「林業に就きたいのですが、情報が少ないので記事にしてください。」
ある日、読者の方からこんなリクエストをいただきました。
確かに、富岡市の約40%は森林だというのに、身近なところで林業の話を耳にすることって少ないですよね。
すると富岡市移住コンシェルジュのハマダさんが、「林業は移住希望者からの注目度も高いんだよ。」と、群馬県の移住フェアで配られたチラシやパンフレットを見せてくれました。
富岡市に住みながら林業に従事することはできるのかな?
そもそも林業にはどんなお仕事があるの?
考えてみれば知らないことだらけの世界。
ここでみなさんと一緒に紐解いていきたいと思います!
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−はじめに− 森林の大切な役割と林業
森林は、二酸化炭素を吸収したり、山崩れなどの災害を防いだり、水を蓄えたり、様々な生物のすみかになったりと、非常に大切な機能を持っています。そういった森林の機能を維持しながら、木材を収穫することを目的とした産業が林業です。
森林の役割
森林には天然林と、人が木材生産のために作った人工林があります。(富岡森林事務所管内の民有林の56.7%が人工林です。※1)特に人工林は、手を加えずに放置したり無計画な伐採を行ったりすると、地盤が弱くなり、洪水や土砂崩れが起きやすくなるという危険があります。
林業のサイクル
『木を植えて、育てて、収穫して、使って、また植えて…』という循環をうまく続けていけば、森林は健全な状態を保つことができます。ただし苗木が木材として利用できるまでの期間は、短くても50年前後。林業は、常に100年先を見据えて取り組んでいく産業なのです。
※1:群馬県環境森林部 富岡森林事務所管内の概要より⇒ pref.gunma.jp/page/18974.html
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林業のリアルを聞いてみた!
それでは、林業にはどんな仕事があって、どんな人たちが働いているのでしょうか。みなさんの頭の中にあるのは、こんな見た目の人物像ではありませんか?
ぐんま森林・林業就業ナビ「森ワーク」トップページ⇒ moriwork.jp
ヘルメットを装着しチェーンソーを持った力強い姿。「森の中で木を切る仕事」ということは簡単に想像できます。
でも林業の仕事って、それだけではないらしいのです。
詳しいお話を聞くために、富岡市と甘楽町で林業事業を行っている【鏑川東部森林組合】の事務所へと向かいました!
「森林組合」は、山林を所有している人たちが出資して作られた協同組合です。
鏑川東部森林組合の組合員数は、現在920名ほど。
ここで働くみなさんは、組合員さんが所有する山の管理をしながら、公有林の管理など様々な事業を行っています。
鏑川東部森林組合 統括課長の小林弘典さんにお話を伺いました。
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様々な業務がある
― みなさんの仕事内容について教えてください。
小林さん:私たちの業務は、外業(がいぎょう)と内業(ないぎょう)にわかれています。外業は現場で作業を行い、内業は山の所有者さんに作業の提案をしたり、山に入る計画を立てたり、行政に提出する書類の作成などをしています。
事務所で働く内業担当のみなさん
― よく写真で見るのは外業の方々で、事務仕事をする内業のみなさんとの両輪で成り立っているんですね。現場のお仕事というとチェーンソーで木を切っているイメージが強いのですが、実際はどうですか?
小林さん:実際はちょっと違って、春先から秋口は主に草刈り業務になります。山林が中心ではありますが、市から発注された公園、水源の管理道など、様々な場所の草刈りを行います。秋口から冬にかけては、県から発注された山林の間伐をしたり、手入れが行き届いていない山林の手入れをして、木材を切って市場に出し、山の健全化を目指しています。
ー 草刈りを行う期間が長いんですね。では内業のみなさんは主にデスクワークでしょうか?
小林さん:パソコンソフトを使った作業がメインですが、営業活動をしたり、山の中を歩き回って境界確認をすることもあります。万歩計が2千歩の日もあれば2万歩の日もあるという感じですね。
―「境界確認」というのは、どこからどこまでが自分が所有する山林かという境界線の確認を頼まれるということですか?それってハッキリとわかるものなのでしょうか?
小林さん:わかりません。でも木の間隔の違いなどから、境界線が見えてくることがあるんです。あとは所有者さんに見てもらって、納得したところが境界線になります。それから、誰が所有者かわからなくなってしまった山林の、所有者の探索を頼まれることもあります。どちらも宝探しゲームのようなものですね。こういった仕事はこれからどんどん増えていくと思います。
森林の測量はIT化により小型の機器で効率的にできるようになったそう。
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どんな人が向いている?資格は必要?
― 内業のお仕事は、パソコンが使えて、地図ソフトがいじれて、宝探しが好きな人にはピッタリですね。では現場の方ではどんな方が働いていらっしゃいますか?
小林さん:現在は転職組が多いです。以前働いていた職場に比べて「残業がないので自分の時間が確保できる」「健康的である」という部分に惹かれて転職した人もいれば、「木を植える男」という本で林業に興味を持って都会からIターンした元エンジニアもいます。私自身は、「富岡にUターンをして地に足のついた仕事をしたい」「スキルアップして山の中を駆け回りたい」という理由でこの業界に入りました。
―「自然の中であまり人と関わらない仕事をしたい」という理由で林業に注目している人もいると思いますが、その辺はどうですか。
小林さん:人とのコミュニケーションがあまり必要ないと思っている人もいますが、実際は必要です。作業を安全に行うためにも、作業者同士のコミュニケーションが大切なんです。他にも「こんなはずじゃなかった」とならないように、仕事には事故のリスクがあること、大手の会社に比べれば給料は高くないこと、生涯年収はどう設定するのかなど、就職希望者の方には最初に確認しています。
― 大切なことですね。ところでみなさん、様々な講習を受けて資格を取得していると思いますが、それらは就職してからでも大丈夫なんでしょうか。
小林さん:はい、大丈夫です。「緑の雇用 ※2」という制度があります。
※2:林業経営体に採用された人に対し、講習や研修を行うことでキャリアアップを支援するという制度です。研修年次に応じて研修の内容をステップアップさせ、さまざまな技能を身につけられるよう体系的な研修プログラムが用意されています。⇒ RINGYOU.NET
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厳しさの中にも喜びがある仕事
― お仕事の難しさと、やりがいを教えてください。
小林さん:現場での作業はよほどの悪天候でない限り、雨が降っても行います。暑さと寒さ、自然環境の厳しさを肌で感じるところは、魅力でもあり過酷なところでもありますね。また、仕事の成果がそのまま目に見える形で残るので、嘘がつけないし、言い訳がききません。作業をして景色が綺麗になった時の喜びや、アスリート的な自己研鑽に励むことができるのも魅力だと思います。
内業としては、山林所有者の方とお話しした時に喜んでくれていたり、感謝の言葉をかけてもらえた時にやりがいを感じます。減災や水資源の確保、CO2の削減に貢献できているという誇りも持つことができます。
― 自分のためだけでなく、未来の人々のためになるお仕事ですよね。
小林さん:先祖代々引き継いでいるものを良い状態で次の世代へと繋ぐお手伝いができて、脱炭素といった世界的に求められていることにも重要な役割を果たす、最先端の職種だと思います。
― 林業に関心を持つ人が増えていくといいですね。
小林さん:鏑川東部森林組合としては、まずは今の従業員が満足して働ける職場にするのが一番の目標で、ゆくゆくは子ども向けの「森林環境教育」や「父親の仕事場見学会」といったこともやっていきたいと考えています。
小林さん、ありがとうございました!
就職をお考えの方は、ハローワークをチェックしてみてくださいね。
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実は幅広い!森林・林業に関わる仕事
〈林業経営体〉
植栽や手入れ、伐採、素材の生産など林業に関する業務を行う組織で、森林組合(群馬県内に15組合)、協同組合、株式会社などの法人、個人事業主、一人親方などがあります。
〈公務員〉
・群馬県庁(森林職):専門職として県内の民有林の保全や整備、林業の産業振興などの業務を行います。
・林野庁:国家公務員として、国有林の経営、管理、保全の業務に携わります。
・市役所、町村役場:一般行政職として、森林・林業に関する業務に従事します。その他の幅広い業務にも携わります。
〈原木しいたけ栽培農家〉
原木しいたけの栽培は、原木となる広葉樹の切出しから始まります。希少価値の高い農作物の栽培と、山の管理・整備がセットになっている仕事です。甘楽富岡地域は原木しいたけの栽培農家が多い地域ですが、担い手は減少しています。
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「森ワーク」で情報収集!
林業について「もっと詳しく知りたくなった」というみなさん!
群馬県では、県内の認定事業体の情報、林業についての情報、林業で働きたい方への情報、就業支援などの情報を発信しています。
イラストや写真つきでわかりやすく解説されていて、働いている方の一日のスケジュールを知ることもできます。
就業に関して更に詳しく知りたい方は、群馬県林業労働力確保支援センター または各事業体までお問い合わせください。
私たちの生活に大きく影響しているにも関わらず、初めて知ることがたくさんあった今回の取材。
林業について調べると、必ず “衰退” という文字を目にして少し暗い気持ちになってしまうのですが、小林さんのお話の中で「山林を所有することの“誇り”を作りたい。」「困った時に自分たちで自分たちの地域を守る、コミュニティの実働部隊として存在していきたい。」といった言葉を聞き、未来への光を感じることができました。
緑が豊かなことは、富岡市の魅力の一つですよね。
市では林業振興の一環として、令和4年4月1日以降に出生した赤ちゃんへ市産材(ひのき・富岡木材組合製作)の積み木をプレゼントすることになっているそうです♪
みなさんもこの機会に、身近な森に目を向けてみませんか?
(ナカヤマ)