上州富岡駅の目の前に佇む岡田新聞店は、昭和3年創業の新聞屋さん。
このお店を11年前に継いだのが、三代目店主の岡田大輔さんです。
私にとって岡田さんといえば、 “市内のイベントでばったり会う人” 第一位。
お互い地域の情報発信に携わる立場として、似たアンテナを張っているんだなぁと感じることがよくあります。
そんな岡田さんが何やら新しいことを始めるらしい…と小耳に挟み、詳しいお話を聞かせてもらうことに。
何度もお会いしているにも関わらず、お店にお邪魔するのは今回が初めて。
せっかくなので、普段のお仕事のことや、お店のこれからについて考えていることなど、たくさんお話を伺ってきました。
【岡田 大輔(おかだ だいすけ)さん】
岡田新聞店の三代目店主。45歳。大学進学のため東京に移り住んだ後、富岡に戻り家業に従事。2011年に家業を継ぐ。祭りを愛する生粋の富岡っ子。趣味は多岐にわたり、中でもトランペットは小学生の頃から続けている。三児の父。
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「バイクレンタル始めます」
― 岡田さん、バイクの貸し出しを始めるという噂を聞いたんですが。
岡田さん:かなり前から考えていたことなんだけどね。今コロナ禍でバイクが流行っているから、乗りたいけれど場所やお金に余裕がなくて買えない人や、ちょっと気分転換に乗ってみたい人もいるんじゃないかなと思って。
― それってもしかして、新聞配達用のバイクを貸し出すんですか!?確かに今バイク人気が再燃していて、特にスーパーカブは大人気らしいですね。しかも「新聞屋さんのカブ」は特別なので、乗ってみたい人はたくさんいると思います。
50ccのスーパーカブ以外にも、ホンダとヤマハのスクーター、110ccのスーパーカブがある。
岡田さん:原付だから高速道路には乗れないけれど、新聞屋さん仕様で前カゴも荷台も大きいから、途中で買い物をしても余裕で持って帰れる。車で狭い道を走ったり駐車するのが苦手な女子とか、電車で富岡まで来て妙義方面へ遊びに行きたい人、あとは長期出張で富岡に来ている人に足として使って欲しいなって。
― 原付なら、車の普通免許があれば運転できますもんね。
岡田さん:運転したことがなくても、乗り方は教えます。バイクに興味がある人なら10分〜15分で乗れるようになると思う。新品のヘルメットもあるので消毒して貸し出せるし、“お気に入りのメット作りワークショップ” を開催して、マイヘルメットだけ持ってきてもらうのもいいかな。
― マイヘルメットを小脇に抱えて「今日も借りに来ましたー」みたいな感じ…いいですね。
取材に同行したAさんと一緒に運転に挑戦。緊張しながらアクセルを回す。
バイク初体験のAさんの場合は、30分ほどで乗れるように。
低燃費でタフ。大きな荷台とカゴ、さらにグリップヒーター付きなのが嬉しい。
― 今試しに運転させてもらいましたが、一般的な原付に比べて車体が重く感じました。でもそのぶん安定感があります。スクーターなら女性でも運転しやすいですし、慣れてしまえばとても便利で楽しい乗り物ですよね。
岡田さん:地域のお客さんにも、外から来た人にも、気軽に使ってもらえるような価格でやりたいなと。これから看板を作ったりして、春頃から始めようと思ってます。
― 生活の幅も観光の幅も広がっていきそうですね〜。
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温もり伝わるアナログの情報発信
― お店のホームページを拝見して知ったんですが、新聞配達と折込チラシ以外にも様々なサービスがあるんですね。高齢者の見守りとか、花の球根を買うことで寄付ができる取り組みとか。あと、『探しものお手伝い』って一体何ですか?
岡田さん:『探しものお手伝い』は、「お店をタウンページ代わりに使ってください」というもの。例えばお客さんから「家を修理するのにどこに頼んだらいい?」と聞かれたら、知り合いの板金屋さんを紹介してあげたり。お客さんがわからないことや困ったことを、近所の他のお店と協力して解決していけたらいいなって。地元なのでそれなりにネットワークはあるし、こっちで商売を継いだ仲間もたくさんいるので。
― 岡田さんの同級生が継いでいるお店の名前を伺ったら、たくさんあって驚きました。ところで岡田さんは、なぜ富岡に帰って新聞店を継ぐことになったんでしょうか?
岡田さん:俺の場合は大学卒業後も学校に残ってたんだけど、いろいろあって、逃げて帰ってきた感じで…。父親からは「継がなくていい。好きなことをやればいい。」と言われていたけど、なんとなく頭の片隅には家業のことがあったんだよね。性格がのんびりしてるんで、時間の流れは富岡が合っているんじゃないかな。
― お店で発行しているニュースレターも、柔らかい空気感でいいですね。
新聞に折り込まれる、岡田新聞店発行のニュースレター。題字はお子さんが書いたそう。
配達員さんの趣味の話や身の回りで起きた話など、ローカルな話題が読者に人気。
岡田さん:もともと父親が「まごころ通信」という名前で不定期でやっていたものを、読み物中心の「おかだしんぶん」と、宣伝中心の「まごころ掲示板」とに分けて毎月発行してます。「おかだしんぶん」は自分含めスタッフが書いたことを載せていて、お客さんの家のお花を紹介したりとか、趣味の話とか…
ー スタッフさんの似顔絵もありますね。新聞を取っていても配達員さんと顔を合わせる機会は少ないので、これを読むことで存在がぐっと身近に感じられます。
岡田さん:似顔絵は後輩が描いてくれたんだけど、実際に会ったお客さんが「あの似顔絵の人だ!」ってなるくらい似ていて(笑)。花の球根を購入したお客さんから、「花が咲いたから撮りに来て」と言われて撮影しに行くこともあったり。
― 私もご本人に会ってみたくなりました。こちらの手書きのお便りは…?
お客さんからスタッフのみなさんへの手書きメッセージ。
メッセージは全てノートに貼り付けて保管しているそう。
岡田さん:回収する古新聞に貼り付けてもらう紙にメッセージ欄があるから、いつもお客さんが書いてくれて。最近は面と向かってお礼を言われることが少なくなったから、これを見るとやっぱり嬉しいね。
ー アナログって、あたたかい気持ちになりますね。
岡田さん:以前は他のお店でもニュースレターを作っていたけれど、みんな辞めてしまって。だからこそ、うちは細々と続けていきたいと思ってます。
「みんなに楽しんでもらえることを考えたい」
― それにしても、遊び心があるお洒落な事務所。ここに集まって何か楽しいことができそうですね。
岡田さん:火曜日はここでドリームさんのパンを販売していて、かりんとうだって売ってるし、そこのクラシックのCDは貸し出しもしてます。「ここに来ると趣味が広がる新聞屋さん」って感じで、スタッフの趣味を持ち寄って部活動もやりたいし、店の奥でプラモデル屋さんもやってみたいなーとか、いろいろ考えてはいて。でもなかなか一人じゃできないので、一緒にやってくれる人がいればぜひ。
宅配パンもやりたいし、いろんな地域のお店とつながっていきたい。何かうちがやれることがあったら、みんなに教えてもらいたいと思ってます。
― やってみたいことがたくさんあるんですね。
岡田さん:昔みたいに、突然家に「新聞とってくれませんかぁ?」とかって知らない勧誘の人が来ても嫌でしょう?昼間そういった仕事をしないとすると、お客さんに楽しんでもらうとか、地域の人に楽しんでもらうことを充実していった方が面白いかなと。紙の新聞の読者数は減っていくことが確定しているので、そっちばかり見ているとしんどいし、楽しい話の方がいいなって。
父親から店を継いで10年。最初は取引先の信用を得ることを優先していたけれど、今はやりたいことをやって、もう辞めてくださいと言われたら引っ込めばいいと考えられるようになった。結婚をして、奥さんの実家の農業を継ぐっていうのもありかなと思ったら、腹が決まったのかな。
もしかしたらここ、新聞屋さんじゃなくてガレージになってるかもね(笑)。
岡田さんは最後に、こんなことも話していました。
「祖父がこの場所で新聞店を始めてから100年近く経つので、業界の行末を見てみたいというのもある。このまま消滅するのか、好きなことをやることで続けることができるのか。」
変化する時代の中で、生き残りをかけて模索する新聞業界。全国の新聞販売店では、既存の枠にとらわれない新しい取り組みが次々と誕生しているといいます。
それらに刺激を受けながら、自分らしい道を歩き始めた岡田さん。仲間やお客さんと一緒になって創り上げていく今後の岡田新聞店の姿から、目が離せません。
(ナカヤマ)