「やわらかくて、あたたかい」
はじめて山岸みつこさんのイラストを目にしたとき、そのような印象を受けました。
季節のうつろいを身近に感じる妙義でこの絵が生まれているのだと知り、どこか納得したことを覚えています。
北海道からこの地へ移り住んだ山岸さん。
移住のきっかけや地域での暮らし、そして創作への思いについてお話を伺いました。
「古民家カフェ 桑庵」にて
【山岸 みつこ さん プロフィール】
北海道札幌市出身。北海道教育大学美術科卒業後、アートの道へ進む。
オリジナルの生き物や動植物をモチーフに、イラストをはじめ、絵本・壁画・ファブリック・立体作品・オリジナル雑貨など、幅広い制作活動を行う。札幌や東京で個展を開催し、さまざまなアーティストとのコラボレーション作品も発表。絵本塾出版より2冊の絵本が出版されている。
妙義との出会いと移住のきっかけ
― 北海道出身の山岸さんが、妙義に移住されたきっかけを教えてください。
山岸さん:今から15年ほど前、家族ぐるみで付き合いのあった友人夫婦が妙義へ移住することになり、その引っ越しの手伝いで訪れたのがきっかけです。
そのときに見た妙義山の迫力、そして山の魅力に圧倒されたことは、今でもよく覚えています。
その後も何度か訪れる機会があり、友人からも移住を勧めてもらっていましたが、自分なりの覚悟が必要でなかなか決心することができずにいました。
母や姉が東京に住んでいたことや、いろいろな状況の後押しもあって、ようやく移住を決意したのが2017年頃でした。
― 札幌と妙義では、暮らしにどのような違いがありますか?
山岸さん:札幌では冬になると雪が降るのが当たり前で、毎年雪かきに追われていました。こちらでは雪が降ることはめったにないので、その点はずいぶん楽に感じます。
一方で、札幌市内は交通の便が良く、車がなくても生活できていました。妙義ではどこへ行くにも車が必要になるので、免許を持っていなかった私は、最初のうちは不便に感じることも多かったです。
移住を機に免許を取得してからは、日常の移動に困ることもなく、安心して暮らせるようになりました。
― 地域の方との関わりはいかがですか?
山岸さん:最初は環境の変化についていくのに精一杯でした。自分はよそから来た「新参者」なんだと、どこか無意識に身構えてしまっていた部分もあったかもしれません。
それでも暮らしを重ねるうちに、地域の方との距離も少しずつ縮まっていきました。今ではいろいろなことを教えていただいたり、助けていただくことも多く、あたたかく支えてもらっていると感じています。

妙義という場所が与えてくれるもの
― 妙義での暮らしと、イラストレーターという職業の相性はいかがですか?
山岸さん:今はどこに住んでいても絵の仕事ができる時代なので、札幌で築いたつながりを保ちながら、ここで制作を続けることができます。
ただ、“妙義だからこそ”できることを考えると、まだまだ自分は何もできていないな、と感じています。
ここは古いものを守るだけの町ではなく、新しいものを受け入れようとする空気がある地域だと思います。観光客を含め、多くの人を惹きつけるポテンシャルを持ち、変化しながら魅力を広げていこうとしている場所です。
ものづくりをする人間にとっては、モチベーションを与えてくれる土地なのではないでしょうか。

山岸さんが描くやわらかな世界
― 妙義でのお仕事のつながりもありますか?
山岸さん:はい。移住して間もない頃に、同じく移住者である『月とゆふづつ』店主の西尾さんと知り合いました。
【珈琲焙煎所 月とゆふづつ】西尾祐諄(にしお ひろし)さん|まゆといと
コーヒーが好きだったので、お店によく通っていたんですが、そのご縁からイラストのお仕事をいただき、コーヒーのパッケージやショップカードのデザインをさせていただきました。
ここでも絵の仕事で地域とつながっていくことができそうだ、と思えるきっかけになったことが、とても嬉しかったです。
妙義には先輩移住者の方も多く、暮らしのことや地域のことを教えてもらう機会にも恵まれています。そうしたつながりに支えられながら、少しずつこの土地での生活に馴染んでいくことができたのだと思います。
お気に入りのお店「古民家カフェ桑庵」のショップカードの作成も
絵とともに歩んできたこれまでと今
― 幼少期はどのようなお子さんでしたか?
山岸さん:ごく普通の子どもだったと思いますが、絵を描くことはずっと好きでした。5歳年上の姉が絵や漫画を描いていたりしていたのもあって、家には自然と絵を描く環境があったんです。
お姉ちゃんのようにはできなくても、絵の仕事がしたい── そんな思いを抱いていましたね。
その後、大学で油彩を専攻し、アートの道へ進みました。
― 現在の活動について教えてください。
山岸さん:東京や札幌で個展を開催したり、店舗や個人から依頼を受けてイラストの制作をすることもあります。札幌にいた頃の仲間とも活動を続けていて、定期的に冊子の制作をしたり、グループ展やイベントへの参加をしています。
妙義では、妙義山をモチーフにしたタオルやイラストカードなどを作り、「道の駅みょうぎ」で委託販売も行っています。
東京・日本橋のギャラリーでの個展の様子
山岸さんの絵が、暮らしのなかで使えるタオルに。
― イラスト以外の活動もされているそうですね。
山岸さん:はい。もともとお菓子づくりが好きで、札幌にいた頃は友人が営む焼き菓子のお店を手伝っていたこともありました。妙義ではいろいろな人が訪れ集まる拠点ともいえる「道の駅みょうぎ」で、なにかできることがあればと思っていたのですが、お菓子も自分のできる表現の一環としてやっていけそうと考えていて、今年から販売を始めました。
今は「道の駅みょうぎ」で、月餅やマフィンを販売しています。パッケージのデザインも自分でしているので、そうした部分も含めて楽しいと感じています。
絵以外のものでも、自分の作ったものを手に取っていただけるのは、また違った嬉しさがありますね。
素材にこだわった焼き菓子は登山客にも人気
観光客や地元の方でにぎわう「道の駅みょうぎ」(Googleマップ)
人とのつながりから見えてきたもの
― これからやってみたいことを教えてください。
山岸さん:大きなことから小さなことまで、やってみたいことを挙げたらきりがないのですが、最近はいろいろなご縁が巡って、自分に返ってきているように感じています。
道の駅みょうぎでのお菓子の販売をはじめ、人とのつながりから少しずつ道がひらけてきた実感もあります。これからは地元で採れる野菜や果物を使ったお菓子づくりや、妙義山をモチーフにしたゆるやかで親しみのある雑貨づくりなど、少しずつでもできることから形にしていきたいと思います。
絵を描くことは一人でも完結できる世界ではありますが、せっかくここで暮らしているのだから、地元にいるさまざまな分野の方とゆるやかにつながりながら、ものづくりをしていけたら── そんな思いがあります。
そうした人と人とのつながりから生まれるエネルギーと、妙義山の持つ圧倒的な自然の力が重なり、この地域がさらに魅力を増していくのだと思います。そのなかで、自分もほんの少しでも関わり続けていけたら嬉しいです。

妙義の自然のなかで、自分のペースで暮らしながら、表現を広げていく山岸さん。
その歩みは決して急がず、けれど確かに前へと進んでいます。
やわらかなぬくもり。
その印象は、イラストだけでなく、言葉や暮らしのなかにも静かに流れていました。
妙義で積み重ねていく日々が、これからどんなかたちになっていくのか。
その続きを、これからも楽しみにしたいと思います。
(マツオ)


