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まゆといと

2020.10.05コラム

ここがすごいよ富岡の建物《第5回》富岡倉庫(セカイト・おかって市場)

富岡市内の建築物について素人目線で学ぶシリーズ第5弾!

今回は、これまでにご紹介した上州富岡駅富岡市役所の間に建つ歴史的建造物「富岡倉庫」です。

 

富岡倉庫は、レンガ積みの「1号倉庫」大谷石積みの「2号倉庫」木造土壁の「3号倉庫」と、繭の乾燥機がある「乾燥場」の4つの建造物から構成されています。改修工事が終わった3号倉庫と1号倉庫はそれぞれ「おかって市場」と「群馬県立世界遺産センター(セカイト)」として営業中。現在は2号倉庫の工事が行われています。

 

建物の歴史、耐震工事による変化、そして今後の富岡倉庫について調べていきたいと思います!

 

上州富岡駅から見た富岡倉庫。駅を降り立った人に、富岡製糸場と勘違いされることもしばしば。

 

 


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富岡倉庫の移り変わり

 

 

 

「富岡倉庫」は、明治33年(1900年)に設立された富岡倉庫株式会社が建設した倉庫群です。明治34年の記録によると、当初は「繭・熨斗糸・玉繭」などの蚕糸関係や、「玄米・石灰」などの物資を扱っていました。

 

1号倉庫と3号倉庫は創業初期に、2号倉庫は大正12年(推定)に建てられたもので、乾燥場の築年は不明です。

 

昭和40年代からは3号倉庫の一部を富岡市が借用し、文書保存倉庫として使用。

平成21年からは乾燥場の一部を「おかって市場」が借用し、市街地の活性化、買い物弱者の支援、地産地消を目的とした食料品販売店を営業。富岡倉庫を会場とした様々なイベントが開催されるようになります。

 

 

平成28年の富岡倉庫

 

 

平成28年、富岡倉庫株式会社は廃業し、市に建物が寄付されました。

建物を譲り受けた市は、富岡倉庫をにぎわいを創出する新たな交流拠点として活用するための検討を始めます。

 

その頃ちょうど市役所は、庁舎の建替え工事の真っ只中。市は、新庁舎の設計を行った隈研吾氏の事務所の協力のもと利活用案を作成し、市民に提案しました。

 

その後2年の歳月を経て、平成31年3月に「3号倉庫」の改修工事が完了。

続いて令和2年3月に「1号倉庫」の改修工事が完了し、今に至ります。

 

令和2年の富岡倉庫

 

 


 

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校舎から倉庫へ、倉庫から賑わいと交流の場へ―

 

 

今回も、建築シリーズといえばこの方!公共建築に詳しい元県職員の新井さんと一緒に見ていきます。それでは、建てられたのが最も古く、改修工事も一番最初に行われた「3号倉庫」から行ってみましょう。

 

木造土造り平屋の3号倉庫。明治34(1901)年(推定)登記。改修設計は隈研吾建築都市設計事務所。

 

 

―― 広報とみおかの連載『市内の歴史的建造物』で、富岡倉庫の歴史について書かれていたことがありました(2018年4月号〜2019年4月号)。それによると、この建物は元々、富岡小学校が諏訪神社の北にあった頃の校舎を移築したものなんですね。

 

新井:私も読みましたが、興味深い内容でしたね。ほら、あそこを見てください。使われていないほぞ穴があることからも、部材を再利用して建てられたことがわかります。

 

使われていないほぞ穴が所々に見られる。

 

 

―― なるほど。外観だけ見ると、改修前に比べて開口部が増えて、屋根が綺麗になったという印象はありますが、耐震補強が行われたようには見えません。中に入ってみましょう。

 

 

乾燥場から3号倉庫に移転した「おかって市場」の店内。頭上には白いワイヤーが、あやとりのように張りめぐらされている。

 

 

―― 糸のようなワイヤーが何本も張られていて、なんだか斬新!ですが、耐震補強でよく見る太い鉄骨のフレームは、どこにも見当たりませんね。細くて黒い柱が所々に立っていますが。

 

新井:黒い柱は鉄の無垢材(空洞ではなく中身の詰まっている鉄)で、基礎コンクリートと一体化しており、床下でしっかりと支えられています。しかし古い建物とがっちりとしたものでは、揺れ方が違いますよね。そこをうまく制御するのがワイヤーです。

 

このワイヤーは炭素繊維でできています。鉄は温度差で伸び縮みしますが、カーボンはほとんど影響を受けません。また、軽い・錆びない・耐久性に優れる・引っ張りに強い といった特徴があります。

これは、3号倉庫の工事が終わった後に日本産業規格(JIS)の認証を受けた、新しい耐震補強材なんです。医療に例えると、この建物で耐震補強材としての臨床試験を行ったようなものですね。

 

―― 富岡の絹糸を意識した飾りのようにも見えますが、建物の歪みと揺れを抑えてくれるものだったんですね。梁との接合部はテープのようなもので巻いてあるだけで、だいぶスッキリしていますが…。

 

 

新井:あれはチタンのシートです。チタンも鉄に比べて軽量で、腐食しません。手で巻けるほど薄いですが、重ねて巻くことで強度が発揮される優れものです。

 

―― 古い建物の元の姿を邪魔することなく補強する技術は、どんどん進んでいるんですね〜。

 

新井:そうです。富岡製糸場が当時の最新技術でつくられたように、この倉庫群でも最先端の耐震補強技術を採用しています。

 

 

壁の模様のような斜めの板は、もともと貼られていたもの。倉庫の壁を傷つけないためだと言われている。壁をよく見ると、建物全体が傾いていることもわかる。

 

当初は道路ギリギリまであった建物の西側は、カットされて短くなっている。土壁のため、崩れないように補強しながら慎重に解体したという。

 

東西の壁はガラス戸に。道路側から店内の様子が見えることで、街の雰囲気も明るくなったように感じる。

 

 

―― 建物がもともと持っている風情に、隈研吾氏が設計した耐震補強構造、そこにおかって市場の高橋さんのセンスが融合したことで、本当に素敵な空間になっていると思います。移転前にはなかったキッチンスタジオやギャラリースペースもできて、よりお店に行く楽しみが増えました!

高橋さん、お客さんの反応はどうですか

 

高橋:「おかって市場が目当てで富岡に来ました」というお客さんが、遠方からもたくさん来てくれるようになりました。

 

―― 高橋さんは10年以上前から『動楽市』などのイベントを富岡倉庫で開催し、市外・県外からもたくさんのお客さんを集めてきました。新しくなったお店を楽しみにしている方々がいらっしゃるのも頷けます。

 

 

料理教室が開催されるキッチンスタジオ。平日はランチの提供も行っている。

 

毎月第2日曜日に行われている「つきいちマルシェ」は、ゆったりとした雰囲気が魅力。

 

 

今年は『動楽市』をはじめ様々なイベントが中止になってしまいましたが、おかって市場店内では、イベントに出展予定だった作家さんやショップの展示販売会が企画されています。

地元の新鮮な野菜や果物、日常生活を彩る雑貨、一点ものの作品が並ぶ店内で、ぜひお買い物を楽しんでください。

 

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おかって市場

【営業時間】月〜金 9:00〜19:00、土 9:00〜18:00、日・祝 9:00〜17:00

【定休日】年中無休(1月1〜3日は休業)

おかって市場のブログ

動楽市のブログ

 

 


 

 

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明治時代のレンガ倉庫で体感する、群馬のシルクヒストリー。

 

 

続いて1号倉庫に行ってみましょう。世界遺産『富岡製糸場と絹産業遺産群』のガイダンス施設である「群馬県立世界遺産センター(セカイト)」が、一体どんな施設なのかも気になります!

 

レンガ積み2階建ての1号倉庫。明治34(1901)年(推定)竣工。市役所側が正面玄関だが、現在は2号倉庫の工事のため閉鎖されている。

 

群馬県立世界遺産センター「世界を変える生糸(いと)の力」研究所 略して「セカイト」

 

建物には駅側(東側)から入ることができる。花壇の花は、富岡特別支援学校と富岡実業高校の生徒によるもの。

 

 

― 以前は壁だった部分に穴が空いて、反対側に通り抜けられる通路ができましたね。レンガの色が違うので、積み直された部分がよくわかります。

 

新井:このレンガは何積みだかわかりますか?

 

― 富岡製糸場は「フランス積み」ですが、こちらは「イギリス積み」ですね。富岡製糸場で覚えました!

 

改修前は1号倉庫と2号倉庫の隙間はほとんどなかったが、地震時にぶつかってしまわないよう、レンガを積み直す際に壁を引っ込めている。

 

その新しい壁の一部には、建設当時の壁が残されている。保存部分を壊さないように周囲を解体し、手前に移動させる作業がとても大変だったそう。

 

屋根は瓦の調査を行い、状態が良好な瓦は再利用したが、屋根の南側以外は新しい瓦で葺き替えられた。古い瓦の風合いを出すため、甘楽町で復元された明治時代同様の「だるま窯」でいぶした瓦を使用している。

 

 

― 建物の中を見てみると、3号倉庫と同じく、炭素繊維のワイヤーを使ったあやとりのような補強が施されています。2階建てなので鉄の柱は1号倉庫の方が太いですが、古い建物に馴染んでいて、全く雰囲気を壊していません。

セカイトのスタッフで県職員の平良さん、この建物はいかがですか?

 

平良:古い建物を壊して新しい建物を立てることがほとんどという中で、歴史的な建物をリノベーションしたというのは素晴らしいですよね。この場所で展示できることは誇りですし、ここで働けることを本当に嬉しく思います。「建物だけを見たい」というお客様も大歓迎です!

 

 

1階。富岡製糸場と絹産業遺産群について解説するパネル、情報コーナー、シアターがある。

 

2階には子どもも楽しめる展示がたくさん1号倉庫には、100本以上のワイヤーが使われている

 

 

― 展示も見たいけれどあまり時間が取れないという方に、これだけは見て欲しい!というものはありますか?

 

平良:シアターで流している15分間の映像です。世界遺産に登録されている「富岡製糸場」、「田島弥平旧宅」、「高山社跡」、「荒船風穴」の4資産について、稼働していた当時の様子をCGで再現して解説しています。

 

 

幅約6mの巨大スクリーンに映し出される、高精細CGを活用したこだわりのガイダンス映像。2つのプロジェクターを使用しているが、つなぎ目が全くわからない。

 

 

― 大きな画面にリアルなCG!臨場感があって、まるでタイムトラベルでもしてきたような気分です。まだ「田島弥平旧宅」と「高山社跡」には行ったことがないのですが、これを見たら行ってみたくなってきました。

 

平良:お客様にも「これは見てよかった」と言っていただいています。4資産についてこれ以上わかりやすく解説している映像はないと思いますので、ぜひご覧いただければと思います。

 

 

2階も映像を駆使した展示が多い。4資産それぞれのストーリーと連携について、遊びながら知ることができる。

 

壁の落書きにも注目。あっちの四郎とこっちの四郎は果たして同一人物なのか!?

 

 

工夫を凝らした展示は、まるで博物館のよう。富岡製糸場を訪れる観光客の方はもちろんのこと、地元の方にもぜひ見てもらいたい内容です。壁には気になる落書きもあるので、ぜひ探してみてくださいね。

 

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群馬県立世界遺産センター

【開館時間】9:00〜17:00

【休館日】3月〜11月:毎月最終水曜日、12月〜2月:毎週水曜日(※祝日の場合は翌日)、12月29日〜12月31日、その他臨時休館あり

【入館料】無料

ホームページはこちら

 

 


 

 

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富岡倉庫のこれから

 

 

1号倉庫と2号倉庫は、2階で往来が可能になる予定。

 

 

富岡倉庫の担当をしている、市役所まちなかにぎわい課の安藤さんに伺います。現在は2号倉庫の工事中ですが、順調に進んでいますか?

 

安藤:やっと工事が始められたというところです。工事自体が非常に特殊なため、様々な手続きが必要で、申請にとても時間がかかりました。というのも、2号倉庫ではできるだけ建物の姿を変えずに残すために、建築基準法の適用除外を受けられるようにしたんです。

 

― 建築基準法にのっとると、見た目に大きな変化を与える改修が必要になってしまうんですよね。(1号倉庫は適用除外を受けていないため、天窓が新たに設置されている。)

2号倉庫はどのように活用される予定なんでしょうか。

 

安藤:2号倉庫については、今年度は外観・耐震工事を行い、来年度は今年度に引き続き耐震工事と、内部工事を行います。令和4(2022)年3月までに改修工事が完了する予定です。

その後は公募で選ばれた事業者が、1階を飲食・物販、2階をイベント・ワークショップなどの多目的ホールとして活用することになっています。

富岡倉庫2号倉庫管理運営優先選定事業者の決定

 

工事は順次、トイレ棟の建設、乾燥場の改修工事、広場の整備と続いていきます。

 

―― 富岡倉庫の工事はまだまだ続くんですね。残してよかったと思える場所になりますように!

 

大きな乾燥機が3機眠っている乾燥場。富岡製糸場の乾燥場は倒壊してしまったため、貴重な存在となっている。

 

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「あの古い建物、壊しちゃったんだ。いい雰囲気だったのにもったいない。」

と感じたことはこれまでに幾度となくありますし、

「古い建物を残すよりも、壊して新しく建てたほうがよっぽど簡単で安く済む。」

という言葉もよく聞きます。全くもってその通り!

 

だからこそ、富岡倉庫が保存・活用される流れになったというのは、それはそれはすごいことなのです。しかも、難易度の高い工事を進めているのは、ほぼ地元の業者さん。カッコいいではありませんか。

 

課題は、これらの建物をどう活かしながら維持していくか。 

みんなで楽しいことを見つけながら、この一帯を盛り上げていきましょう!

 

 

 

(ナカヤマ)

 


 

ここがすごいよ富岡の建物《第4回》群馬県立自然史博物館・かぶら文化ホール

ここがすごいよ富岡の建物《第3回》富岡商工会議所会館