富岡市内の建築物について素人目線で学ぶシリーズ第3弾!
今回は『富岡商工会議所会館』へやってきました。
第1回の上州富岡駅舎、第2回の富岡市庁舎、そして今回の富岡商工会議所へは徒歩で一続き!
平日の8:30〜17:00は会議やイベントで使用されていなければ自由に見学できますので、ぜひ足を運んでみてください。
それではいってみましょう。
案内役は富岡商工会議所の松原千哲さんと、お馴染み新井久敏さんです。
・新井久敏 氏 プロフィール
富岡市在住。群馬県庁職員として建築行政に関わる傍ら、90年代後半から公共建築のコンペの企画を支援。携わった企画は26にもおよぶ。その業績は高く評価され、日本建築学会賞(業績)、土木学会デザイン賞優秀賞、これからの建築士賞を受賞。現在は富岡土木事務所嘱託職員。
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第3回 富岡商工会議所会館
2018年に完成した富岡商工会議所会館。設計は手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比)。
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『旧吉野呉服店を残すために』
― ここには元々、吉野呉服店という明治時代から続く呉服屋さんがあったんですよね。平成10年に閉店してシャッターが下りたままになっていましたが、屋根の印象から「立派な建物だな」と思っていました。
新井:富岡市では平成18年に富岡製糸場の世界遺産登録を見据えたまちづくり計画が示され、「歴史的建造物を保存し活用しよう」という流れになりました。旧吉野呉服店はその筆頭となる建物で、利活用については何年も議論されてきたんです。
松原:それと同時期に、旧富岡商工会議所会館は道路工事に伴う解体が決定していたため、移転先を検討していました。旧吉野呉服店を保存したいという会員の強い想いもあり、この土地と建物を取得し、新しい商工会議所会館兼「まちなかの交流拠点」として整備することになったんです。
解体前の旧吉野呉服店。母屋は崩壊寸前、蔵はなんとか修復ができる状態だった。
松原:しかし母屋の方は保存が難しい状態だったため、解体して木造の建物に建て替えてもらうことにしました。蔵の方はなんとしても残したかったので、補強工事をお願いしました。「商工会議所会館の建設」の前に「旧吉野呉服店の利活用」が大前提にあったので、このような形になったんです。
― 木造であることと蔵を残した理由はそこにあったんですね。確かに国道側から見ると、趣が継承されています。でも横から見ると「えっ!」となりますよね。初めて見た時は斬新なデザインにビックリしました。
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『過去と未来を表すデザイン』
6つの連なる山型と、斜め格子、ガラス張りの壁が目を引く。
新井:この三角の屋根の連なりは、富岡の歴史的な街並みをイメージしています。そして斜め格子は、富岡製糸場のトラス構造の印象を受けて最先端の構造を作り出した結果です。よく「蔵のなまこ壁を意識している」とか「回転まぶし(繭が営繭する道具)の形だ」と言われていますが、設計者は最初はそんなことは考えていなかったんです。
― え!私もまぶしを意識したのだと思っていました。
新井:富岡の人がこの建物を見てそう言うので、設計者も「なるほど」と思ったそうですよ。富岡の街をよく見て調べあげた上で作り出した構造が、結果的に意図していなかった「富岡らしさ」を表現したというのが面白いですね。
アプローチには旧吉野呉服店の屋根に使われていた瓦が埋め込まれている。
― 建物の横の敷地は通路になっていて、隣の蔵は通り抜けられるようになっているんですよね。(※蔵の扉が開いているのは平日の開館時間のみ)
松原:この通路には、解体前の建物に使われていて再利用できなかった瓦が埋められているんです。
新井:「富岡製糸場と富岡市役所をつなぐ歴史の道」と設計者は言っています。通路にすることで人の流れを生み出すことを意識したんですね。
― 観光客の方にもぜひ歩いてもらいたいので、もっとこの場所を知ってもらうための工夫がこれから必要ですね。
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『計算された新しい構造』
テナント横の通路。頬杖がある分狭くなっているが、何だかおしゃれに見える。
新井:これだけの大きさの建物を木構造で作るとなると特注の太い柱や梁が必要になってきますが、この建物にはいわゆる流通材が使われています。斜めに組み合わせていくことによって力を分散させているため、この柱の太さでこれだけのボリュームの建物ができるのです。
― 特注ではなく流通材を使っているということは、その分材料費が抑えられているんですね。でもこんなに細くて本当に大丈夫なんですか?
新井:実は見えない所に鋼板やボルトが入っているんです。
― あ、本当だ!
新井:接合部によって力のかかり方も違うので、鋼板やボルトを組み合わせて強度を確保しています。よく見ると、ボルトのために開けた穴を木で埋めているところがあちらこちらにありますよ。
― 複雑な計算の元に成り立っている美しい木構造なんですね。
新井:設計した手塚さんはとにかく木造建築が好きな人で、木をふんだんに使った建物をこれまでにたくさん残しています。そういった実績をふまえて依頼したのではないでしょうか。
ちなみに手塚さんは、上州富岡駅舎の設計者の師匠に当たる人なんです。照明デザインは駅舎周辺もこの建物も同じ事務所が担当しています。
― 言われてみれば照明の雰囲気が似ていますね。それにしても夜も昼間もこの格子が本当にいい仕事してますよね〜。
地元の木材を使い地元の職人が仕上げた格子は取り外し可能。柄は5種類。
新井:この枠の大きさは畳2畳分と同じなんです。日本の伝統的な寸法ですね。
― 新しいデザインなのに妙に落ち着くのは、もしかしたらそのせいかもしれませんね。ところで冷暖房はどうなっているんでしょうか…?
床下にダクトが通っており、エアコンの空気は建物の東西の床にある溝から出入りする。
松原:エアコンの空気は、床の西側から出て東側から吸い込むという仕組みになっています。夏場は寒い場所と暑い場所があったりしてなかなかうまく行きませんが、サーキュレーターを置くなど工夫しています。
冬場は一度温まると保温されるようで、午前中にある程度温めれば午後は真冬でも暖房を切っています。2階は床暖房にすることもできるんですよ。
ダクトの蓋を手動で開けると暖気が床下全体に広がる仕組み。
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『交流の場として』
大ホールにあるグランドピアノは、吉野呉服店の親族の方からの寄付。
― 2階の中会議室と1階の大ホールは貸し出しをしているんですよね。大ホールにはミニキッチンが設置されているので飲食物を提供するイベントもできますし、グランドピアノもあるのでコンサートもできますね〜♪テーブルも天板を載せただけなので、使わない時はコンパクトに収納できそうです。
新井:様々な催しに使って欲しいという想いが表れていますよね。コンサート向けの音響設備は整っていないけれど、そういったことにお金をかけなかった分安く貸し出すことができているんです。
ちょっとこの椅子、持ってみてください。
― うわっ!軽い!!
新井:しかも重ねられるんです。
― こういったところにも工夫が。市民の皆さんにたくさん使って欲しいですね。
松原:おかげさまで土日は様々なイベントに利用していただいています。商工会議所の会員の方や市役所の利用が多いですが、非会員の方もぜひご相談ください。
ー 国道に面した方もガラス張りなので、ここでイベントをしていると前を通った時に「おっ?何かやってるぞ。」となりますよね。
イベント等で使われていない時は、大ホールに入ることはできないんですか?
松原:平日の8時半〜17時の間は開いていますので自由に入ることができます。座って本を読んでいただいても構いません。
― それは知りませんでした!でもお休みの日は開いていないんですね…。
松原:管理の課題をクリアして、土日も開放できるようにしていきたいです。地域の子どもが集えるような環境になればいいなと思っています。
― 可能性が広がりますね。楽しみです!
(ナカヤマ)