富岡市の暮らしと移住のWEBマガジン
まゆといと

2019.08.05 イベント

東京と群馬で笑顔を届ける 赤石 涼帆さん

一般の市民100人が100日間で作り上げるミュージカルが、日本各地で行われているという。その公演を群馬で開催するため、平日は職場のある東京で暮らし、週末は群馬で暮らすという「二拠点生活」をしている富岡市出身の女性がいる―――

 

そんな話を小耳に挟んだのは、たしかまだ寒い季節だったと思う。

 

どんな人なのだろうと興味を持ちつつも月日は流れ、しばらくしてその公演が、8月24・25日に前橋で行われると知った。

そこで舞台の告知も兼ねて、お話を聞かせてもらうことにした。

 

 


 

 

舞台本番まで1ヶ月を切ったこの日、練習場所のホールに足を踏み入れると、そこは独特の緊張感と高揚感で包まれていた。

 

というのも、本番用の衣装を着用しての通し練習はこの日が初めてで、しかも公開練習日とあって会場には多くの見学者が訪れていたのだ。

 

 

 

 

上演されるミュージカル『A COMMON BEAT(コモンビート)』は異文化理解の大切さを訴える作品で、主催のNPO法人コモンビートはこの作品だけを日本各地で上演し続けている。

 

公募で集まった100人のキャストは、年齢・職業・国籍・参加動機も様々。

「多様な考えをもつ人たちと、ひとつの目標に向かって一緒に歩む過程で、自然と互いの個性を認めあう方法を育み合っていく。」

それがこのミュージカルプログラムの真の目的だ。

 

 

 

 

単にミュージカルをやってみたくて参加した人もいるだろうし、自らの壁を乗り越えるために参加した人もいるだろう。100人100様の想いを持って彼らはここに立っている…。そう想像しながら見ていると、キャスト一人ひとりが主役に見えてくる。

 

歌とダンスのスキルも様々だが、全員の声が重なり合った時の迫力には鳥肌が立った。これは1ヶ月後の本番には、とても素人が100日で作り上げたとは思えぬ作品に仕上がるのではないだろうか。大人の本気を見た気がした。

 

 

 

 

その中で青色の衣装に身を包み、小柄な体で力強く歌い踊っているのが赤石涼帆さん。

富岡市出身で、今回の「第51期群馬100人100日ミュージカルプログラム」のプロデューサを務めるのが彼女だ。

 

プロデューサーとして舞台に臨むのは初めてだという赤石さん。いったいどんな想いでこの公演を立ち上げたのだろうか。

 

 

 



 

 

赤石さんが初めてこのミュージカルプログラムにキャストとして参加したのは大学生の時。その頃はまだ東京・大阪・福岡といった大都市でしか開催されていなかったため、当時住んでいた関西で参加した。その時に、「群馬にもこの空間を持って行きたい」と強く感じたという。

 

 

 

異質なものが集まる空間

 

 

― 初めてコモンビートに参加した時の印象を教えてください。

 

赤石さん:その土地に住む人とつながったり、その土地に住む人が元気になったり、そういうパワーがある作品だなと思いました。

 

 

赤石さん:まず私自身、歌もダンスもそんなに得意ではないし、大人数よりも一人でいる方が楽だったので、チャレンジの連続でした。周りを見ても、それぞれが練習を頑張っていたり、練習に来れない人のフォローする人がいたり…。

そういった様々なチャレンジと、そのチャレンジを後押しして支えるという関係性が、いろんな年齢のいろんな人によってつくられている。というのが一番の衝撃だったんですね。

 

大都市はよそ者の集まりなので、バックグラウンドが違う人間同士の関係性が存在する場は他にもいっぱいありますが、私は群馬にいる時に学校や親や地域のつながり以外の「異質なものが集まる」という空間を感じたことがなかったんです。

その異質なものとの交わりが、自分の価値観を広げてくれたり新しいものを見せてくれたりしたので、群馬にこそ、地方にこそ、「色んな人が集まって何かをする」というものが必要なんじゃないか、とその時に思いました。

 

 

―これは地元群馬でもやったほうがいい!と思ったんですね。

コモンビートに参加する前には、地元で何かをしたいという想いはありましたか?

 

赤石さん:正直できる方法がわからなかったので、あまりなかったんですよ。大学卒業後に帰るにしても教員になるくらいしか当時の私には選択肢がなかったので、地元に帰るという選択もしませんでした。

でも住む以外にもいろんな地元の盛り上げ方があることを知れて、今こうしてできているのでよかったです。

 

 

都内のイベントでコモンビート第51期群馬についてプレゼンする赤石さん。

 

 

 

1対1のナナメの関係をつくりたい

 

 

―  赤石さんが務める「プロデューサー」とは、どういったことをするのでしょうか。

 

赤石さん:プロデューサーの役割は、100人のキャストを集めて、練習を組み立て、その100人が心から納得できる舞台を作るというものです。

いわゆる作品のクオリティを高めるのが演出の役割で、私はプロデューサーとして、練習でどういうアクティビティを入れたらいいかとか、どの時期にどういう気づきをしてもらいたいかとか、関係性を強くするためにはどんな仕掛けをとっていくかなどを考えています。

 

基本的に全国の事務局が持っているのはこの作品と大道具くらいで、用意されたアクティビティも1、2種類しかなくて、あとは各地域で「やりたいように料理をしてやってください」という感じなんです。

 

― その土地、その時時によってまったく違う魅力が生まれるんですね。

 

赤石さん:2年前に群馬で初めて立ち上げた人が作った100日と、今私が作っている100日とでは、同じ群馬でも違いますね。

 

私が今回、最も大切にしていることは “関係性” です。異質な関係―私は “ナナメの関係” と呼んでるんですけど。

家族でも職場でもない、普通だったら出会わないような人が、「自分の殻をやぶりたい」とか、「もっといろんな人と会いたい」とか、様々な理由で集まってきている。その空間でできた関係性は、公演が終わったあとも人間関係をすごく豊かにしてくれると思っているんです。

 

 

 

 

 

人生一生チャレンジ

 

 

― 今回、プロデューサーでありながらキャストも兼任するということで、かなり大変なのでは?と思うのですが。

 

赤石さん:これまでに参加した時に感じた、「作る人と作ってもらう人」「指示を出す人と出される人」という構図から脱却をしたいという想いがあったんです。1対1の関係を築いて欲しいのならまず、私が1キャストとしてぶつかって、その姿を見てもらいながら「これが大事なんだ」と言いたいと思って。

 

始めたものの、やはりどこか「こう感じてもらおう」とか「こうなってほしい」などと上から押し付けてしまう自分もいます。今回はそこから抜け出すための挑戦でもあるんです。

 

 

― 挑戦の真っ只中なんですね。赤石さんが、現在の活動を通してみなさんに一番伝えたいことを教えてください。

 

赤石さん:「人生いくつになっても挑戦」「人生一生チャレンジ」ということです。

 

1対1の関係性を築くことって、100人いたらそれだけ痛みもあるし、気が合わない人もいるし、理解できない意見もある。そこから諦めず対話をしたり、それぞれのチャレンジとチャレンジが連鎖をしていくと、本当に本気で泣けるし本気で笑えて、一生続く仲間になるんですよね。

その感覚は、私にとっては高校の部活動と同じ。このコモンビートって大人の部活動、“青春” だと思っています。

 

大人になると意識をしないとチャレンジって忘れてくんですけど、それを思い出すきっかけになってくれたらと思います。

 

 

 

 

 

人を元気にすることを続けたい

 

 

― この100日が終わった後、これからのことについては何か考えていますか。

 

赤石さん:この先は、コモンビートという形で続く必要はないと思っています。

今回はコモンビートというプログラムの力を借りたけれど、正直100人集めるのはすごく大変で。群馬は土日に仕事をしている人も多いので、このプログラムが最適だとは思っていないんです。

 

なので終わった後は、今ある形を柔軟に変形させて、この “ナナメの関係性” が続く仕掛けをたくさん作っていこうと考えています。それこそ富岡市だったり、地域のいろんな活動ともコラボしながら、人を元気にすることを続けていきたいです。

 

 

― 富岡でも何かが始まりそうですね!

ところで、外に出てみてわかった「富岡の特色」って何かありますか?

 

赤石さん:元気な大人が多いと思います!

富岡が面白い活動をしていたり、面白い大人がいるということを学生時代は全く知りませんでした。だから正直そんなに故郷に対して愛着もなければ、家族以外につながりがあったわけでもなくて。

今この活動を通して群馬や富岡のいろんな団体や人の存在を知っていくことで、「こんなに面白い地元だったのか」と、すごくイメージが変わりましたね。富岡は本当に面白いですよ。

 

 



 

 

忙しそうに練習に戻っていった赤石さんは、キラキラと輝いて見えた。それは、他のキャストたちも同じだった。

 

挑戦し続ける人間と挑戦を諦めた人間では、得るものの差は歴然としている。

そうわかってはいても、誰もが動き出せるわけではないだろう。

 

 

目の前にある階段を上ってみたいけれど勇気が出ない。そんな時に、手を差し伸べてちょっとだけ引っ張ってくれる人。

階段を上り始めたらいつの間にかいなくなっていて、振り返ると後ろから「大丈夫だよ、そのまま進もう。」と言ってくれる人。

 

赤石さんはそんな人のような気がした。

 

 

彼女が今後富岡で何か面白そうなことを始めたら・・・

巻き込まれてみるのも、いいかもしれない。

 

(ナカヤマ)

 



 

公演情報(終了しました)

 

 

ミュージカル『A COMMON BEAT』

第51期群馬公演

 

公演日程:2019年8月24日(土)・8月25日(日)
会場:昌賢学園まえばしホール 大ホール
主催:NPO法人コモンビート

 

上演スケジュール
(1)8月24日(土) 開場 19:00 開演 19:30 終演予定 21:00
(2)8月25日(日) 開場 12:30 開演 13:00 終演予定 14:30
(3)8月25日(日) 開場 17:00 開演 17:30 終演予定 19:00

 

チケットご購入ページ
https://musical-acb.com/ticket/

 

 


 

 

拝啓、お元気ですか。【中編】