★この記事は、令和4年7月1日より『富岡市地域おこし協力隊』として活動している市川素さんが書いた活動記録を抜粋してまとめたものです。原文は 富岡市地域おこし協力隊のFacebookページ で公開しています(英文あり)。ぜひご覧ください。
《地域おこし協力隊とは》
地方自治体が都市部から人材を受け入れ、地域おこし活動や地域協力活動を通じて地域への定住・定着を図ることで、地域力の維持・強化を図っていくことを目的とした制度です。
2022年7月17日 【養蚕日誌 Week2】
2017年頃富岡に来て養蚕体験をしました
皆さんこんにちは!私の名前は市川 素(いちかわ もと)と申します。京都生まれの滋賀育ちです。以下に簡単な経歴を記載しますが、私と養蚕、そして富岡との出会いは約6年前にさかのぼります。
当時、普通のサラリーマンをしていた私は一念発起しJICAの青年海外協力隊に応募し、インドに派遣されることとなりました。現地での仕事内容は「養蚕農家の支援」でしたが、「養蚕」の読み方すら知らなかった私は知り合いのツテをたどり、富岡(正確には当時は甘楽町にお住まいでしたが)の養蚕農家さんを紹介してもらいました。そこで初めて養蚕、お蚕様を目にしたのですが、正直な最初の感想は「ちょっとキモチワルイ、、、いや、きもカワイイか?、、、いや、、、うーん、、、」程度でした。だけどそこからインドに派遣され、インドでは養蚕業が重要な産業として人々を支えていること、そんなインドで日本の技術が使われていること、逆に日本の養蚕業が衰退しつつあること、養蚕業は日本の近代化を支えた歴史と伝統ある産業であること、など色々なことを知るうちにいつしか自分の手で養蚕をやってみたいと思う気持ちが強くなってきました。
青年海外協力隊が終わってからはまた元の会社に戻り、その後転職してインドに関わる仕事をしましたが、養蚕への憧れを捨てきれず、この度富岡の地でかねてからの憧れにチャレンジしてみることにしました。
私自身は農業や養蚕の経験が全くなくゼロからのスタートとなりますが、諸先輩方のご指導のもと、まずはしっかりと知識と技術を身に付けたいと考えています。サラリーマン生活で鈍った体(とお腹)に活を入れ、頑張っていきたいと思いますので皆様からのご指導、ご助言も何卒よろしくお願いします!
■経歴
・京都生まれ、滋賀県育ち。
・大学卒業後は岡山県の造船会社で3年間勤務。
・会社を休職し青年海外協力隊に参加。インドで2年間養蚕農家さんの支援に携わりました。
・元の会社に復職。その後関連会社に出向してインドネシアでも1年程働きました。
・仕事を退職し、JICAで2年間インドのインフラ建設関連の仕事に携わりました。
・今年の7月から富岡市へお引越し。妻と娘の3人暮らしです。
2022年7月24日【養蚕日誌 Week3】
今週は繭の出荷がありました。自分が桑をあげていたお蚕たちが繭になって出荷されていくのを見ると少し感慨深い気持ちになりました。また養蚕農家さん同士がお互いの繭を見て「いい繭だねえ」「流石だねえ」と言い合っている姿を見て早く自分もこの輪の中に入りたいとウズウズする気持ちになりました。
一方で、養蚕のことを色々調べていくうちにその難しい現状というものも垣間見えてきました。今って養蚕農家戸数は全国でも200戸を切っているんですね、、、私がインドに行く前の2016年頃は300戸以上は残っていたはずなので、このわずか数年間の間でも3分の1ぐらいは辞めてしまっていることになります。今後はどうなってしまうのでしょうか、、、
できれば「日本の養蚕農家」が作る「繭」だけでなく、それに至るまでの養蚕農家の「ストーリー」なんかにも価値が見出され、そうした背景的なものまで含めた新たな需要が生まれたら、、、なんてことを夢想しながら悲観的かつ楽観的に養蚕業の未来(と自分の将来の収入(こっちの方が切実です))を考える今日この頃です。
2022年8月9日【養蚕日誌 Week5】
養蚕と聞くと白いお蚕さんをイメージする方も多いと思いますが、お蚕さんのお世話と同じくらい大切なのがお蚕さんの食べる桑のお世話です。というわけでここ最近は桑畑の除草剤散布や切った枝の粉砕処理、害虫となる毛虫の駆除のお手伝いや研修をさせてもらう機会がありました。炎天下での作業は貧弱オフィスワーカーとしてこれまで歩んできた私にはかなり大変ですが、気力を振り絞って夏を乗り越えたいと思います。
桑畑で作業していると道行く人が「まだ養蚕やっているの?」とか「養蚕は殺虫剤使えないし大変だよね。」等と声をかけてくれます。桑畑や桑の木も近所を散歩すれば結構色んなところにあって、富岡にはまだ養蚕文化が残っていることを実感しています。
私は桑畑を見るといつもインドの広大な桑畑を思い出します。乾燥した赤茶色の大地に広がる桑畑、その奥に広がる地平線と青空、、、懐かしいなあ、、、またいつか養蚕を通じてインドに行けるといいなーと少し感傷的になる今日この頃です。
2022年8月14日【養蚕日誌 Week6】
研修させてもらっている農家さんでの初秋蚕の上蔟作業が今週終わりました。上蔟とは成熟したお蚕さんに繭を作ってもらうために、蔟(まぶし)と呼ばれる繭を作る場所にお蚕さんを移す作業を指します。この上蔟が終われば、養蚕農家としてはひと段落で、後はお蚕さんが奇麗で丈夫な繭を作ってくれるよう祈るばかりです(清掃や温度管理などの作業は続きますが)。
この上蔟は養蚕に関する作業で最も労働負荷が集中し、人手が必要になる作業です。研修先では熟練のお手伝いさんが来てあっという間に一連の作業を行っておられましたが、いざ自分でやる場合はそういった人手を確保できるかどうかが一つの鍵となりそうです。ある程度の規模で養蚕をしたいと考えているのですがそういった人や場所の制約なんかも考えつつ現実的な量を模索していくしかないですね。
ひとまず作業のピークは過ぎ去ったということで、ここ数日はのんびり家でアイスを食べたり、子どもと遊んだりしています。メリハリ付けつつ夏後半戦も頑張ります!
2022年8月21日【養蚕日誌 Week7】
今週は養蚕を辞めてしまった農家さんのお家にお邪魔して、使えそうな養蚕道具を回収する作業のお手伝いに行ってきました。富岡や甘楽にはどこにでも養蚕住宅があって、昔はどこの家も養蚕をしていたことがうかがえるのですが、今となっては養蚕を行っているのはわずか数軒です。昔は養蚕道具を販売していた会社もたくさんあったようですが、今ではそういった会社はほとんどなくなってしまい、道具は代用品を探したり、まだ使える昔のものを探して使うしか方法がありません。農家さんの倉庫や蔵に眠っている養蚕道具は私のような新規参入者にとっては宝の山だったりもします。
農家さんの中には先代や旦那さんが亡くなってから養蚕は辞めてしまったものの、道具だけは残しているという方も結構いて、中には30年位前に作業していたものがそのまま残っているケースもありました。かつて栄華を誇った養蚕業の道具たちが蔵の中で埃まみれで眠っていたり、ボロボロになって朽ちている姿を見て、平家物語のような栄枯盛衰の理を感じました(平家物語をきちんと読んだことはありませんが、、、)
2022年8月28日【養蚕日誌 Week8】
今更感はありますが、先日世界遺産の富岡製糸場に行ってきました。富岡製糸場は明治5年(1872年)に政府がフランスの技術を導入して設立した官営模範工場で、当時の主要な輸出品である生糸の品質改善・生産向上と技術指導者の育成に貢献しました。場内ではガイドツアーもあり、日本の近代化に貢献したその歴史を学ぶことができました。
併せて「富岡日記」(和田英 著)も読んでみたのですが、これがとても面白かったです。富岡製糸場の開業間もないころに信州から富岡製糸場に来て工女として働き、その後故郷の製糸場の技術教師となった和田英という女性が書いた本(日記)なのですが、当時の富岡製糸場の様子や時代背景の他、明治の時代に使命感や責任感を持ちながら女性として働く主人公の心情や言動が描かれていて、その時代に思いを馳せながら読むことができました。富岡製糸場の見学に来られる際は合わせて読むことをおススメします〜!
2022年9月11日【養蚕日誌 Week10】
今週から晩秋の養蚕がスタートしました。今回も近郊の養蚕農家さんの下で研修させてもらうのですが、今回のお師匠様はなんと御年86歳、この道65年以上の大ベテランです。現在も現役バリバリで86歳とは思えない動きで桑を切り、軽トラを操り、私が脱輪させかけた軽トラを救って(すみませんでした、、、)くれます。
お師匠様からは養蚕だけではなく町の歴史や人間関係、昔の人々の考え方、変わっていく世の中のこと等、示唆に富み、時にはドキッと刺さるような話を聞かせてもらっています。私が65年続けると98歳、それまで頑張れる、、、かな、、、??
2022年9月25日【養蚕日誌 Week12】
今週は晩秋蚕の上蔟作業が終わりました。今回の蚕期では研修生というよりは一人の戦力として迎えて頂いたこともあり、上蔟作業を終えた後の疲れも喜びもひとしおでした。大学生のインターン生が来たり、台風の雨の中ずぶぬれで桑取りしたり、蜂の巣と戦ったりと内容の濃い研修となりましたが、中でも記憶に残っているのは作業の合間合間にお師匠様と話した時間です。家族を大切にすること、自分の仕事に誇りを持つこと、いつまでも謙虚に学ぶ姿勢を忘れないこと、まっすぐに生きていくこと、、、養蚕だけでなく人として生きていくうえで大切なことを教わりました。本当にお世話になりました、ありがとうございました!
さてこれまで多くの農家さんの下で研修させて頂きましたが、今年度ラストの晩晩秋蚕では少量ながら自分で養蚕を始めます。どういう結果になることやら、ドキドキワクワク楽しみです!
2022年10月2日【養蚕日誌 Week13】
いよいよ今年度最後となる、そして私のデビュー戦となる晩晩秋の養蚕がスタートしました。9月30日に約3万頭のお蚕さんを受け取り、せっせと桑をやったり、ストーブを付けたり消したりの温度管理をしたり、お蚕さんをのぞき込んでご機嫌を伺っております。これまでたくさんの養蚕農家さんの下で勉強させて頂きましたが、やはり指示を受けて動くのと自分で考えて動くのでは大違い、、、細かい動作の一つ一つで、こうすればよかったなとか、これってどうするんだっけ?という場面が出てきます。その度に研修で教わったことを思い出しながら試行錯誤を繰り返しています。順調に行けば今月末に初出荷、それまではビギナーズラック目指して?頑張ります!!
2022年10月9日【養蚕日誌 Week14】
順調と言ってよいのかどうかさえよくわかりませんが、お蚕さんがだんだん大きくなってきました。ここ数日は気温の寒暖差が激しく、温度調節や桑を与えるタイミング等で迷走を続けておりますが、諸先輩方の助言を頂きつつ、何とかやっています。いよいよ5齢と呼ばれる繭を作る前の最終段階に入ってきたので最後まで頑張りたいと思います。
それにしても一人で作業するのはなかなかに寂しい、、、先日近所の野良猫のカップルが作業場に侵入して私の大事なお菓子を食い荒らしたうえ一人の私を憐れむように振り返って去っていきました。ニャメやがって~!
2022年10月16日【養蚕日誌 Week15】
本日無事、90%位の上族作業が終わりお蚕さんを回転まぶしにほぼ移し終えました!人事を尽くして天命を待つということで、後はお蚕さんが繭を作ってくれることを祈るのみです。いやー、疲れた疲れた。ということで今回はサボり投稿でご容赦ください、お疲れさまでした!
2022年10月24日【養蚕日誌 Week16】
上族から一週間、真っ白のきれいな繭ができました!少し小さな繭が目立ったり、繭になり切れずに生涯を終えてしまったお蚕さんが多かったような気がします。成長の速度を揃えたり、上族後の温度管理が不十分だったからかと思うので、お蚕さんには申し訳ない気持ちですが、反省点を来年につなげたいと思います。お蚕さん、ひとまずはお疲れ様でした。後は出荷を待つのみです。
今シーズンの養蚕は今回で終わりなので、飼育台を片づけたり、桑畑の整理をしたりしていると少し寂しい気持ちになります。さて、冬の間は何をしようかな?
2022年10月31日【養蚕日誌 Week17】
先週ついに繭の初出荷を終えました!結果は一箱(約3万頭)から約40kgの繭が取れたということで可もなく不可もなくという成績でした。(ビギナーズラックはならず、、、)
7月に地域おこし協力隊として活動を始めて約4カ月、ようやく養蚕農家としてのスタートラインに立てたかと思います。無事に初めの一歩が踏み出せたのも研修でお世話になった農家さん、富岡市役所の方々、農協の方々、家族、そして応援してくださった皆様の支えあってのことです、本当にありがとうございました。来年からは養蚕をするだけでなく、いかに養蚕を営みながら生活を送るか、端的に言えば養蚕でどう生計を立てていくのか、そして養蚕業の存続と発展に対し自分が何をできるか、という点まで考えながら養蚕に取り組みたいと思います。引き続きのご支援の程、何卒よろしくお願いします。
2022年11月13日【養蚕日誌 Week18-19】
養蚕シーズンが終わりましたので養蚕農家は春まで冬眠、、、というわけにはいきません。皆さん冬の間は他の作物を作ったり、働きに出たりで収入を得ておられます。養蚕を続けていくうえで冬の過ごし方も非常に重要です。というわけで私は某養蚕農家兼ネギ農家さんの所で下仁田ねぎのあれこれを教えて頂いております。この下仁田ねぎ、私の故郷の関西ではあまり馴染みが無かったようにも思います(私が知らないだけ?)が、この地方の特産品で古くは徳川幕府の将軍様にも献上されていたとか。白くて太いネギを鍋に入れて煮込めばとろとろで甘くてとっても美味しいです。お蚕さんは作業してても食べたいとは思いませんが、ねぎの収穫作業をしているとお腹がすいてきますねー、じゅるり。。。
2022年12月11日【養蚕日誌 Week22-23】
最近も下仁田ねぎを収穫する日々が続いています。段々と寒い日も多くなってきましたが、山に雪がかかる景色や木々の葉の色が日に日に変化していく様子を見て四季を感じながら仕事ができるのは気持ちがいいものだなーと実感しております。また来年度の養蚕に向けて、場所を借りる準備をしたり、使わなくなった機械を譲って頂いたりと少しずつ準備を進めています。養蚕の季節が来る春が待ち遠しい!
そして今日は富岡市で開催されたサファリハーフマラソンに出場してきました。先日フルマラソンを走っていたこともあり、ハーフなんて余裕だぜと思って舐めていたら痛い目に遭いました、、、全然足が動かなくて、途中で歩いてしまいタイムも目標に届かず。ワールドカップのコスタリカ戦で格下(ハーフ)の相手こそ要注意と学んだところなのに、反省。とはいえ沿道で声援を送ってくださった皆様ありがとうございました!
2022年12月25日【養蚕日誌 Week24-25】
本文と全く関係ありませんが写真は先日サファリパークに行って撮ったものです(^^)
富岡に来て地域おこし協力隊として活動を開始してから約半年が過ぎました。農業も養蚕も未経験の私でしたが夏には地域の養蚕農家さんの下で勉強させて頂き、秋には自分で蚕を育てて繭を出荷することができました。冬には下仁田ねぎについても教わりました。
私にとってこの一年はサラリーマンから農家へ、都市から地方へと大きな変化を経験した一年となりました。その中で、夏の暑さや冬の寒さを感じながら自然の中で働く豊かさ、夏にはキュウリやトマト、秋にはサツマイモや果物、冬には下仁田ねぎを頂くなど旬のものを採れたてで食べる豊かさ、そして日が沈めば家に帰り家族と一緒に時間を過ごす豊かさ、これまで経験できなかった様々な豊かさを感じる一年でした。
私の活動を支え応援してくださった皆様に感謝をお伝えするとともに来年も精一杯頑張りますので引き続きのご支援の程よろしくお願いします。それでは素敵なクリスマス&新年をお過ごしください、今年一年お世話になりありがとうございました!
2023年1月8日【養蚕日誌 Week26-27】
明けましておめでとうございます。
さて、新年ということで一ノ宮の貫前神社に初詣に行ってきました。こちらの神社の御祭神である姫大神(ひめおおかみ)は養蚕・機織りの神様だとか。必死に今年の豊作を祈願してきました。お御籤も大吉で幸先のよいスタートとなりました。
また、富岡製糸場内で展示される繭玉飾りの飾りつけにも参加させて頂きました。繭玉飾りとは繭の豊作と無病息災を祈る小正月の行事で、米粉で作った繭型や丸い団子を木の枝に挿して飾りつけを行うものです。その後どんど焼きの時に焼いて食べるのだとか。こちらにも今年の豊作を祈願してまいりました。
神様に頼ってばかりになってしまいましたが、自身も今年一年精進していきたいと思います。今年の養蚕の目標は、合計350kgの繭を作る!です。応援よろしくお願いします。
市川さんの「養蚕日誌」と「活動報告書」は下記のページから閲覧できます↓
●「養蚕日誌」
●「活動報告書」
市川さんの今後の活躍に注目です!
この投稿をInstagramで見る