富岡市の暮らしと移住のWEBマガジン
まゆといと

2025.07.04 移住-Iターン

とみおかで農家になる!~ひろきさんの挑戦~

照りつける太陽の下で畑仕事にいそしむ彼の名は、ひろきさん。鍬を持つ手もサマになっています。

 

実はひろきさんは、この春に東京からやってきたばかりのフレッシュな移住者さん。そして「新規就農者」として農業の道へ歩みを進めたばかりなのです。

 

まっすぐに農業と向き合う日々を過ごす青年に、ここへやってきた理由や将来のお話を聞いてみたい。そう思ったマツオが、ひろきさんにお会いしてきました。

 

 

 

【渡辺 広紀さん(わたなべ ひろきさん)】

東京生まれ東京育ちの34歳。大学院を卒業後、都内のIT企業に勤務。この春、農家になるために単身で富岡市に移住。趣味は登山とキャンプ。

 

 


 

 

 

夢を実現するために…富岡市を選んだ理由

 

― 東京でシステムエンジニアとして働いていたそうですが、ひろきさんが農業に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

 

ひろきさん:東京で働いていた頃は、早朝に電車で出勤し日が暮れた後に帰宅する毎日を送っていたので、「太陽の下で働きたい!」という思いが強くありました。そんな日々のなかで、自分が就いている仕事に対してもモヤモヤとした疑念を抱くようになったんです。ITは頭脳労働なので人によって成果に大きく差がありますが、給料はそこまで変わりません。そのことに違和感を覚えて、農業のように「量✕質」で収益が決まる、シンプルでわかりやすい指標に憧れるようになりました。

 

― 都会でお仕事をしていたからこそ、自分の本心に気づいたんですね。

 

ひろきさん:元々アウトドア派で、山も田舎も大好きだったので、漠然と「農家っていいな」という憧れは持っていました。でも自分は東京育ちで親族にも農家はいなかったので、農家になるのは遠い夢だと思っていたんです。

それでも就農したいという気持ちが高まり、その夢を叶えるにはどうしたらいいのか?と考えて調べてみたところ、「スマート農業」というものを知りました。私が農家になったら、自分の専門分野であるITと農業をかけ合わせて多様なことができそうだな、と思いました。

 

 

 

 

― なぜ富岡市を選んで移住されたのでしょうか?決め手があればお聞かせください。

 

ひろきさん:移住するなら、実家がある東京からあまり遠くない関東圏がいいなと考えていたんです。富岡と東京は高速道路を使えば片道1時間半で行き来できるので、そこは大きかったですね。

また、富岡市は気候が良くさまざまな作物を栽培できるので、作物選びの選択肢が多いという部分も魅力だと感じました。農業未経験の私は自分のライフスタイルに合う作物がまだわからないので、これから探っていきたいと思います。

 

― ひろきさんは事前にリサーチした上で、移住先を富岡市に決めたんですね。では、富岡市で新規就農者が支援を受けられることを知ったのは、どのタイミングですか?

 

ひろきさん:会社勤めをしながら就農について調べていた時に知った『新・農業人フェア』というイベントに参加した時です。そのイベントでは日本全国の自治体が出展ブースを設けていて、私は関東圏を中心に10件程度の自治体を訪問しました。そのなかの一つである富岡市のブースを訪れた際に、新規就農者への支援制度が充実していることを知り、就農後の販路(インショップや農産物直売所など)が多様なことや、気候や環境を含むこの土地の魅力に強く惹かれたんです。

その時のブース担当だった農林課の大塚さんが真摯に対応してくれたこともあり、「富岡市なら就農への夢が実現できるかもしれない」と希望の光が見えました。そしてそこから大塚さんと連絡を取り合い、具体的なアドバイスをもらいながら着実に準備を進めてきました。

去年は、野菜作りの基礎が学べる『群馬県立農林大学校』に東京から通い、野菜作りの基礎を学びました。大塚さんをはじめ県や市の担当者の方々が、自分一人では辿り着けなかった道へ導いてくれたことに感謝しています。

 

― 夢を実現するためにすぐに行動に移す姿勢も素晴らしいです!

 

 

 


 

 

「本気で頑張る人を応援したい!」

 

農業をやってみたいけれど、具体的にどんなことをすればいいの?と悶々としている方もいるのではないでしょうか。

富岡市には、ひろきさんのように知り合いに農家がいなくても、県や市のサポートを受けながら着実に就農できるシステムがあるようです。

ということで、就農イベントでひろきさんの心をがっちり掴んだ富岡市農林課の大塚さんに、詳しいお話をお聞きしました。

 

 

農作業中のひろきさんを気にかけ、応援にかけつけた大塚さん(写真右)

 

 

― 最近では田舎暮らしが注目されていますが、就農に興味を持って移住する方は多いのでしょうか?

 

大塚さん:はい、田舎暮らしに関心を持っている方が多いのは事実ですね。最近は就農イベントに足を運んでくださる方が増えていて、ありがたく思っています。相談に来る方の年齢層はさまざまで、若い方もいれば、リタイア後の人生を農家として暮らしたいという方もいます。なので、みなさんがイメージしている「農家」がどのようなものなのかを最初にお聞きしています。

農家さんは体力勝負な部分が大きいので、暑さ寒さのなかで作業をすることへの覚悟が必要です。収入面でも、就農後すぐに軌道に乗れるのかどうか、未知な部分があります。そのようなお話をした上で、本気でやってみたいという方には、どんな支援を利用できるのか?とか、どの位の準備時間をかけて独立に向けて取り組むのか?といったお話をしています。

 

― 新規就農者への支援はどのようなものがありますか?

 

大塚さん:富岡市では今年度から、『とみおか農業研修受け入れ協議会』を設けて、新規就農者さんが安心して営農できる環境作りに力を入れています。新規就農者さんの多くは他の地域からやってきて、最初のうちは農業以外のことでも、わからないことや戸惑うことがたくさんあると思います。そのようなケアも含めて、JA甘楽富岡や市・県の関係機関が連携し、新規就農者さんを温かくサポートしています。

具体的には、研修受け入れ農家の紹介、農地の確保に向けての情報提供や、住居探しをしている方への(空き家などの)情報提供、賃貸借住宅家賃の補助など、さまざまな支援があります。新規就農を本気で考えている方に、その人に合ったプランを考え、農家として独り立ちできるようしっかりとサポートさせていただきます!

 

富岡市での新規就農について | 富岡市

 

 

 

 

― 初めてひろきさんに会ったときの印象や、農業研修に励んでいる現在の姿を見て感じることがあればお聞かせください。

 

大塚さん:最初に就農イベントでお会いした時、ひろきさんからは「本気で農業に取り組みたい」という意気込みを感じて、こんなに真剣ならば私たちもしっかりサポートさせてもらおう!と素直に思いました。ひろきさんは周りの意見や指導に素直に耳を傾けられる人ですし、わからないことを理解しようとする柔軟な姿勢も持ち合わせているので、素晴らしいと思います。

 

― これから富岡市で就農したいという方へ、メッセージをお願いします。

 

大塚さん:いつの時代においても農業という道を選び、生活していくのは大変なことです。 それでも、良い景色の中で気持ちよく作業ができる稀有な産業ですし、人々の生活に欠かせない食糧生産を担うという使命感は、他の産業では得られないものです。これから農業を本気でやりたい!という方がいれば、私たちも可能な限りお手伝いさせていただきます。

 

― 大塚さん、ありがとうございました!

 

 

 


 

 

 

農業研修とはどんなもの?

 

ひろきさんは移住一年目の今年を就農研修期間に充てていて、普段は研修先の『白石農園』で畑仕事をしています。

白石農園代表の白石義行さんは、今までに多くの新規就農者を指導してきた経験があり、とても頼りになる存在。そんな白石農園での研修の様子を、ひろきさんにお聞きしました。

 

― 農業研修を始めてみて、今現在感じていることはありますか?

 

ひろきさん:毎日が同じ作業ということがなく、日々新しい学びがあることが新鮮です。白石さんから学ぶことは本当に多く、視野を広く持つことが大事だと実感しました。白石さんはよその畑の作物の状況にも目を配っていて、細かな変化などに注目し、自身の糧にしています。そんな師匠の姿を見ていると、農業に役立ちそうなものだけではなく、日常の全てのものにアンテナを張って、吸収しないといけないなと感じます。

さらに、白石さんは私の独立を見据えて「自分で判断し行動する」という習慣をつけるよう促してくれるんです。やるべき作業を見極めて優先順位をつけることは、やりがいを感じるとともに大変なことだと感じています。

 

 

誘引紐にナスの枝を固定する作業。コツがつかめず苦戦中(汗)

 

 

― 現在の生活のタイムスケジュールを教えてください。

 

ひろきさん:季節や日によって作業内容や時間は変わるのですが、農作業をする日はこんな感じです。

7:00 朝食、弁当作り

8:30 白石さんの作業場に到着後、出荷作業や畑の管理作業

12:00 お昼休憩

13:00 畑の管理作業

17:00 作業終了

のどかな景色に囲まれて太陽を浴びながらの畑仕事は、会社勤めの頃とは全く違う環境で面白いです。

 

― 研修中は休日はありますか?

 

ひろきさん:1ヶ月に約140時間前後の研修を行い、週1〜2日のお休みをいただいています。とは言え、経験を得られる大事な作業日が休日とかぶっている場合は、(よろこんで!)畑へ出動します。

今は移住したばかりなので、身の回りを整えることで忙しくしていますが、これから余裕が出てきたら休みを減らして、農業研修の時間を増やそうと考えています。

 

― お休みの日はどのように過ごしていますか?

 

ひろきさん:妙義山に登ったり、富岡製糸場や草津温泉へ出かけることもあります。私はキャンプが好きで日本中の色々なところを回っているのですが、富岡の景色は抜群に素晴らしいと思います。晴れた日にツーリングをしていると、田んぼや畑の向こうに妙義山がドカンと目に入ってきて、テンションが上がります。

ですが休日でもやるべきことは山積みで、来年の就農に必要なものを揃えるために動いていることが多いです。軽トラックを探したり、市内での拠点(空き家)探しも並行して行っているので、なんだか気忙しいですね。

農家さんの知り合いもぼちぼちできて、夜は飲み会などの集まりにも顔を出しています。富岡の人は面倒見が良いので、親身になっていろんなことを教えてくれるところも有難いです。

 

 

季節や時間帯によっていくつもの表情を見せてくれる妙義山

 

 

― ひろきさんのような若者が行事や飲み会に参加してくれたら、農家の先輩たちも嬉しいでしょうし、応援したくなっちゃうと思います!では最後に、これからの夢や、やってみたいことを教えてください。

 

ひろきさん:まずは農業一本で生活を安定させることを目標にしています。そのために、新たな分野として注目されている「スマート農業」を取り入れたいと考えています。スマート農業というと、ロボット技術や農業用ドローンを用いるなど、大掛かりで初期費用が高いイメージがあるかもしれませんが、ICT(情報通信技術)を活用することもスマート農業のひとつなので、エクセルなどのデータ管理・収集をしっかりとやっていきたいです。

「農業は毎年一年生」と言われていて、毎年同じ条件のもとで作物を育てることはできないので、毎回新しい知識や経験を積み重ねていかなければなりません。なので、その年の気象条件や災害などをきちんと検証し、データ化することが肝心だと思っています。今から堅実に着実にデータを集めながら収益を増やして、将来は「休めて稼げる農業」を実現していけたらと思っています。

 

― なるほど。ICTに関する知識や経験をご自身の農業に活用できるということは強みになりますね。積極的にスマート農業に取り組むひろきさんが、これから農業を始める次の世代への架け橋になることを期待しています!

 

 

 

 


 

 

ひろきさんはまだ農業研修生。これから独り立ちし、どんな農業をして、どんな野菜を私たちに届けてくれるのか?── チャレンジ精神とアイディアにあふれる彼の未来に、とてもワクワクしています。

 

もちろんまゆといとでは、これからもひろきさんの挑戦を追い続けます。そしてまたいつの日か、「続・ひろきさんの挑戦」をお届けしたいと思います!

 

(マツオ)

 

 


 

 

移住し農家に 栗城 大輔さん

 

過去記事ピックアップ『農業・林業・狩猟特集』