市街地での暮らしと、静かな田舎暮らし。そのどちらも選べる富岡市。
山の近くに住む私は、ほどよく田舎で不便のない暮らしに満足しつつも、あることが気になっていました。
それは、民家の近くに頻繁に姿を現す、シカやイノシシなどの野生動物たちの存在です。
そこで私は一年前、「何も知らない私が狩猟について聞いてみた」という記事を書きました。まずはこちらをご覧ください。
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✓「狩猟」は冬の約3ヶ月間だけ行われるもの。
✓最近は野生動物の増加による農作物被害が深刻なため、市から依頼された狩猟者が有害鳥獣の捕獲を1年中行っている。
✓市内の狩猟者は70歳前後が多く、担い手不足が深刻。
✓野生動物の捕獲頭数は増えているが市内に獣肉加工処理施設がなく、有効活用ができていない。
・・・こういったお話を聞いて感じたのは、今狩猟の世界には、次世代を担う人材と新しい仕組みが必要とされているということ。
「さぁ富岡で、狩猟の世界へ飛び込もう!」と言いたいところですが、狩猟の楽しみって何だろう?と想像した時に、自然と向き合うこととお肉を食べることくらいしか思いつかなかい私…。これでは人におすすめできない!
ということで今回は、市内のベテラン猟師さんと新人若手猟師さんのお二人に、狩猟を始めたきっかけや、その魅力など、リアルなお話を伺ってきました!
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この道47年のベテラン猟師さんに聞いてみた。
まずは、富岡市鳥獣被害対策実施隊の会長を務めている、農家の田村明利さん(68歳)に会いに行きました。
富岡市内ではそれぞれの地区等で狩猟グループがあり、田村明利さんは額部地区と甘楽町の山で狩猟を行うグループに所属しています。
普段はナスと原木シイタケを栽培している田村明利さん。自宅の隣にある事務所は、狩猟グループの拠点となっている。
― 狩猟はいつから始めましたか?そのきっかけも教えてください。
田村(明):始めたのは21歳。親父もやっていたし、この辺じゃみんな当たり前のように趣味でやっていたからね。でもその頃はシカなんていなかったし、イノシシだって上野村まで行かなきゃいなかった。最近は農作物の被害があまりにも増えて、一年中 “駆除” だけどね。
― 昔は遠くへ出かけて行うものだったんですね。趣味で狩猟を行っていたのは、お肉を食べるのが目的ですか?
田村(明):それが半分で、半分は楽しみだね。獲物を見つけた時はワクワクするし、長くやってると動物の動きがわかるようになって、それがまた楽しい。猟期の終わり頃になってくると動物も利口になって獲れなくなるから、みんなで作戦を練り直すんです。
― なるほど。生きものが相手で、一筋縄ではいかないところが面白いんですね。
田村(明):獲物が寝ている場所はどこか。起こしたらどこを通って、どこへ逃げるのか。それを頭の中で描いて、15人くらいのチームで山を囲う。犬と一緒に獲物を追い出す人がいて、撃つ人は獲物が逃げてくる場所で動かずに待つ。これが難しいけど、奥が深いんです。
田村さんが飼っている猟犬。どのチームにも必ず一人は猟犬を飼っている人がいる。
― 獲物を探し歩いて、見つけたら撃つというのをイメージしていました。実際はチームで役割分担をして、撃つ人は持ち場を動かないんですね。
田村(明):「木になったつもりで動くな」というのは毎回うるさいくらい言います。「ガサガサと音だけ聞こえても、姿が見えていなかったら絶対に撃つな」というのもね。もし動物じゃなかったら大変ですから。
― 気をつけることがたくさんあると思いますが、ヒヤッとした経験はありますか?
田村(明):たくさんあります。イノシシがぶつかってきて怪我をした仲間もいます。イノシシは70〜80kgあるし、シカだって角の先は尖っているし、向こうは死に物狂いで向かって来るからね。
― 実際に動物を目の前にすると、かなり大きいですよね。仕留めた後はいつもどうしていますか?大きすぎて持ち帰ることができない場合は、その場に穴を掘って埋めるという処理方法もあるそうですが。
田村(明):うちのグループでは全て持ち帰ります。帰ってきたらみんなで解体して、その日に獲ったものの肉はその日のうちに全員で山分けです。うちみたいに解体するのにいい場所があればその方が楽だし、無駄にせず食べてやったほうがいいよね。
― グループによって一緒に猟を行う人数も、解体作業をする環境も異なるので、その辺の事情は違ってくるかもしれませんね。
田村さんのグループでは、田村さん宅の敷地内まで獲物を持って帰り、メンバー全員で解体を行っている。
― 獲ってきたイノシシやシカのお肉はおいしいですか?好きな食べ方があれば教えてください。
田村(明):処理がちゃんとしてあると旨いですよ。うちは山で血抜きをするし、やっぱり冬は脂が乗っておいしいです。イノシシは鍋か焼き肉で、シカは焼きすぎると硬くなっちゃうから、薄く切ってしゃぶしゃぶで。
― おいしく食べられるのならそれが一番ですね。ところで動物の供養なども、みなさんで行っているんでしょうか。
田村(明):有害鳥獣捕獲のシーズンが始まる前には毎年、鎮魂祭に参加しています。そういうのがないと、なんだか嫌だよね。やっぱり生きているものを撃つわけだから。
何年やっていても、動物と目が合うと『かわいそうだな』と思うことはあります。でもそんなこと言ったって、スーパーで売っている肉だって同じで、それを仕事にしている人もいるんだよね。
左がシカの肉で、右がイノシシの肉。狩猟期間中に獲れた肉はこうして冷凍保存し、知人にあげたりしながら年間を通して食べているという。
― 狩猟期間中のスケジュールを教えてください。
田村(明):うちのグループでは、11月中は日曜日と祝日だけ。12月〜2月は土曜日の午後と日曜日と祝日。正月は2〜4日に猟をします。
朝8時に集合して、たくさん獲れればその時点でやめるし、獲れなければ場所を変えて、午後3時ごろにはやめるようにしています。
― 有害鳥獣の捕獲は狩猟期間外に1年中行われていますが、そちらはどのような頻度で行っているんですか?
田村(明):額部地区では、7名の隊員で罠をかけて、毎日見回りをしています。
― 毎日だと、お仕事との両立は大変ではないですか?
田村(明):仕事と重なる場合は他の人に頼みます。もともと狩猟は100%趣味で、有害鳥獣の捕獲は趣味の延長線上。あくまでも趣味は趣味で分けています。
以前はまるっきり人の為にボランティアでやっていたけれど、今は奨励金がもらえるしね。1年中動くのはやっぱり大変だから、ある程度はそういうのがないと。
― 趣味というよりも有害鳥獣の捕獲のために狩猟を始めた人たちとは、ちょっと感覚が違うかもしれませんね。
田村さんのグループには最近、40代や20代の方が加わったそうですが、若い人たちにはどんどん入ってきて欲しいですか?
田村(明):そうだね。若い人はパワーがあっていいよ。考えることも違うしさ。みんなとは狩猟の期間だけじゃなくて一年中付き合ってるけど、いろんな仕事の人が集まるからいろんな話ができて、そういう意味でも面白いよ。
仕事も遊びも山と深く関わる田村さんのような暮らしを望む人には、ここはとても良い環境だそう。
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市内最年少のサラリーマン猟師さんに聞いてみた。
続いてお話を伺ったのは、先ほどの田村明利さんと同じ狩猟グループに所属している、新人猟師の田村一志さん(26歳)。
富岡市内ではただ一人の20代の猟師さんで、普段は会社勤めをされているそうです。
ビデオ通話でお話を伺いました。
― 狩猟を始めたきっかけを教えてください。
田村(一):大学で自然環境科学を専攻していて、植物学や絶滅危惧種について研究するゼミに入ったんです。そこでたまたま扱っていたテーマが、シカが森の木の皮を食べることで木が枯れてしまうという内容で。「時間があるし、狩猟免許でも取ってみようかな」という感じで、大学3年生の時に取りました。
― 大学在学中に狩猟免許を取ったんですね。狩猟自体を始めたのは、それからしばらく経ってからですか?
田村(一):警察で銃の所持許可を受けるのも、銃の管理も大変なので、学生時代にはできなくて。そのまま会社員になって何年か経って、自分の中では、もうこのままやらないかもしれないと思っていました。
けれどある時、知り合いの農家さんに橋渡しをしてもらって、田村明利さんのところに遊びに行ったんです。そこで「お前もやれよ」と言われて、重い腰を上げました。
猟場は「自然の中でとても気持ちがいい」と田村さん。着用しているベストと帽子は猟友会で支給されたもので、今後は自分で選んで揃えたいそう。
― ベテラン猟師の田村さんがきっかけだったんですね!同じグループに所属して、初めて猟に参加した時はどんな感じでしたか?
田村(一):初めて参加した時に、私の目の前にシカが来たんですよ。ただ、結構大きくて、びびっちゃって、撃てなかったんです。相手も命があるものなので、「これを殺すのか」という気持ちがやっぱり強くて、ためらっちゃいましたね。
― 実際にその状況になって初めてわかることですね。他にも実際にやってみて、意識が変わったことなどはありますか?
田村(一):銃の免許を取って、銃の譲り受けをした時に、責任を持ってやらなきゃいけないことなんだと思いました。“かっこいい” や “楽しい” だけじゃなくて、自覚を持たなければならないんだと。 田村さんにも、「事故があってはいけないというのが前提で、それから “楽しい” があるんだ」というのは、よく言われます。
それと今は慣れましたけど、最初にシカをさばくのを見た時はやっぱりびっくりしましたね。スーパーで売られているお肉を買う時にも、自分がシカをさばくように、誰かがやってくれているんだなと考えるようになりました。
― やはり、「ちゃんと食べてあげよう」という気持ちになりますか?
田村(一):残しては可哀想というのはありますけど、多く獲れすぎる日もあるので家の冷凍庫が埋まってしまって…。田村さんには最初に「冷凍庫を買ったほうがいいよ」と言われていて、さすがにそこまでじゃないだろうと思ったんですけど…必要でしたね(笑)。最近は食品乾燥機を買って、シカ肉でジャーキーを作ったりしています。ビーフジャーキーに近い味でおいしいです。
田村一志さんが家庭で食べているジビエメニュー。シシ肉の角煮に、シカ肉のジャーキー、シカ肉と玉ねぎの串カツ。どれも美味しそう!
― 私も以前ジャーキーをいただいた時に、本当においしくてびっくりしました。放射線物質による出荷制限が解除されて、そういったものが売れるようになるといいですよね。
田村(一):ジビエの関係でビジネスを起こせたら盛り上がるんじゃないかな?とか、私もいろいろと考えてはいるんです。でも何をするにも仲間がいないので、さすがに一人ではできなくて。
― 確かに新しいことを始めるチャンスなので、若い仲間が増えて欲しいですね。今はかなり年の離れた人たちと一緒に猟を行っていますが、その点はいかがですか?
田村(一):年が離れすぎていて、孫のように可愛がってもらっています。でも「俺らはあと何年もない」と言われるので、このままやっていけるのかな?と思いますね。狩猟は趣味の世界なので別にいいですけど、有害鳥獣の捕獲は一人だと限界があるので。
― 仕事をしながら罠の見回りをしたり駆除の依頼を受けるのは、会社勤めだと時間的に難しいですよね。その辺りは今後、仕組み自体が変わっていきそうです。
それにしても、20代の田村さんの存在は、これから狩猟の世界に入る人たちにとってかなり心強いと思います!
田村(一):ベテランの人がいらっしゃる間に、私も人に教えられるくらいにはなりたいです。ここで私が何とか繋いでおけば、あと何十年かは大丈夫かなと。
自分たちの地域は自分たちでやらないといけないと思うので、市と協力して盛り上げながら、何とかお役に立てるようにしたいです。
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狩猟の世界に飛び込むなら今!
日本で狩猟がメジャーな趣味だった時代に始めたベテラン猟師さんと、地域の環境を守るために始めた新人若手猟師さん。
入り口はまったく違っても、命を大切にし、人のことを考えて行動する姿勢が受け継がれている様子がとても印象的でした。
そして、これまでは狩猟の楽しみを想像しても2つしか思いつかなかった私ですが、
獲物が来る場所を予想して読みが当たった時の嬉しさ、獲物を目の前にした時のドキドキワクワク感、自然の中に身を置く心地良さ、銃を命中させる難しさと当たった時の喜び、仲間と集まって喋る楽しさ、自分で獲ったものを食べる喜び、装備を揃える楽しみ、狩猟の新たな可能性への期待…
そういったことがあるんだろうなぁと想像できるようになりました。
「自然の中にいるのが好き」「先人の知恵と知識を継承したい」「ドキドキしたい」「人の役に立ちたい」「狩猟を通して地域を盛り上げたい」
そんな人は、新しい人を受け入れて惜しみなく教えてくれるベテラン猟師さんと、この先も一緒に活動していけるちょっと先輩の猟師さんもいる今が、狩猟の世界に飛び込む絶好のチャンスかもしれません。
時間に融通がきく農家さんやフリーランスの方におすすめなのはもちろん、これからはサラリーマンが副業で猟を行うというスタイルも、定着していくのかも!?
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次回へつづく!
次回は、「狩猟免許や銃の所持許可を取るまでにはどんな道のりがあるの?」「狩猟のグループってどうやって入るの?」「お金はどれくらいかかるの?」「奨励金ってどのくらいもらえるの?」といった疑問を解明していきます。
どうしようか迷っている人は、次回も要チェックです!
(ナカヤマ)
リンク
・狩猟免許および猟銃等所持許可の取得に対する補助について(富岡市)