今年の3月、市内で介護施設の代表を務める新井篤さんが
ビール工房の開設に向けて着々と準備をしていることを知り、
とても興味が湧いたので直接お話を聞きに行きました。
そこで新井さんの強い思いを知った私は感動。
もしも「まゆといと」市民編集員として関わらせてもらえた時には、
まずはこのビール工房の記事を書いて、新井さんの思いを伝えてみたい…
そう考えていました。
その願いが叶っての今回の取材。
描いていた夢が実現するまでのお話を、改めて伺いました。
【新井篤さん プロフィール】
2012年に株式会社アライを設立。薬剤師としての豊富な経験と実績をもとに、介護施設「あゆみ」(愛・夢・未来、地域と共に歩む、という意)を立ち上げる。後に一般社団法人篤厚会を設立し、知的障がい者グループホームを開設。2019年にビール造りのため合同会社フィリア・ソフィアを設立し、2021年「上州富岡ブリュワリー」を開設。
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師匠との出会いと 障がい者雇用への思い
新井さんは以前から、アメリカで行われているホームブルーイング(自分の為のビール作り)にとても興味があったそうです。
しかし日本では酒類の製造に免許が必要なため、行うのは難しいと考えていました。
それがなぜ醸造所の開設へと繋がっていったのか、きっかけとなった出来事についてお話ししていただきました。
「三年前に、岡山県真備町で起きた洪水の報道を見たんです。水浸しになったビール醸造所で、泥だらけの器具を何度も何度も洗浄している映像でした。そこでは障がいのある子たちも働いていて、醸造所の方々が泥水の中を泳いで救助したという話も聞き驚きました。」
新井さんはその時、富岡でもビールの醸造と障がい者支援を結びつけたいと考えたそうです。
「映像に映っていたのは、水害に遭った醸造所の守屋さんという方と、岡山市にある『吉備土手麦酒醸造所』の永原さんという方でした。永原さんは醸造歴15年。連絡を取って岡山県まで会いに行き、醸造を教えてほしいとお願いをしました。すると、群馬県から岡山県まで通うのは大変だろうと、東京で醸造をしている永原さんの一番弟子・能村さんを紹介してくださったんです。」
「能村さんのもとで半年間修行している間に、永原さんは富岡へ2度訪ねて来てくれ、醸造所の場所を検討してくれました。この土地には私が昔住んでいた古い家があったんですが、『ここで醸造をやればいい!』という永原さんの助言もあり、家を壊して醸造所を建てることに決めました。」
上州富岡駅から徒歩2〜3分と便利な場所に建つ「上州富岡ブリュワリー」
自身も生まれつきの聴覚障害を持っているという新井さん。障がい者雇用への思いも語ってくださいました。
「障がい者の支援がしたい。そのことを一番に考えています。『障がいを持った子たちが自立して一人で食べていく収入を得られるものは何だろう?』と。だから将来的には、障がい者が働ける場所を作りたいんです。」
「それにはまず自分たちが醸造できなければならない。地産地消にこだわった地場産のビールを醸造し、その原材料を作る農家さんにお願いをして、障がい者の働きの場を作ってあげたい。そのために問題をひとつひとつクリアしていこうと思います。」
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ビール造りを通して深まる関係
左から、師匠の永原さん、新井さん、義兄の大河原さん。
新井さんは現在、義兄である大河原進さんと調理担当の方との三名で、お店のオープンに向けて準備をしています。
大河原さんに、一緒にビール造りを行うことになった経緯をお聞きしました。
「私は以前は製造業で働いていました。飲食は分野が違いますけど、ものづくりという点では同じなのかなと思います。だからビール工房の手伝いも、『一緒にやらない?』と話があった時に『いいよ!』と一言で応えました。人生の中で、もう一回くらい違う分野でやってみたいという思いがずっと頭の中にありましたから。」
「義兄とは仕事の分野が違っていたこともあり、今までは話すことも少なかったですが、今はいろんな共通点もあってとてもいい関係になっています。」
ビールの味わいと色の決め手となる麦芽。現在までに仕込んだのは、ペールエール、チョコ、スタウト、地粉ヴァイツェンの4種類。
さらに仕込みの工程について尋ねると、
「仕込みから完成までは3週間かかります。消毒の工程だけでも丸一日かかってしまうんですよ。」
と、とても大変そうな作業についても笑顔で話すお二人の姿が印象的でした。
歳を重ねてから新しい挑戦をし、新しい関係性を築いたお二人が醸し出すビール。ますます楽しみになってきました。
「周りを巻き込みながら盛り上げたい」
お洒落な外観で、店内はイギリスの酒場のような立ち飲みスタイルの「上州富岡ブリュワリー」。新井さんご自身が海外で味わった店内の雰囲気にも似ているようです。
コロナ対策もされており、お客様との金銭授受をなくすための券売機も設置。晴れた日にはお庭でビアガーデン形式で飲むこともできます。
ビールの他に調理師さんによる手づくりのおつまみも提供されるそうで、そちらも楽しみです。
「富岡の地粉を使用した『地粉ヴァイツェン』の他に、桑の葉を使用した『桑の葉エール』の製造も考えています。富岡製糸場のお客さんがもっと増えたら嬉しいし、これをきっかけに少しでも富岡に足を運ぶ人が増えてくれたらいいですよね。電車や公共の乗り物も利用してもらえるといいと思います。」
(土日の昼間は愛タクもいいかも!!)
「いろんなことを考えていますが、すべて一人では出来ないこと。周りを巻き込みながら、富岡市全体が盛り上がっていけばいいと考えています。だって富岡が大好きだから!自分たちが育ったところだからね!!」
そう話す新井さんからは、地域とのつながりを大切にしたいという思いがとてもよく伝わってきました。
「こんなところにこんなものがあると、まずは知ってもらいたい。そして飲んでもらいたいです。」
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新井さんのお話を聞いているうちに、私の心もワクワクしていくのを感じました。
そして『たくさんの地域の方々を巻き込んでいきたい』という姿勢に、共に「あゆむ」という言葉の意味を改めて気づかされました。
新井さん、大河原さん、ありがとうございました。
(マツモト)
追記:2021年6月14日(月)にオープンしました。