかもしれないけれど、うまく使えば面白くなる。それにこういう曲面がある空間って、やわらかくて、なんだか和みますよ。

 

星野:この空間を気に入って、「ここに自分の作品を展示したい」と話される作家さんもいらっしゃいます。こういったつくりだからこそ、地方の美術館でも興味を持ってもらえるのだなと感じています。

 

 

常設展示室:小企画展になどに利用される 

 

福沢展示室1:郷土の作家・福沢一郎の作品展示を行う

 

福沢展示室2:福沢一郎のアトリエを忠実に再現

 

福沢展示室2:福沢一郎の小品が並ぶ

 

福沢展示室3:福沢一郎の迫力ある大作が並ぶ

 

 

ー 福沢展示室もたまに展示替えがあるので面白いですよね。ここで福沢一郎さんの作品にいつも触れていたので、県外の美術館で福沢さんの大きな作品を目にした時には「嬉しい」「誇らしい」という気持ちになりました。

 

星野:それはよかったです。この施設は郷土の作家を伝えるという役目がありますので。

 

新井:地方の美術館はどこも苦しい状況だけれど、そう考えると存在価値がありますね。

 

 

 

 


 

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こんなお部屋もあります!

 

 

郷土資料展示室(2階)

 

星野:美術博物館という名前の通り、この施設には博物館部門もあります。郷土資料展示室には1万年以上前から現在までの富岡の歴史を伝える資料が並んでいて、こちらも一部ですが展示替えを行っています。

 

 

ある仕掛けが…

 

富岡市とその周辺の考古・歴史民俗資料を展示

 

 

星野:古墳時代のお祈りの様子を再現した埴輪もありますよ。

 

ー 埴輪、可愛いなぁ…。自分が住んでいる場所のことなので、歴史が苦手でも頭に入って来やすいですね。それでは1階のお部屋も見ていきましょう。

 

 

市民ギャラリー

 

創作室

 

視聴覚室

 

 

ー 市民ギャラリーは2階の展示室と同じつくりで、サークルなどの活動発表の場としては十分な広さですよね。創作室と視聴覚室の存在は知らない人も多いと思いますが、何に使われているんでしょうか。

 

星野:市民ギャラリーで展示を行う団体が控室として利用したり、書道の体験会を行ったりしています。富岡市民は1日1,050円で使用することができますよ。

 

ー 安い!!ちなみに市民ギャラリーの方は…えっ!市民は1日6,400円で借りられるんですか!?これは使わないともったいないですね。

ところで、本が並んでいるこちらのお部屋は?

 

 

図書室

 

 

星野:図書室です。開館中はいつでも利用できるので、ここで勉強をしている方もいらっしゃいます。本の貸し出しは行っていませんが、この中での閲覧であればご自由にどうぞ。

 

ー 自分では買えないような美術書がずらりと並んでいて、自由に読めるなんて最高じゃないですか!

企画展の開催期間になると、エントランスホールではショップの商品が増えたりワークショップが行われたりと華やかになりますよね。1階は無料で入ることができるので、市民のみなさんにどんどん利用してもらいたいなと思います。

 

 

ショップは普段は壁際の商品のみ。企画展によって関連書籍や雑貨が並ぶ。

 

エントランスホールの一角は「びはくワークショップ」の会場に。

 

 

【展覧会&ワークショップ情報】

◇「コレクション展 ―大地をみる―」「山田沙奈恵展 トポフィリア」

◇「びはくワークショップ the 3rd」

◇「令和4年度富岡市内出土品展〜DOKI&LIFE〜」

 

 

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《おまけ》収蔵庫もお見せします!

 

 

なんと今回、普段は見ることのできない収蔵庫も見学させてもらうことができました。

富岡市立美術博物館の収蔵庫は3つ。靴を脱ぎ、大きくて重い扉の向こうに入っていくと…

 

 

収蔵庫1

 

 

木に囲まれた、なんて静かで快適な空間!

それもそのはず、作品を最良の状態で保管するために常に温度・湿度が調節され、清浄な空気が保たれていて、整理整頓もきちんとされているのです。

 

 

収蔵庫2

 

収蔵庫3

 

 

絵画、彫刻、書物に写真、化石や民具…

膨大な数の資料の中には、「貴重なので見てもらいたいけれど展示が難しい」という物も。

 

収蔵庫だけでなく大きなエレベーターや展示準備の裏話も面白かったので、ぜひバックヤードツアーを開催してもらいたいな〜と思いました。

 

 

 


 

 

 

いかがでしたか?建てられてから30年近く経っているようには見えないかもしれませんが、やはりあちこちで修繕が必要なため、改修工事が予定されているそうです。

建物を残していくからには、たくさん利用したいですよね。

 

みなさんはどんな展覧会が見たいですか?どんな風に美術博物館を活用したいですか?ぜひ教えてください!

 

(ナカヤマ)

 

 

 


 

 

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