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まゆといと

2026.04.03 地域で働く

文化財と人をつなぐ─ フランスから富岡製糸場へ来た研修生 ディン・アマリルさん

ある週末の午後、私は七日市黒川地域づくりセンターで行われたフランス語カフェに参加しました。

今回のテーマは「フランスの世界遺産のおはなし」。講師を務めたのは、フランスから来日したフランス国立文化財院の研修生、アマリルさんです。

 

会場では、フランスの栗のお菓子「アルデショワ」がふるまわれ、各テーブルでは参加者のみなさんがアマリルさんとの会話を楽しんでいました。

 

ゆったりとした時間のなかで、小さな日仏交流の場が広がっていきます。

いつもの日常に、ほんの少しだけ異国の風が吹き込んだような、そんなひとときでした。

 

アマリルさんの落ち着いた語り口にすっかり魅了された私は、彼女の活動に興味を抱き、後日あらためて詳しいお話を伺うことにしました。

 

 

 

 

【DINH AMARYL(ディン・アマリル)さん】

フランス国立文化財院のインターンシップ制度を活用し来日。6週間の研修期間を富岡製糸場や関連施設で過ごしながら、専門分野の学びを深め、地域の人々との交流も大切にしている。

 

●フランス国立文化財院(Institut national du patrimoine)とは…

文化遺産の保存や修復について専門的に学ぶことができるフランスの教育機関。入学は非常に難関とされ、選ばれた学生のみが学ぶことのできる場でもある。

 

 

 


 

 

 

幼いころから憧れた学芸員への道

 

 

― アマリルさんはフランス国立文化財院でどのような勉強をされていますか?

 

アマリルさん:私は「学芸員」になるための勉強をしています。学芸員にもさまざまな専門分野がありますが、私はINVENTAIRE(アンヴァンテール)という「文化財の調査・目録作成」を専攻しています。

ここではフランス文化省が行っている「文化財一般調査」に携わる専門家を育成しており、国内や周辺地域にどのような文化遺産があるのかを調べ、公的な記録として記述・登録する方法を学んでいます。

例えば、ある地方の町に古い教会や特定の経済活動がある場合、その地域を訪れて一つひとつ調査をし、記録として残します。これが、将来的に文化財として保護されるための第一歩となります。

 

— その道を志したきっかけは何だったのでしょうか?

 

アマリルさん:両親が古い教会や文化遺産の建物が好きで、幼いころから一緒に訪れていました。その中で文化遺産の魅力に触れ、中学生の頃には将来この分野に関わる仕事がしたいと考えるようになりました。

フランスでは、文化財や美術館を訪れることが日常の一部として親しまれており、国としても文化財保護に力を入れています。そのような環境が、私の原点につながっているのかもしれません。

また、両親もこの道へ進むことをとても喜んでくれており、今も変わらず応援してくれています。

 

 

検査人館内の貴賓室(非公開エリア)にて

 

 

 

 


 

 

 

歴史のつながりに導かれて

 

 

— 数ある世界遺産の中で、なぜ富岡製糸場を選ばれたのですか?

 

アマリルさん:私はフランスと他国との間における技術交流の歴史、特に繊維分野(たとえばインドシナにおけるレース技術)に関心があります。19世紀には、フランスと富岡製糸場にはつながりがあり、その歴史的な関係性にも惹かれました。

フランス南東部には絹産業が栄えた地域があり、これまでに(富岡製糸場との関わりが深い)セルドン銅工場や、ボネ絹工場を見学したこともあります。そうした経験から、日本の絹産業の歴史にも関心を持つようになりました。なかでも富岡製糸場は、当時の建物や機械が現在も残されており、実際にその場所で学ぶことができる点に大きな魅力を感じました。

そのような理由から、現地で学びを深めたいと考え、今回の研修先として富岡製糸場を選びました。また、フランス国立文化財院としても、アジアの重要な世界遺産である富岡製糸場との関係を深め、今後の連携に繋げていきたいという背景もあります。

 

 

 

 

 


 

 

 

世界遺産のまちでの学びと暮らし

 

 

— 研修期間中はどのような活動をされているのでしょうか。

 

アマリルさん:研修では、富岡製糸場の歴史や価値について学ぶとともに、日本特有の地震に対する文化財の保存・修復の方法についても理解を深めました。フランスとは異なる自然環境のなかでどのように文化財を守っていくのかという視点は、とても興味深いものでした。

また、座繰り体験や養蚕のお世話など、実際に手を動かして学ぶ機会もありました。そうした体験を通して、資料だけでは得られない理解の深まりを感じています。

さらに、製糸場内の研究センターからの依頼を受け、富岡製糸場の設立に至ったヨーロッパ側の背景をよりよく理解するための、フランスの公文書での調査に協力しました。外国の研究者と交流し、現地で得られた情報と自国との間をつなぐ役割を担えることは、私にとって非常に有意義だと感じています。

 

 

国際交流員のヴェロニックさんと

 

 

アマリルさん:その他にも、西置繭所のホールで開催されるイベントに参加し、地域の方々がこの場所を活用している様子を間近で見る機会がありました。文化財を保存するだけではなく、人が集い、交流が生まれる場として活かされていることに、強く心を動かされました。

また、国際交流事業にも参加し、国際交流員のヴェロニックさんと市内のこども園を訪れたり、地域づくりセンターで行なわれたフランス語カフェで日本語による発表を行ったりと、多くの人と関わる経験を重ねました。

こうしたさまざまな活動を通して、文化財は単に守る対象ではなく、人と人をつなぐ存在であることを実感しています。

 

― 研修中はさまざまな場所へ足を運び、地域の人々との交流も深めたのですね。アマリルさんが充実した日々を過ごされたことが想像できます。

 

 

七日市黒川地域づくりセンターで行われたフランス語カフェの様子

 

 

— 富岡での暮らしの印象はいかがですか?

 

アマリルさん:富岡市は周辺に山や川があり、自然を身近に感じられるところが魅力的で、とても住みやすい街だと感じています。冬のパリは曇りや雨の日が多いのですが、富岡は晴れの日が多く、その違いにも驚きました。

研修期間中は上信電鉄を利用して通勤していますが、パリの電車に比べると車内は静かで快適で、移動の時間も心地よく過ごせています。車窓から見える風景ものどかで、日本らしい景色を楽しんでいます。

また、日本のスーパーマーケットには便利な商品が多く、営業時間も長いので買い物をすることも楽しみのひとつです。

そして何より、市民のみなさんがとても親切であたたかく迎えてくださっていることが伝わり、安心して過ごすことができています。こうした人との出会いも、この滞在の大きな魅力だと感じています。

 

 

アマリルさんとヴェロニックさんは同世代ということもあり、とっても仲良し。

 

 

 


 

 

 

未来へつなぐ想い

 

 

— アマリルさんの将来の夢を教えてください。

 

アマリルさん:私は学芸員として文化財を守り、その価値を多くの人に伝えていきたいと考えています。フランスには「知るものは守る」という言葉があり、理解することが保護につながるという意味があります。文化財も同じで、その背景や価値を知ることで、人々の意識が変わり、守る力につながっていくのだと思います。

また、文化財は単に保存されるだけではなく、人と人をつなぐ存在でもあると感じています。今回の研修を通して、富岡製糸場が地域の人々の交流の場として活用されている様子を見て、その可能性を強く実感しました。

将来はできるだけ都市部ではなく地方の地域で、学芸員として働きたいと考えています。地方にはまだ知られていない魅力的な文化財が多くある一方で、その価値が十分に伝わっていない場所もあります。そうした地域で、文化財の魅力を伝え、人と地域をつなぐ役割を担っていきたいです。

文化財を通して人のつながりが生まれ、その先に新たな価値や交流が広がっていく── そんな循環を作ることがこれからの目標です。

 

 

 

 

 

 


 

 

アマリルさんのまじめで真摯な受け答えからは、内に秘めた強さと、まっすぐに学びに向き合う姿勢が伝わってきました。

自分の選んだ道を、自分の足で一歩ずつ進んでいく。その姿はとても印象的で、彼女の今後の歩みに期待がふくらみます。

遠くフランスからこの地を訪れ、学びを深め、地域の人々との交流も重ねてきたアマリルさん。これからどんな未来を切り拓いていくのか、その歩みを応援したいですね。

 

(マツオ)

 

 


 

 

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