昨年11月、市内に素敵なお店がオープンしました。それは『イタリアンダイニング NOCE(ノーチェ)』──。クルミを抱えたリスが描かれた愛らしい看板に、親しみが湧いてきます。
このお店がオープンする少し前から、私はSNSで開店までの様子を覗いていました。そこには、まっさらな土地に建物の骨組みが作られ、駐車場が整備され、店舗の壁面に看板が掲げられて…と、お店がカタチになっていくまでのストーリーがありのままに記されていたのです。
そのストーリーを読んでいると、開店準備を進めるシェフのワクワクが伝わってきて、「新しいお店がついにできるんだ」と感慨深い気持ちになったことを覚えています。
今回は、開店してまもないイタリアンダイニング・ノーチェのシェフである吉田純一さんにお話をお聞きしました。
【吉田 純一さん】
富岡市妙義町出身。東京で15年間の料理修業を積んだ後に、地元である富岡市に家族揃ってUターン。昨年11月、イタリアンダイニングNOCE(ノーチェ)をオープン。ノーチェでは、吉田さんが厳選した食材を使用した本格イタリアンが味わえる。
乗り越えた先の景色を目指して
― 吉田さんが料理の世界に入ったきっかけを教えてください。
吉田さん:昔から「何か自分で作り上げたもので人を喜ばせたい」という思いを持っていたので、手に職をつけるために料理の専門学校に進みました。その頃アルバイトをしていた飲食店の社員さんから、「東京には扱える食材や人との出会いがたくさんあるから、絶対に行った方がいい」と言われて、専門学校を卒業後に好奇心だけで上京したんです。上京後は恵比寿や代官山にあるイタリアンレストランやビストロで修業を積み、15年間東京で料理人として働いていました。
― “料理人の世界は厳しい” というイメージがありますが、実際はどうでしたか?
吉田さん:修業時代をふり返ってみると、料理には細かな作業工程があったり、人間関係では上下関係が厳しかったり、今の時代にはそぐわないようなことが多かったですね。でもそんな修行時代を過ごすうちに自身のキャパシティが広くなって、「これを乗り越えたらもう一歩成長できる!」という前向きな気持ちで取り組んでいました。向上心を持った仲間たちと切磋琢磨できたことも大きく、その後の自分の成長に繋がったと思います。
豊かな風土に育まれたこの土地で
― 店名のNOCE(ノーチェ)にはどんな意味があるのでしょうか?
吉田さん:ノーチェとはイタリア語でクルミを意味します。イタリアには「クルミひとつでは袋の中で音を立てない」ということわざがあり、「仲間とともにあることで私たちはより豊かになれる」という意味合いがあります。そのようなことから、当店で気の合う仲間たちと、お腹だけではなく心も満たされる時間を過ごしていただきたいという願いを込めて、ノーチェ(クルミ)という店名を名付けました。また、クルミの木が高く成長し枝葉を広げるように、当店がこの地に根付いて、地域コミュニテイーのなかで大きく成長していけたら、という想いも込めています。
― 富岡市でイタリアンダイニングをやってみようと思われたのはなぜですか?
吉田さん:自分が生まれ育った富岡市を「食」を通じて盛り上げたい。さらに、店を出して地域の活性化に繋がればいいな、という希望があったからです。もう一つ富岡に決めた理由としては、東京は多様に便利な場所です。人も情報量もとても多く、私にとって向上心を高め成長出来る最適な環境でもありました。一方で経験や歳を重ねるうちに、窮屈さも少し感じるようにもなり、次第に自然豊かな地元のことを想う機会が多くなってきたのでこちらへ帰ってきました。
また、富岡市の周辺には農家さんが多いので、この土地ならではの「できること」を取り入れていきたいと思いました。ゆくゆくは地域の農家さんに協力していただきながら、子どもたちに収穫体験をしてもらったり、自分で採った野菜で調理をする「食育」体験ができる店を目指しています。
― なるほど、食育を体験できるレストランとは楽しみですね。地域ぐるみで子どもたちを育てたい、という熱い思いも素晴らしいです。
吉田さん:近年では「個を大事にする」「個人の権利が最優先である」みたいな風潮になっちゃったのかな…と感じることがあります。そして一概には言えませんが、「物が溢れていることが豊かさの象徴」のような時代になってしまったことが寂しいです。何が起こるかわからない今の時代に『地域のコミュニティ』を強くして、人と人との繋がりを大切にすることは、のちに何かしらの形として自分に還元されると思うんです。
そこで自分には何ができるかな?と考えた末に、「食育」で地域と子どもたちを繋げられないか?という思いが芽生えました。野菜がどんな状態で育てられているのか、どんな道具を使って調理をするのか、自分が食べる料理がどうやって出来上がるのか…それらの工程を体験してもらえる場所をこの地域に作り、地域の方たちの協力を得ながら、みんなを巻き込んで子どもたちを育てていけたらと思っています。
群馬県産小麦の豊かな風味を味わってほしい
― お店で提供している食材へのこだわりがあればお聞かせください。
吉田さん:当店で提供しているパスタは、群馬県産の良質な小麦「きぬの波」を使っています。群馬県の気候は小麦の生育に適しているので、当店のパスタは独特の弾力となめらかさがあり、小麦の優しい甘味と香りを味わうことができます。群馬県民のみなさんはパスタがお好きですよね。もともと粉食文化があって、お子さんからシニア世代までパスタを食べることが日常。なのでこの地域でもパスタやピザは受け入れてもらえるだろうと思いました。
また、パスタだけではなく卵や塩、水にもこだわりを持ち、厳選された食材、季節に合わせた旬な食材を使用しています。
― お店を始めて「良かったな」と思うことはありましたか?
吉田さん:この店を始めるにあたり多くの方に協力していただき、自分を成長させる良い機会を与えてもらえたことに感謝しています。何もないところに一から作り上げたお店がオープンし、私の作った料理を食べたお客様が喜ぶ姿を近くで見ることができるのは、最高に嬉しいことです。
最近では、お客様のお誕生日会にご家族からの依頼でバースデープレートをお作りしたのですが、そのお客様が帰り際に「ありがとう、とっても嬉しかったわ」とおっしゃってくださって、とても温かい気持ちがこみ上げてきました。
もうひとつ、私には息子がいるのですが、忙しいながらも楽しそうな父親の仕事ぶりを息子に見せることができて、ちょっとは良い影響を与えているのかな?なんて思っています。
― 市民としても富岡市内に飲食店が増えることは嬉しいですし、この土地ならではの食育事業にも期待しています!
いかがでしたか?
店内は仕切りや段差のない広いスペースが特徴で、これはシェフ吉田さんのこだわりのひとつだそうです。
ゆくゆくは地域のコミュニティースペースとしてお店を使ってもらいたいそうで、「ここでみなさんと様々なイベントをやってみたい」と笑顔で語る吉田さん。
このような地域の活性化につながる元気なお店が、これからも増えていくといいですね。
(マツオ)