以前の記事「とみおかで農家になる!~ひろきさんの挑戦~」で、新規就農者への支援について教えてくれた富岡市農林課の大塚さんから、ある日こんなメッセージが届きました。
大塚さん:富岡市では、農業者の経営力強化を支援する「経営改善実践スクール」という事業も行っています。市内の農家さんや、新規就農を考えている方に、ぜひ知っていただきたい内容なんです!
その熱意に押された私は、「経営改善実践スクール」の会場になっている富岡商工会議所のホールを訪れました。

平日の夕暮れ時。会場には、受講する農家さんと、講師を務めるファームサイド株式会社のみなさん、そして事務局である農林課の職員の姿がありました。
講師によるレクチャーがあった後、農家さんは持参したノートパソコンを開き、入力作業を始めます。他の方々はその横で画面をのぞき込みながら、時おり助言をしているようです。
誰が受講者で、講師で、事務局なのか。はたから見るとわからないほど、和気あいあいとした雰囲気が漂っていたのが印象的でした。
このスクールでは、一体何を教わることができるのでしょうか?
経営改善実践スクールとは?
「経営改善実践スクール」は、富岡市が行っている「農家の課題解決プロジェクト」の実践的な取り組みとして、2023年からスタートしました。この事業によって、経営力のある強い農業者の育成を目指しています。
■ 特徴
・経営改善や雇用受け入れ体制の整備に向けて、基礎から学ぶことができる。
・年度ごとにテーマがあり、約8ヶ月間かけて講座や個別相談、視察研修などを行う。
■ こんな人におすすめ!
・現在の農業経営を見直したいけれど、何から手を付けていいか分からない人
・やろうと思ったことを、一人ではなかなか継続できない人
・持続的な農業経営に向けて、コーチに相談しながら考えてみたい人
■ 講師の紹介

【ファームサイド株式会社 代表取締役 佐川友彦さん】
群馬県出身。東京大学農学部、同修士卒。栃木県宇都宮市の梨農園で代表の右腕として経営改善を行い、改善事例300件をオンラインメディアで無料公開することで、全国の農業者の課題解決に貢献。その後、ファームサイド株式会社を起業し、経営コンサルティングや企業のアドバイザリー、講演活動などを日本全国で行っている。
頭の中で完結していたことを「見える化」する
それでは、令和7年度に行われた「経営改善実践スクール」の内容を見ていきましょう。
まず取り組んだのは、経営の見える化。“見える化” とは “可視化”のその先の状態です。
今までは経営者の頭の中にあって、口頭で伝えていたこと── 例えば経営方針や社内制度、作業手順などを、明確な文章としてすべて書き出します。その可視化された情報を活用して、改善が繰り返し行われている状態、これが “見える化” なのです。
用意されたシートに文字や数値をひたすら入力する、地道な作業から始まります。
栽培している作物ごとの生産量を入力する場面では、「今まで金額で把握していたから、生産量がわからない」といった声が聞こえてきました。わかっている“つもり”だったことが、どんどん浮き彫りになっていきます。
次の回では、販売戦略をみんなで学び、その上で「こんな改善をしたい!」というアイデアを書き出しました。あとは、それぞれがアイデアを実践し、結果を記録するという作業を繰り返します。
また次の回には、経営管理に便利な表計算ソフトの活用講座も実施されました。
毎年スクールに参加している上州鈴木農園の鈴木さんは、昨年、「富岡市働きやすい労働環境づくり協議会」の代表に就任しました。
ちなみにスクール初年度は、作業場の整理整頓や領収書の整理といったことから行ったそうです。その頃にはまだパソコンを使ったことがなかった農家さんも、3年目にはこの通り!
目の前のことに取り組んでいけば、着実に前に進むことができる。それを体現しているみなさんの背中が、とてもかっこよく見えました。
雇用で人材不足を解消し、持続可能な農業へ
令和7年度は、国の補助事業を活用した「雇用体制強化事業」も同時に行われました。
● 求人サイトの担当者による人材活用・求人講座
● 社会保険労務士による個別相談会
● 講師が現場を訪問して行う業務改善支援
⋯手厚すぎませんか?
ここで、受講生の金井大地さんの作業場で行われた、業務改善支援の様子をお伝えします。
金井大地さん
金井さんは、富岡市星田のレタス農家。父親の後を継ぎ、年間約60トンのレタスを栽培しています。以前は全ての作業を家族中心で担っていましたが、令和5年度から経営改善実践スクールに参加し、昨年初めてアルバイトの雇用に踏み切ったそうです。
家族相手なら「なんとなく」指示をしてもどうにかなっていましたが、新しいスタッフにはそうはいきません。今回の業務改善支援では、収穫したレタスの調整・包装におけるマニュアル作りに取り組みます。
ファームサイド株式会社の石原さんが一緒に作業を行い、マニュアル作りに取り組む。
外の葉を一枚むくのか、むかないのか。いつも金井さんが感覚で判断していることを、石原さんが「このキズはどうですか?」「この出っ張りは?」と細かく確認し、写真に収め、言語化していきます。そのほかにも、「カゴをこうやって置いた方が作業しやすいかもしれません」といったアドバイスもしていました。
こうして作成したマニュアルを元に、レタスの包装作業をアルバイトに任せられるようになった金井さん。その分増えた時間を、生産管理や品質向上の研究に充てられるようになったそうです。
スクールで様々な実践を重ねてきた金井さん
金井さんにお話を聞きました。
― ずっとご家族で作業をしていて、外部の人に入ってもらうことに抵抗はありませんでしたか?
金井さん:抵抗はありました。でも「家族だけじゃダメだよね」とは以前から話していて、講演会に参加してみたり、県の担当者に相談したりもしていたんです。ただ、具体的に何をするのかまではたどり着きませんでした。労災や雇用契約書についても、10年前に聞きに行ったことがあるんですが⋯今回、社会保険労務士さんの個別相談に参加して、「今は内容が変わってきています」と言われてしまいました。会社員と違って研修がないので、アップデートができないんですよね。
― それに、目の前の仕事が忙しいと、面倒なことはつい後回しにしてしまいますよね。その点「経営改善実践スクール」は、いろんな人が周りにいるのでサボることができませんね。
金井さん:言われたことをやっていないと、大塚さんや石原さんから「あれってどうなりました?」と聞かれるので、忙しいのを理由にできないです(笑)。それにこのスクールは、1年やって終わりではなく毎年続いているので、どんどん次のステップに踏み出すことができています。
横のつながりの大切さ
「経営改善実践スクール」では、他地域の農業者の取り組みを見学し、自身の取り組みを客観的に見つめ直す機会として、県外への視察研修も行っています。今回は千葉県を訪れ、1泊2日で3軒の農家さんを視察しました。
千葉県鎌ケ谷市にある濵田農園にて
スクールの1年の締めくくりとして行われた成果報告会では、この視察研修について触れる受講者が多く、大きな刺激となったことがうかがえました。
そして成果報告会で感じたことがもう一つ。それは、農家さん同士の横のつながりが、受講者にとって大きな励みになっているということでした。
懇親会にて
農林課の大塚さんと講師の佐川さんにお話を聞きました。
― 富岡市は、なぜこのような“実践型のプログラム”を行っているのでしょうか。
大塚さん:過去に、有名な農業経営者を招いて講演会を開いたことがありました。富岡からもこんな農家さんが生まれるといいなと思ったんです。しかし、講演を聞いた時には「自分もやるぞ!」と意気込んでも、何から手をつけていいのかわからない人や、日々の仕事で忙しくてそれどころではない人が、ほとんどだと気づいたんです。
そこで出会ったのが、小さな経営改善ノウハウが書かれた佐川さんの著書でした。これだ!と思い佐川さんに講師をお願いしたところ、快く引き受けてくださったんです。
― やるべきことが細分化されていて、段階的に進められるのがとてもいいなと思いました。
佐川さん:時間が掛かるし根気も必要ですが、下地づくりから取り組んで自信をつけることは大切です。経営を見直すことのないままマーケティングや法人化だけを進めても、それはそれで苦しい結果になってしまいます。
そして他の農家さんと一緒に学ぶことで、相乗効果も生まれます。普段、農家さん同士で何をどう実践しているかを話し合うことはあまりありません。そこをオープンにしたいんです。これまでに受講した人が、次の人に教えられるようになるといいですね。
好きで農業をしている方が苦しい思いをするのではなく、生き生きと楽しめていると、それが地域の強さにもなると思います。
「令和8年度の経営改善実践スクールで待ってます!」
これから農業を始めてみたいみなさん、すでに農業をやっているみなさん、富岡市にはこんなに素敵なコミュニティがあります。
一人で戦うよりも、心強いかもしれません。誰かと一緒に進むことで、見える景色も変わっていくかもしれません。
気になった方は、富岡市農林課までお気軽にお問い合わせください。
(ナカヤマ)


