数年前、住宅街から山と畑に囲まれた土地へと、富岡市内でお引っ越しをした私。
その移動距離はたったの3kmにも関わらず、それまで全く縁のなかった彼らが、とても身近な存在になりました。
「こりゃハクビシンの仕業だな」
「うちの芋はイノシシに掘られたんだよ」
「あっちの白菜はシカに食べられちゃった」
「山栗はクマが好きだから気をつけてね」
近所の人が集まれば、畑の被害や実際に遭遇した話でもちきりに。
我が家の敷地内にも彼らが歩き回った形跡がいくつもあり、その数は年々増えてきていると感じています。
そんな環境に住んでいるため「狩猟」というものへの興味はそれなりにあるのですが、実際にやっている人とお会いする機会がなかなかないので
「富岡市の狩猟事情ってどうなんだろう?」
という疑問が湧いてきました。
そもそも「狩猟」って、私が想像しているもので合っているの??
教えて〜、市役所の農林課のみなさ〜ん。
「狩猟」と「許可捕獲」
富岡市経済産業部農林課の太田さん(左)と服部係長(右)にお話を聞きました。
服部:まず、野生動物を捕まえる手段は2つあります。ひとつは狩猟、もうひとつは有害鳥獣の許可捕獲というものです。
― 野生動物を捕まえる=狩猟だと思っていましたが、許可捕獲という初めて聞く言葉が出てきました!
・狩猟
狩猟免許を所持している人が、狩猟を行う都道府県で登録を行い、狩猟期間内(群馬県は11/15〜2/15 ※ニホンジカ及びイノシシに限り2月末まで)に、禁止されていない場所で狩猟鳥獣を捕獲すること。
・許可捕獲
市町村長が任命した鳥獣被害対策実施隊員または個別に許可を受けた人(原則として狩猟免許所持者)が、農林水産業の被害防止や個体数調整等のために鳥獣を捕獲すること。期間は富岡市の場合、狩猟期間を除く1年中。
どちらも基本的に狩猟免許と許可申請が必要ということは同じで、ざっくり言うと、趣味として行うのが狩猟で、依頼を受けて(または自分の敷地を守るために)行うのが許可捕獲なんですね。
― そういえば、公民館で箱わなの貸し出しを行っていますが、あれは免許は必要ないのでしょうか?
服部:公民館で貸し出しをしている箱わなは小型のもので、ハクビシンやタヌキ、アライグマといった中型獣を捕獲するためのものになります。自分の宅地や畑地内に限り、そういった動物を捕まえる目的であれば、わなを設置するための免許は必要ありません。
小型の箱わなにかかったハクビシン。各公民館で、1年間無料で貸し出している。(1度に1人1個まで)
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捕獲頭数の増加と実施隊員の高齢化
では市内では、1年にどれだけの数の野生動物が捕獲されているんでしょうか?特に多く捕獲されている、イノシシ、ニホンジカ、ハクビシンの頭数をグラフにしてみました。
富岡市の過去5年間の有害鳥獣捕獲数
― 年々増えていますね。今年度はイノシシが400頭以上、ニホンジカが約250頭…1日1頭ペースで捕獲されています。
服部:捕獲頭数が増えていても、農作物の被害は減っていないのが現状です。ただ、鳥獣被害対策実施隊員が積極的に活動し成果を上げてくれているおかげで、市役所へ相談に来る人はだいぶ減っています。
― 市役所を毎回通さなくても、実施隊員さんへ直接駆除の依頼をすることができるんですね。富岡市の場合は、どんな人たちが実施隊員になっているのでしょうか?
服部:富岡の猟友会に所属している方で、猟友会事務局からの推薦があった人が実施隊員になっています。今のところ人数は足りていますが、平均年齢が70歳を超えてきており、担い手の育成ができていないのが課題です。富岡の山の形状に合った捕まえ方などもあると思いますので、今いる人たちが動けるうちに、若い人に技術継承をしてもらいたいと思っています。
狩猟免許には、第一種銃猟・第二種銃猟・わな猟・網猟の4種類があり、中でも銃猟免許の取得者を増やしたいという思いが自治体にはあります。しかし銃の所持までには様々な教習や調査を受ける必要があり、かなり難易度が高いそう。(簡単だったら困りますが…)
そのため最近では、実施隊員不足を解消するために職員に銃猟免許の取得を促す自治体が増えているんだそうです。
くくりわなに捕まったシカ。わな猟免許の取得者は若い人にも増えてきている。
他にも、動物によって市ではなく県の許可が必要だったり、捕獲後の処理方法にも違いがあったり、奨励金をもらうにはどうするか…など、初めて知ることがたくさんありました。そのお話はまたの機会に…
それでは、猟友会に所属して活動をされている人たちにもお話を聞いてみましょう!
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「捨てちゃもったいねぇよ」
富岡猟友会に所属し、妙義地区で実施隊員として活動している清水弘明さんと、
清水さんのお友達で、妙義に木工房を構える瀬下和彦さんのお二人にお話を伺いました!
『妙義雷太鼓』の会長でもある清水さん。太鼓のバチとシカの角を持って登場。
清水:これ、すごいでしょ!瀬下さんに作ってもらったんですよ。いいでしょう。
― これは、シカの角を使った太鼓のバチ置きですか!?こんな使い方もあるとは驚きです!
捕獲したシカから取った角で制作したバチ置き。対になっている角は価値が高いそう。
清水:他の地域では、こういうのを作って道の駅なんかで売ってるんですよ。イノシシの牙だってキーホルダーにしたりして。でもこの辺じゃ、角や牙をつけたまま土に埋めちゃったり、取っても家に置いておくだけという人が多いんですよ。
― それはもったいない!
瀬下:僕は妙義では狩猟はしていませんが、東京の目黒の猟友会に所属していて、サラブレッド牧場のエゾジカ駆除のために北海道へ行くことがあります。それで感じるのは、こちらで狩猟をしている人の大半は獲った動物を土に埋めているだけで、有効活用できていないということです。
例えば北海道では、狩猟者から個体を買い取り、食肉として流通させる食肉処理施設が道内各地にあります。食肉はレストランや小売店へ、食肉として使えない部分はペットフードの会社へ卸して、廃棄物の処理も行ってくれるんです。長野県でもそういった施設が増えていますが、群馬県にはまだあまりありません。
目黒区在住で、10年前から妙義との二拠点生活をしている瀬下さん。狩猟歴は長く、食品関係の専門知識も持っている。
― 妙義にある既存の施設に機能を足して、そういった処理施設ができたらいいですね。現状、個人でさばいて食べている人も少ないのでしょうか?
※現在、群馬県内で捕獲された野生鳥獣の肉は、放射線物質による出荷制限のため販売できませんが、自己責任の上で個人で楽しむことは可能です。(今年度富岡市内で捕獲された野生鳥獣肉の放射線物質は基準値内となっています。)
清水:食べきれないし処理が面倒だから、ほとんどそのまま埋めているんですよ。獲ってすぐに加工処理すれば美味しいんだけど、それを知らない人は半日くらい放置したやつをさばくから、肉が熱で傷んで臭くなっちゃう。それを近所に配るもんだから、みんな「シカやイノシシは臭くて食えない」って言うんですよね。すぐに血抜きして、熟成したり燻製にしたりすれば、あんなに美味しいものはないですよ。
瀬下さんが燻製したシカ肉ジャーキーが旨いんだこれが!
瀬下:実は、持って来たので試してみてください。これはきちんと食肉処理施設で処理されて個体識別されている肉なので、安全性に問題はありません。
瀬下さん特製のシカ肉の燻製。食べてびっくり…
― ではいただきます……こ、これは!?!えっ?
柔らかくて美味しい!!!今までに食べたどのジャーキーよりも美味しいです!!!
清水:こうやって加工しておけば、一年中美味しく食べられるんですよ。
瀬下:妙義で商品を作って販売するまでにはまだまだハードルがありますが、その前に、まずは狩猟をしている人たちがきちんと処理して楽しめる状況にすることが大事ですよね。
いくら有害鳥獣だと言っても、殺されて捨てられちゃうだけじゃ…
清水:かわいそうだよ。
イノシシだってちゃんと加工すりゃ美味いんですよ。県外の人がこっちにイノシシを獲りに来るくらいなんだから。
瀬下:「厄介なもの」から一歩先へ行って、狩猟者にとっても行政にとってもWin-Winな形ができていくといいですよね。
清水:補助金はもらえるし、肉は使える、角も使える。こんなにオイシイことはないよ!富岡市の少ない資源なんだから、有効活用して楽しまなくちゃ!
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人と野生動物との共存のために
「畑を荒らす有害鳥獣の駆除」という意識から、一歩先へ。
清水さんや瀬下さんのように、いただいた命を大切にし、どう有効活用していくかを考えていくことは、私たちの暮らしを見つめ直すいい機会になると感じました。
まずは、お肉の本当の美味しさを、食べて知ってもらうのが一番!
瀬下さんを講師としてお招きして『燻製講習会』を開いたらどうかな〜。
角や牙でアクセサリーをつくるワークショップもやってみたいな〜。
これからみんなで、楽しみながら学んでいきたいです!
(ナカヤマ)
リンク
・狩猟免許および猟銃等所持許可の取得に対する補助について(富岡市)