私が富岡で齊藤さんに出会ったのは、12年ほど前。
富岡に引っ越してきてまだ1年も経たない頃でした。
当時私の周りでは「移住」や「地方暮らし」といった言葉はあまり馴染みがなく、
今ほど情報もありませんでした。
そのため、東京から群馬の山間部に移住をされた齊藤さんの存在が、
とても印象的だったことを覚えています。
この場所に住むようになったきっかけや、
変化の大きな時代を経て、現在の暮らしについて感じる事、
今だから分かる事などを改めて聞いてみたいと思い、お話を伺ってきました。
【齊藤 公太郎(さいとう こうたろう)さん】
東京都出身。1999年 群馬県に移住。 群馬の山の中に工房を構える造形作家。
「木の生活」「自然を感じる暮らしのお手伝い」をテーマに、国産自然素材を使ったインテリア・木のアート・生活雑貨などを手作りにこだわって制作。主に倒木や朽木、廃材、古材などを使用し、自然な味わいを大切にしている。代表作に「気になる木」など。
現在は、富岡市神農原の空き家をセルフリフォームしながらの家族3人+愛犬2匹暮らし。 甘楽町秋畑の工房と自宅を毎日行き来する生活をしている。
― 群馬へ移住したきっかけを教えてください。
齊藤さん:20年程前に東京で暮らしながら、長野県・群馬県・離島を中心に移住する地域をずっと探していたんです。たまたま両親が甘楽町秋畑のコテージを所有していたので、そこを譲り受ける形で住み始めました。
その当時は離島への憧れがあり、島に移住してみようかなという気持ちもあったのですが、両親に何かあった時にすぐに駆け付けられるよう、最終的に関東近郊に住む事に決めました。
山の工房には欠かせない薪ストーブ
― 群馬にお知り合いはいたのでしょうか?移住前に不安はありましたか?
齊藤さん:群馬県に親戚や知り合いなどは全くいませんでした。当時はあまり情報もなかったので、群馬県の移住相談センターに行きました。
長野県や山梨県の移住相談センターにも行ったんですが、両県はその当時、既に「移住」の固まったイメージのようなものができているように感じたんです。ですが群馬県はそういったものがなく、好きなスタイルが作れそうな雰囲気を感じました。
なので、「これから自分たちのスタイルの生活を作っていこう」という気持ちで、特に不安を感じる事もなく移住しました。
歴代の環境大臣から「環境大臣賞」受賞者に授与される
齊藤さん制作の「木のトロフィー」
― その後の生活はいかがでしたか?
齊藤さん:移住後しばらくは、東京での舞台製作の仕事などで家を長期間留守にする事も多く、家族は群馬で私は東京という生活になることもありました。新型コロナウィルスの感染拡大をきっかけに都内での仕事をきっぱりと一切やめて、現在は群馬での仕事のみにしています。
2007年の台風9号の際には秋畑の工房が土砂崩れの災害に遭い、地元の人たちに様々な面で助けてもらいました。その後、2019年の台風19号もあり、息子の高校進学や今後の事も考えて、秋畑の工房とは別の住居を探す事をしばらくの間続けていました。
かなりの数の物件を見てまわった末に富岡市神農原地区の物件を見つけ、なんとなく内覧をすることにしたんですが、正直な話、車から物件に向かう途中に見えた外観からは「ご縁がないかなー」と思いました。ですが内覧をしてみたら、以前住まわれていた大家さんのとても丁寧な暮らしが垣間見られ、その事が決め手となり今の家に決めました。
神農原地区のご自宅にて。小屋もセルフビルド。
― 富岡市に引っ越してまだ何年も経っていないにも関わらず、まるでずっと前から住んでいるような、お庭とお家との素敵な一体感ですね。その後、富岡市での生活はいかがでしょうか?
齊藤さん:こちらでは、自宅の目の前で大家さんがされていた家庭菜園を引き継ぎ、無農薬の野菜を作ったり、庭に季節の花々を植えたり、セルフビルドで小屋を建てたりと、様々なものを作り出して楽しんでいます。山の工房での生活とは違った自然との関わりができるのも魅力です。 また、大家さんがとても親切な方で、分からない事があった時に気軽に聞ける関係も有難いです。
富岡市から支給された「移住促進奨励金※」の一部の、市内の商店街で使える商品券を大いに活用して、普段はなかなか行かないお店での買い物も楽しませてもらいました。
※移住促進奨励金…定住を目的として住宅を取得する市外からの移住者に対しての奨励金。現在の制度は令和4年3月31日をもって受付終了し、令和4年4月1日から新たに「とみおか暮らし奨励金」制度が始まります。 詳しくは⇒富岡市ホームページ
無農薬にこだわった家庭菜園。
― これから移住を検討されている方にメッセージを頂けますでしょうか?
齊藤さん:移住先で「どんな暮らしがしたいのか」「何をしたいのか」などを明確しておく事は大切だと思います。また、実際に暮らし始めて「理想と現実の違い」があった場合には、いかに自分で楽しむ方にもっていくかも重要だと思います。今の時代は情報も多いですが、頭でっかちにならずに。どんな場所に住んでも様々な事が起こり、人それぞれの暮らしがあります。
季節の花を楽しみながらガーデニング。
― 工房もとても素敵な場所で、浄化されるような居心地の良さですね。きっとここに来られた方は、リフレッシュされて帰られるかと思います。最後に、今後について伺わせてください。
齊藤さん:アート・クラフトの作品販売を行うECサイト「齊藤商店」を開設し、販売を始めました。「倒木を生かしたい」という思いからはじまった、もの作りの作品です。また現在カフェの準備をしていて、「book cafe わんこのいる木工shop」を営業する予定です。今月のはじめにクリスマスツリーを作る教室を開催しましたが、今後もこの場所の良さを生かした体験教室を開催していくことを考えています。
【book cafe わんこのいる木工shop】
〒370-2204 群馬県甘楽町秋畑814-3
OPEN:土・日・月 13:00~16:30
電話:0274-64-9745
齊藤さんのサイトにある、「私の望みの中にあるもの 明るい小さな庭があり ほどよい広さの畑があり 絶えず近くに流れる水と 家をかこむ小さな森があるということ そして犬たちとこどもの達の笑い声」という言葉がそのまま形になったような、神農原地区のお家と山の工房。どちらの場所でも自ら生活を作り、楽しまれている様子が伝わってきました。「仕事」と「暮らし」がミックスされて、日々があるのかな…と感じます。
また、息子さんが小さい頃の子育てを振り返っての「子育ては、僕にも自信と潤いを与えてくれた」という言葉がとても印象的でした。子ども達にとって秘密の隠れ家のような楽しさで溢れた工房が、その言葉の意味を物語っていると思います。今後の木を使ったワークショップなども、とても楽しみです。
息子さんが通っていた保育園で使われていた、齊藤さん作「木登りの木」。
園舎の建て替えに伴い工房に移された。
大変お忙しいなか取材にご協力頂き、多岐にわたるお話をありがとうございました!
(スズキ)