富岡市の暮らしと移住のWEBマガジン
まゆといと

2022.07.13 移住・Uターン

染色アーティスト 大竹夏紀さん

絹の布に鮮やかな色彩と滑らかな線で描かれた、美少女と花。

まばゆい光を放つその姿からは、明るく前向きな感情と、内に秘めた芯の強さが伝わってきます。

 

「ろうけつ染め」という伝統技法を用いてそれらの作品を生みだしているのは、富岡市出身の染色アーティスト・大竹夏紀さん

大学卒業後から国内外で作品を発表し、2010年には東京モード学園のTVCMに起用され話題になりました。

 

私にとって大竹夏紀さんは、“身近な人だから見てみよう” という動機でアートに触れることの楽しさを、最初に教えてくれた人。

10年以上前から知っているけれど、「今」の大竹さんを知りたい。そしてみなさんにも知ってほしい。そう思い、大竹さんが富岡市内で個展を開くタイミングでお会いしてきました。

 

ろうけつ染めのこと、大竹さんが今考えていること、客観的に見た大竹さんの作品の魅力…。

8月に開催される個展情報もありますので、ぜひ最後までご覧ください。

 

 

 

 

【大竹 夏紀(おおたけ なつき)さん プロフィール】

1982年富岡市出まれ。多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻卒業。同大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。染色の伝統技法「ろうけつ染め」を用いて絵画を制作し、2008年より国内外で発表を行う。2011年に富岡市内にアトリエを構え、現在は母校での非常勤講師を務めながら、精力的に制作活動を行っている。

 

 

 


 

 

 

絹✕ろうけつ染めで表現する鮮やかな世界

 

 

まずは、大竹さんが作品の制作に用いている「ろうけつ染め」という技法についてご紹介します。

 

「ろうけつ染め」は、溶かした蝋(ろう)を布に染み込ませることでその部分を白く染め抜く、手描きの味わいが魅力の伝統的な染色技法です。

 

今年5月に行われた『ろうけつ染めワークショップ』の様子を参考に、その手順を見ていきましょう。

 

 

 

 

①布を木枠に張り、下書きをする。

②溶かした蝋を含ませた筆で下書きをなぞり、布に蝋を染み込ませる。(完成時にその線の部分が白くなります)

 

 

蝋はすぐに固まってしまうため、スピード感が大切。

 

細い線を描く場合は、筆ではなく「チャンチン」という道具で蝋を引く。

 

 

③水で溶いた染料と筆で布を染め、乾かす。

 

 

布に水を含ませてグラデーションを出すこともできる。

 

 

④布を新聞紙で挟んでアイロンをかけ、蝋を新聞紙に吸わせる。

⑤蒸して染料を布に定着させる。

⑥洗浄し、乾かして完成。

 

 

ワークショップ参加者の作品(大竹夏紀さんTwitter より)

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大竹さんはほどんどの作品で、絹の布を使用しています。その理由は、絹の光沢と鮮やかな発色が「キラキラした理想のアイドル像を描くのに最適だったから」だそう。写真では伝わりづらいですが、実物を間近で見ると本当に “光” を感じます。

 

こうして「ろうけつ染め」によって理想のアイドル像を表現し続けてきた大竹さん。ですが最近、描きたいものに変化があったそうなのです。

 

 

実物を見ると、繊細な手仕事ならではの迫力も感じられる。

 

 

 

 


 

 

自分の枠を外すための一歩

 

 

大竹さんにお話を聞くために訪れたのは、群馬の手仕事を紹介するお店『はるもにあ』。こちらで開催された個展「源氏物語 香(かぐわ)しき姫君」の最終日にお邪魔しました。

 

展示されていたのは、お香づくりの専門家である香司・関根真理さんとのコラボによって生まれた作品たち。白い壁に華やかな作品が並んだ店内には、素敵な香りが漂っていました。

 

 

源氏物語に登場するヒロインの中から選んだ5人の姫君を、大竹さんは髪と瞳だけで表現。香司の関根さんがそれぞれのイメージで調合した香袋とともに展示された。

 

 

今回、源氏物語に登場する姫君を描いた大竹さん。これまでは「理想のアイドル像」をモチーフとして描き続けていたのに、なぜ物語の中の人物を描いたのでしょうか?

また、アーティスト活動においての東京と群馬の違いなど、気になっていたことを聞いてみました。

 

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― 源氏物語のヒロインを描いた今回の個展はいかがでしたか?

 

大竹さん:目的を達成することができました。というのも、2〜3年前からテーマを「理想のアイドル像」から「理想の女神像」にしようと考えているんですが、いきなり女神様を描くのは畏れ多いので、まずは「高貴なお姫様」を描いてみたかったんです。

はるもにあ店主の熊倉さんから関根先生を紹介していただいたことで、日本文化に造形が深い方のお話を聞きながら制作することができ、本当に良かったなと思っています。

 

 

個展期間中に行われた大竹さんと関根さんのトークイベント。二人の最初の出会いは、『はるもにあ』の店内だったそう。

 

 

― 女神様を描くためにお姫様を描く必要があったんですね。関根さんとのトークイベントも興味深いお話ばかりで、私は源氏物語もお香の世界も全く知らなかったんですが、これをきっかけにもっと知りたくなりました。

 

大竹さん:ありがとうございます。今回、香りがプラスされたことで知識が立体的になったように感じましたし、関根先生の豊富な知識や話し方なども、とても勉強になりました。自分が普段いるフィールドの外の人と接すると、発見が多いですね。新鮮で、得るものがたくさんありました。

これからも、自分が知らないことを知る専門家のお話を積極的に聞きに行き、取り入れていこうと思っています。

 

― 私も大竹さんを通していろんな世界を知ることができると思うとワクワクします。作品が変化していく過程をリアルタイムで追えるのも嬉しいです!

 

 

ろうけつ染めとは異なる染色技法「友禅染め」でプリンセスを描いた作品。

 

 

 

 

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東京から群馬に帰って思うこと

 

 

― 大竹さんが非常勤講師を務めている母校・多摩美術大学の学生さんも、この個展を見るために富岡まで来てくれたそうですね。大竹さんの現在のお住まいは藤岡で、アトリエはご実家の富岡。東京から群馬に戻ってきて、何か感じたことはありますか?

 

大竹さん:作家として活動していくにはとてもいい場所だと思います。群馬県には『中之条ビエンナーレ』や『高崎アートプロジェクト』など活躍の場が常にあって、他のアーティストからも「群馬は発表の場が多くていいね」と言われるんです。

商業的にやりたい人にとっては都会がいいかもしれないけれど、自分のつくりたいものをつくって見てもらいたい人には田舎はいいよと、学生たちにも言っています。

 

― 意外と群馬はアーティスト活動に適しているんですね。ところで大竹さんが作品に絹を使用する理由には、富岡出身ということも少しは関係があるんでしょうか?

 

大竹さん:それは偶然で…(笑)。私たちの世代にとって富岡製糸場はただの工場で、まさか世界遺産になるなんて夢にも思わなかったですから。

2011年の震災の年に東京から地方に流れるアーティストがたくさんいて、私もその年に帰ってきたんです。その頃ちょうど富岡製糸場の世界遺産登録の動きがあって、帰ってすぐに絹関係のお話が来るようになりました。ありがたいですね。

 

 

富岡シルク100%のシルクスカーフとシルクストールは、富岡市ふるさと納税の返礼品にも採用されている。

 

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富岡シルクとコラボしたグッズが販売されたり、ワークショップが開催されたり、作品を見るために遠方から訪れる人がいたり…。富岡に住む人間として、大竹さんが地元を拠点に活動してくれることを嬉しく思います。

 

地元を愛する大竹さんに「好きな場所は?」と尋ねると、「レストラン・エルのフライドハンバーグ、美味しいですよね!貫前神社も初詣で行くので好きです。子供の頃は、田篠の雄川でいつも遊んでいました。めちゃくちゃ楽しいんですよ!」と答えてくれました。

 

なんと、田篠地区の人たちがお祭りでハッピの下に着ているシャツは、大竹さんのデザインなんだそう。次の「富岡どんとまつり」は要チェックですね。

 

 

 

 


 

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故郷で応援!大竹夏紀ワールド

 

 

大竹さんの個展会場となった『はるもにあ』の店主、熊倉さんにもお話を伺いました。

 

 

宮本町通りの『はるもにあ』。正面ガラスには、大竹さんが描いた鳳凰の絵が常時飾られている。

 

 

― お店で大竹さんの個展を開催するようになったきっかけを教えてください。

 

熊倉さん:もともと大竹さんの存在は知っていましたが、美術館に展示された大きな作品しか見たことがなかったので、自分のお店で飾るなんてことは考えもしませんでした。

ですがある日、市内にお住まいの方から「大竹さんの作品をお店に飾ってはどうか」と声をかけられたんです。「小さいものもあるのよ」と。

そこで大竹さんに相談してみたところ、小さい作品もあるということで、展示が始まりました。お店で最初に個展を行ったのは令和元年で、今年で3回目です。

 

 

お店では個展期間外でも大竹さんの作品やグッズに出会える。

 

 

― 大竹さんの作品をたくさんの人に見てほしいという、市民の方の想いがあったんですね。

 

熊倉さん:いろんな方の気持ちをいただいて、市民のみなさんに楽しんでもらえればと思って展示をしています。

今回は銀座通りの『花見せんべい』さんもこの個展に合わせて、ご自分で所有している作品を店内に飾ってくださいました。なので遠くから来たお客さんには、「ぜひおせんべいを買って帰ってください」と言ってお店を紹介したんです。

こんな風に今後、大竹さんの作品を持っていらっしゃるお店が増えて、お客さんが大竹さんの作品を見て回るようになったら楽しいですよね。

 

 

『花見せんべい』に行ってみると…大竹さんの作品が!

 

 

― 今回もたくさんのお客さんが訪れていましたが、熊倉さんから見て、大竹さんの作品の魅力はどんなところにあると思いますか?

 

熊倉さん:日本の漫画やアイドルといった文化を、きちんとした作品に仕上げているところ。絹とろうけつ染めの技法が、大竹さんの世界にうまくマッチしたのだと思います。

それに、アートを部屋に飾るのはハードルが高いと感じる人も多いですが、大竹さんの作品は入りやすいんじゃないでしょうか。

大竹さんの特徴として、ファンの年齢層が幅広いんです。絵を買う人は、おばあさんから若い人まで本当に老若男女。世代に関係なく、人の気持ちに明るい空気を流し込んでくれる作品なんだと思います。

 

 

いつも楽しそうにお客さんと話す大竹さん。気さくな性格も魅力のひとつ。

 

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富岡市観光協会主催の『ろうけつ染めワークショップ』に参加された方々も、実に幅広い年齢層だったことが印象的でした。「また来年もワークショップのタイミングで個展を開催しようと思っています」とのことなので、みなさんも楽しみにしていてくださいね。

 

はるもにあ ホームページ

 

 

 

 


 

 

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今後の展覧会

 

 

『大竹夏紀・染色絵画展』

期間:8月3日(水)〜8日(月) 10:00〜18:00 ※最終日は14:00まで

場所:高崎髙島屋5階アートギャラリー

お問い合わせ:027-330-3958

 

その他のお知らせはホームページをご覧ください。

 

大竹夏紀 ホームページ

 

 

 


 

 

 

 

 

アートに触れるなら田舎より都会。そんなイメージはありませんか?

確かに都会の方がアートに触れる機会は多いかもしれません。けれど私は富岡に来て、アート鑑賞がより身近なものになったと感じているんです。

 

その理由のひとつは、富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館 富岡市立妙義ふるさと美術館 、頻繁に展覧会が行われる 富岡製糸場西置繭所多目的ホール 、敷居の低い私設ギャラリーなど、日常の中で気軽にアート鑑賞ができる場所の存在

もうひとつは、大竹夏紀さんのような郷土ゆかりの作家たちの存在です。

 

自分の好みや知名度に関わらず “近所だから” という理由で展覧会へ行く→作者のプロフィールに「富岡」や「群馬」の文字を見つけて親しみを覚える→次にどこかで作品を見た時に「この作者さん私知ってる!富岡のあの人!」と嬉しくなる…

この流れが結構楽しいんです。

 

みなさんも親戚の作品を見に行くような気分で、展覧会に足を運んでみませんか?「アートは敷居が高い」と思っている人も、新しい扉が開くかもしれません。

 

 

(ナカヤマ)

 

 


 

 

陶芸家 萩原 将之(はぎわら のぶゆき)さん

とみおか習いごとめぐり No.07 「日本画&水彩画教室」