富岡市内の建築物について学ぶシリーズの第2回は…
第1回の『上州富岡駅舎』からわずか徒歩1分、富岡市役所の庁舎です!
市役所って普段行きますか?
市の職員以外で日常的に利用している人は少ないですよね。
でもこの建物、“市役所で働く人たちの職場” というだけではないのです。
それでは建物のポイントを探ってみましょう。
案内役は今回も、公共建築コンペの仕掛け人・新井久敏さんです。
よろしくおねがいします!
・新井久敏 氏 プロフィール
富岡市在住。群馬県庁職員として建築行政に関わる傍ら、90年代後半から公共建築のコンペの企画を支援。携わった企画は26にもおよぶ。その業績は高く評価され、日本建築学会賞(業績)、土木学会デザイン賞優秀賞、これからの建築士賞を受賞。現在は富岡土木事務所嘱託職員。
第2回 富岡市庁舎
2018年に完成した新庁舎。設計は隈研吾建築都市設計事務所。
『市民の意見を聞いて作られた計画』
― 庁舎が建て替えられることになった理由は、旧庁舎の老朽化。新庁舎の建設にあたっては、一般市民、専門的な知識を持った人、実際に業務を行う人たちが、「防災」「まちづくり」「コスト」「環境」など様々な観点から時間をかけて検討を行ったそうですね。(平成20年から市職員による検討準備委員会を、平成22年からは市民らによる検討委員会を設置。)
新井:そうなんです。そして平成24年に、設計者を決める公募型プロポーザルが行われました。審査員には建築の専門家だけではなく、それまでの検討の流れをよく知る人たちが入っていましたから、市民の声を聞いた、とても民主的な方法で設計者が選ばれたと言えます。
公募50者の中から一次審査を通過した5案の提案書。
― そして設計者が決まった後にも、建設・ランニングコストの低減を目的に、市民の意見を募集した上で計画の見直しが行われたんですよね。
新井:当初は4棟方式で、現在芝生広場になっている場所にもう2棟立つ予定でした。市民の憩いの場として考えられていた建物がなくなったのは残念な気もしますが、広場が大きなイベントに使えているので、これはこれで良かったかもしれませんね。
コンセプトは「市民と共に進化する安全安心な100年庁舎」
新井:様々な人の意見があって当然で、大きなプロジェクトには必ず反対意見も出ます。ただ、このプロセスは全国的に見ても珍しいくらい市民に開かれていて、市民の意見を聞いて公共建築物を作った良い事例だと思います。
※建設までの経緯は富岡市ホームページで見ることができます。
『コストを抑えても安心安全』
3階まで吹き抜けのエントランスホール。
新井:この建物は防災拠点になっているので、建築基準法で義務付けられている数値の1.5倍の強度があります。お金をかけるところはかけて、ランニングコストや建設コストを下げる工夫がされているんです。まず、天井があまりないですよね。
― 確かに鉄骨がむき出しになっています。これもコスト削減のためですか?
新井:地震で天井が落ちたというニュースをよく聞きますよね。耐震の天井はお金がかかるので、ならば取ってしまおうというのが最近の傾向としてあります。天井が少なければ軽くなるし、広くもなる。照明も鉄骨から吊ってあるので、後で配置を変えたい時に天井を外す手間がかかりません。
― いいことばかりですね。塗装のせいか、見た目も鉄骨っぽさがなくて全く気になりませんし。
新井:この塗料は特別なんですよ。鉄は熱に弱いので、耐火塗料というのが塗ってあります。火に当たると発泡して断熱層を作るんです。ただし高価なので、見えない場所の鉄骨には耐火塗料ではなくロックウールが吹き付けてありますね。
木材にも燃えにくい処理がされている。
新井:そのまま上を見てください。吹き抜けの上にある窓は開いて、自然換気できる構造になっています。これは養蚕家屋の越し屋根をヒントにしています。
― ほぉ〜。春と秋は空調いらずですね。壁が少なくて窓が多いので、照明の節約にもなっていそう。あと、雨水を利用しているとも聞きました!
(換気量は通常の2.5倍。昼光利用により照明電力20%削減。雨水はトイレ洗浄水として利用し水道使用量を節約している。)
新井:いろいろと考えられているんですよ。あちらにも見て欲しいものがあるので来てください。
行政棟1階の南にある制震ダンパー。
新井:建物全体にこのような制震ダンパーがあり、地震から建物を守っています。この1ヶ所だけわざと見られるようにしてあるんです。
― 何度も通っているのに知りませんでした…。
※建設工事の様子は写真付きで見ることができます。
→ 【新庁舎建設工事進捗状況】
『路地であり賑わいの場でもある』
新井:上州富岡駅から市役所へと歩いてきて、行政棟と議会棟の間を通って富岡製糸場の方へ抜けるという新しい動線が作られていることに注目してください。設計者の隈研吾さんはこの建物に「路地」としての役割を持たせているんです。
進んでいくと上町駐車場に抜けることができる。
― 確かに駅からの流れが途切れることなく続いている感じがします!
新井:富岡市の江戸時代の地図を見ると「鍵曲」というクランクした路地があって、それをイメージしたデザインになっているんです。歴史もよく調べた上で設計してるんですよ。
― 路地のように駅とまちとを繋ぐことを意識しているんですね。
それにしてもこの芝生の広場、イベントの時にとても居心地が良いので大好きになりました。
芝生広場「しるくるひろば」は週末になると様々なイベントが行われる。
建物の庇の下や東屋にはタープが取り付けられるようになっている。
新井:東屋も大きな庇も、いろんな場所にいろんなモノを引っ掛けられるようになっています。市民にこの場所を様々なことに使って欲しいという気持ちが表れていますよね。
― この場所をどう活かすかは私たち次第…。平日は使われていないことが多いので、何か楽しいことができないかなぁと思っています。みなさんもぜひ!
※しるくるひろばの活用申込みは富岡市のホームページからできます。
新井:テラスにも行ってみましょうか。
行政棟3階テラス。開庁時間内は自由に利用できる(平日のみ)。
外階段から上がる議会棟2階のテラス。イベント時の休憩場所として人気。
― テラスも快適ですね。特に議会棟2階のテラスは風が抜けて心地良い!見晴らしも良くて、休日も入れるのがいい。ここにも椅子があったらいいのにな〜。
新井:そうですよね。あと、私も知らなかったんですが、議会棟1階のエントランスホールと会議室は夜9時まで無料で貸し出しをしているそうです。
― そうだったんですか!ぜひ使いたいです!
※エントランスホールと会議室の貸し出しは事前に申し込みが必要です。市のホームページをご確認ください。
議会棟のエントランスホール。右手奥に会議室が4室ある。
『こだわりあれこれ』
蚕が最初に吐き出す糸「きびそ」は機械織りに適さず、あまり利用されていなかった。
新井:壁紙に「きびそ」が使われていることは知っていますか?
― はい。初めて来た時、一番印象に残りました。開発から行って、今は商品化もされているんですよね。
新井:地元の素材は他にも使われているんですよ。外装のルーバーに使われている木は市有林から伐採してきたもので、ヒノキ、マツ、クリ、ミズキ、ホオの5種類の木が使われています。
ルーバーは熱を遮断し空調の効率を上げる効果がある。
― 1枚1枚表情が異なるのは、5種類の木を使っていたからなんですね。
新井:片面をアルミにしたことで「行きと帰りで表情が変わる」というのが面白いですね。木材だけに比べて強度も増しています。
行政棟1階のベンチから見た景色。
新井:照明にもこだわりがあります。訪れた人たちの視界に強い光が入らないよう、エントランス側だけ光源を隠しているんです。
― たしかに光源を直接見てしまうと不快ですよね。
新井:これは議場にも見られます。行ってみましょう。
議会棟2階の議場。傍聴席の後ろはガラス張りになっている。
― 確かに、議長側からも光源が見えないようになってますね。それにしても素敵な空間…(会議がない時に使わせて欲しい…)
新井:テーブルは木工で有名な山形県天童市のメーカーのものです。デザインがおしゃれですよね。
新井:屋根に落ちた雨は途中の溝を通って下まで抜ける仕組みになっていたり、溝蓋は線が目立たないような向きになっていたり、アスファルトは少し削って小石などの骨材をわざと見えるようにしていたり…。細かいこだわりがたくさんあるんですよ。
― 使いやすさやバリアフリー化はもちろんクリアした上で、様々な工夫がされていたんですね。ただ、この建物の魅力はやはり使ってみないとわからないなと思いました。本当に「進化する庁舎」なのか?みんなでどんどん活用して、それを実感していきたいです!
《庁舎の見学方法》
財産推進活用課への申し込みが必要です。ホームページでも受け付けています。
※平日のみ。音声ガイダンス(1台200円)の貸し出しあり。
→ 【庁舎見学のご案内】
「さらっと見られればいいわ」という方は、庁舎入口でこちらのパンフレットをもらってください。建物の概要、フロアマップ、事業費まで詳しく掲載されています。
※ダウンロードもできます
行政棟1階および人の顔が写る場所は撮影禁止ですのでご注意ください。
次回は富岡商工会議所です。お楽しみに!
(ナカヤマ)