私だけでしょうか。市内で大学生らしきグループを目にすると、「若者がたくさんいる!!」と心の中で叫んでしまうのは…。普段見慣れていないので、なんだか嬉しくなってしまうんですよね。
若者の姿が珍しいのは、富岡に限った話ではありません。子どもの数が減っている上に、大学進学時にみんな外に出ていってしまう。これは地方の小さな市町村共通の悩みです。
そんな中、昔ながらの商店街でアルバイトをする大学生の姿が!
きっと多くの人が「店主さんのお子さん?」と聞くと思いますが、そうではありません。
実は彼ら、富岡から300km以上も離れた土地の大学に通う、それまで富岡と全く繋がりがなかった大学生なんです。
今回は、地域と人を巻き込んだインターンシップ※ を行う、東北の大学と富岡のまちとの連携についてご紹介します。
※インターンシップとは…学生が、自分の専攻や将来のキャリアと関連した就業体験を一定期間行う事。
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大学生が泊まり込みで武者修行!?
富岡のまちでインターンシップを行うのは、山形県山形市にキャンパスがある 東北芸術工科大学 デザイン工学部 コミュニティデザイン学科 に通う1年生。コミュニティデザイナー※ の卵たちです。
※コミュニティデザイナーとは…地域支援のスペシャリスト。地域のなかに入り、そこに暮らす人自身が課題を解決し、持続可能な地域づくりができるように支援します。( 東北芸術工科大学ホームページ より)
「地域留学」と名付けられたこのインターンシップは、学生が地域づくりに関わっている人たちの元へ行き、現場でその取り組みを学ぶことが目的。1年生にとっては、誰も自分のことを知らない地域に初めて飛び込む “武者修行” の場でもあります。
富岡で地域留学の受け入れが始まったのは、今から7年前。その当時開催されていた「富岡まちづくり・ひとづくりプロジェクト」から生まれた市民グループ「スマとみ」のメンバーが中心になり、受け入れを行いました。
以降、協力者の輪を広げていきながら、毎年3名前後の学生を受け入れています。(2020年度はオンラインで開催)
様々な職種の受け入れメンバーがいるため、学生が富岡で体験できる仕事も多岐にわたる。
2019年までに訪れた学生の滞在期間は、約2週間。その間の宿泊先はホテルではなく、受け入れメンバーの自宅です。ホストファミリーとなる家庭では寝床と食事を提供する代わりに、お店の手伝い、地域のボランティア活動、子どもの遊び相手といった仕事を学生に頼みます。
学生は複数のホームステイ先を転々とし、地域に関わる様々な仕事を体験していきます。やることはそれだけではありません。多くの住民に話を聞きながらまちの魅力や課題を探り、よりよいまちにするための方法を考え、それを住民に向けて提案するというミッションにも取り組むのです。
留学最終日の報告会で、滞在中に感じたことや提案を発表。集まった住民からは感想とエールが送られる。
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学生を受け入れると何が起こる?
学生たちに学びの場を提供する「地域留学 in 富岡」。受け入れ側には何かメリットがあるのでしょうか?
4年前から受け入れのお手伝いをしている私が、実際に「留学生を受け入れてよかった!」と感じたことを3つに絞ってお伝えします。
① 若者・よそ者ならではの視点に刺激をもらえる
「地域の課題を探り 解決策を提案する」と言っても、彼らはまだ大学1年生。実行に移せる提案が毎回飛び出すとは限りませんが、その視点には度々ハッとさせられます。
ずっと同じ場所で生活していると、前例や慣習にとらわれてしまったり、実現しやすい無難な方法を選びがちになりませんか?
そんな私たちにとって、住む場所も世代も全く違い、純粋さを持った学生たちの意見はとっても新鮮。そしてこれが刺激になり、「自分たちが動かなきゃ!」とやる気が湧いてくるのです。
学生からの提案をきっかけに始まり、現在続いている取り組みもあります。
2020年度の留学生・藤澤さんは、洋品店いりやま で1ヶ月間に渡るオンライン地域留学を行い、「ミシンで笑顔を増やしたい!」というテーマで成果報告を行いました。
藤澤さんが報告会で披露したイラスト
この案が元となり、いりやま店内に洋裁スペース「TSU-KU-RO部」が誕生。誰でも気軽にミシンを使ってものづくりを楽しめる場を作ったことで、地域住民の新たな交流が生まれています。
TSU−KU−RO部は毎週土曜日に開催。プロの仕立て屋さんが教えてくれるので、洋裁初心者でも安心して参加できる。
② 日本各地に親戚のような存在ができる
一軒のホストファミリーが留学生を家に泊める日数は、1人につき2〜3泊程度。寝食を共にし、たくさん会話をするうちに、まるで親戚の子を見ているような気持ちに…。富岡を離れた後も近況報告を目にしては「元気そうだな、頑張っているな」と嬉しくなってしまいます。
7年前から受け入れを行っている 朝日屋(アサヒヤ)の吉田さんにも、学生との関係性についてお話を伺いました。
吉田さんは、旦那さんと2人の娘さんとの4人暮らし。自宅の一室をほぼ毎年学生に提供してきた。
「普段大学生と関わることがないので刺激をもらえますし、みんな個性があるので面白いですよね。息子・娘ができたと思って、その後の成長はSNSを通して楽しく見守っています。将来について迷っている様子が綴られている時は、アドバイスじゃないけれど、『元気が出ない時は富岡においで』とコメントをしたり。それで何回か富岡に来た子もいます。大学を離れてもつながりが続いているのは嬉しいですよね。また機会があれば、富岡の父ちゃん母ちゃんだと思って来てもらいたいです。」
学生が家に泊まるたびに一緒に遊んでもらったという2人の娘さんは、現在高校生と小学生。地域で活動する学生と大人たちを間近で見てきた影響か、すでに地域のことを自分ごととして考え、積極的に地域ボランティアに参加しているそうです。子どもたちにとっても、貴重な体験になりますね。
③ 富岡のファンを増やすことができる
関わった学生のことを私たちがずっと気にかけているように、学生たちも富岡のことをずっと気にかけてくれています。
在学中だけでなく卒業後も定期的に富岡に通い続けている、コミュニティデザイン学科OBの柴田さんにお話を伺いました。
富岡では “しばってぃ”の愛称で親しまれている柴田さん。誰に頼まれるでもなくお手伝いをしに現れる、商店街の人気者。
「富岡は、訪れるといつも元気と学びをいただける街。富岡の人達は、いつも気にかけてくれたり、面白い話や活動をしていて、大所帯の親戚のような存在です。富岡の印象的なところは、ワークショップや催しごとに運営メンバーが入れ替わっていて、リーダーが誰なのかいい意味でわからないところ。参加するメンバーそれぞれが好きなことや趣味を持ち寄っていて、まとまりもある。いつも自由で不思議な連帯感に居心地の良さを感じます。」
柴田さんが初めて富岡を訪れたのは、大学1年生だった2014年の12月のこと。実はまだ地域留学という取り組みがスタートする前でしたが、富岡のまちに興味を持ち個人的に遊びに行ったところ、お試しで1泊2日の職場体験をすることになったそうです。
それから今までに柴田さんが富岡を訪れた回数、なんと11回!その目的は、お店の手伝いやイベントの手伝い、ワークショップへの参加など、どれも地域密着型のもの。現在住んでいるのは茨城県ですが、日帰りで来ることもあるそうです。
ちなみに私が初めて柴田さんとお話ししたのは、今年の2月に行われた エコリノベーションワークショップ でのこと。この日も茨城県からの日帰り参加と聞き、驚きと嬉しさが込み上げました。
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オンラインでもできること
新型コロナの影響で学生の行き来が難しくなってしまった昨年と今年は、富岡のまちと大学をオンラインで繋げてグループ研究を行うという、新しいスタイルの授業も実施されました。
9月に行われた「オンラインまち歩き」と「オンラインヒアリング」の様子。
オンラインまち歩き、オンラインヒアリング、オンライン飲み会にオンライン発表会…と全てが画面上で行われましたが、授業に協力した住民からは「大学生と話せてとてもいい刺激になった」、「勉強になった」という声が続出。学生のいないところでも活発な意見交換が行われたりと、様々な影響がありました。
一方参加した学生たちからは、「実際に富岡に行ってみたくなった」、「富岡のみなさんにいつか会いに行きたい」という声が。オンラインでも富岡のファンを増やすことはできる!と実感しました。
4日間の授業を終えた学生と住民で記念撮影☆
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活かせるかは住民次第
今回ご紹介したような、『地方創生人材の教育をしたい大学』と『人材不足の悩みを抱える地域』をつなぐインターンシップは、全国で増加しているそうです。
地域に大学のキャンパスを誘致するのは難しいですが、インターンシップの受け入れ態勢を整えることなら、どこでもできそうですよね。
また、企業が受け入れるインターンシップの中でも、学生が長期でプロジェクトに関わる「実践型インターンシップ」が今注目されています。
人材不足・後継者不足の問題を抱える中小企業の皆さん、ぜひチェックしてみてください。
ただ、こういった取り組みを行ったからといって、地域の魅力アップにつながったり、移住やUターンが増加するとは限りません。
住民側が「若者が来ればなんとかしてくれる」という考えだとしたら、何もうまく行かないのでは…と思います。
大切なのは、「一緒に成長していこう」という姿勢だと、地域留学 in 富岡 を見ていて感じました。
そして誰かに来てもらいたいなら、こちらから出て行くことも必要!待っているだけでは外との繋がりはできません。
受け入れ側になる前に、“受け入れられる側” を体験することも大切です。地域をなんとかしたい富岡のみなさん、まずは外の様子を見に行ってみませんか?
(ナカヤマ)