富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館で10月28日(月・県民の日)まで開催されている企画展
『小松美羽展 DIVINE SPIRIT〜神獣の世界〜』
もう行かれましたか?
まだまだ大丈夫です、間に合います!
興味のある方もない方も、小松美羽作品初体験の美術素人による興奮気味の展覧会レポートをご覧ください。どうぞ!
それでは、今回の企画展を担当した学芸員の稲田さんと一緒にまわっていきたいと思います。
階段を上り、2階ロビーに着いたと同時に目の前に現れたのがこちら。
『宝雨の中で一対の艶緑の楓は苔の地平線にて門となる』(2019年)
色鮮やかで迫力のある作品に圧倒され、「まだ展示室に入っていないのにこの衝撃!?」という戸惑いが…!(写真じゃ伝わらない!)
稲田:こちらはライブペインティングの作品で、会場は京都の常寂光寺という苔むしたお寺だったそうです。
小松美羽さんは様々な場所でライブペイントをされているんですよね。今回の展覧会でも初日にライブペイントが行われました。
9月14日に行われたライブペインティング動画は2Fロビーで放映している。
稲田:ライブペインティングの観覧は事前申込で抽選だったため、観覧できなかった方のためにビデオを流しています。ぜひご覧ください。
動画はノーカットで約40分。はじめに観るもよし、最後に観るもよし。私は最後にゆっくり観ることにして、企画展示室へ向かいます。
学芸員の稲田さんは、小松美羽さんと同い年。これも運命…?
稲田:今回の展示は、第1会場(企画展示室)に2016年〜2019年に制作されたアクリル画や立体作品を、第2会場(常設展示室)には初期の銅版画や水墨画、白黒を基調としたアクリル画のほか、有田焼の狛犬などを展示しています。作品は全て写真撮影OKです。
では第1会場から行ってみましょう。
DIVINE SPIRIT(神性)をテーマに、狛犬や龍などの神獣たちをモチーフにした作品が並ぶ。
稲田:大胆な構図や色の鮮やかさが印象的ですが、よく見るとかなり細かく描かれています。小松さんはもともと銅版画をやっていたので細かい表現が得意で、毛描きをとても自然な流れで描ける方なんです。※毛描き…人物や鳥獣の毛を細かく描くこと
確かによく見ると、細かい線がたくさん描かれています。大胆さと繊細さが同居しているんですね。
稲田:目力の強さも特徴です。どの作品も目が大きく象徴的に描かれています。
『阿獅子 第一形態』(2017年)
写真で見た時はこの大きな目が少し怖いかなと感じたんですが、実際に見てみると、小松さんの描く神獣の目はまったく怖くありません。むしろ安心感があって、「見られている」というよりも「見守ってくれている」という気持ちになります。
稲田:小松さんは、自身が描きたいものを描いているというより、出てきてくれた神獣たちを描かせてもらっているという意識なんだそうです。見えているものを描いているんですね。
子どもの頃は誰しも持っていた、信じるピュアな気持ち。それを小松さんは持ち続けているんだなと、実際にお話ししたり描く姿を拝見するなかで強く感じました。
『PHOENIX REBORN』(2017年) Sony XperiaのCMに使われた作品
こちらはテレビCMにもなったライブペインティング作品ですね。
…。
なんだか見ていたら体が熱くなってきた気が…体温が上昇しているような…。絵からこんなにエネルギーを感じたことは今までにないので驚いています。
稲田:ライブペインティングは、お客さんの持っているエネルギーもいただいて描いているそうです。私が初めて小松さんのライブペインティングを見た時は、見終わった後に運動をした後のような疲れがあり、驚きました。制作に参加させていただいたという感じでしょうか。
なるほど。その土地の「気」だけでなく、お客さんの「気」も作品の中に入っているんですね。
『だれしも龍となる』(2018年)
稲田:こちらはポスターに使われている作品ですね。この絵を含めて数点は、他の展示が済んだ後に展示作業をしたんですが、その日富岡は豪雨で雷も鳴っていたんです。雷鳴を聞きながらこの絵を見ていたら、まるで本当に龍がやって来たかのような気持ちになって…。そのことを後日小松さんにお話しすると、「ああ、龍神さまは水の神様だからね…」といった反応でした。
当然のように(笑)。確かに存在するんだなぁと思わされますね。
それにしても、写真から受ける印象と実物から受ける印象は結構違うものですね。こんなに愛らしい絵だったの!?と思いました。他の絵もそうですが、ちょこちょこ可愛い小さな生きものが描かれていますよね。例えばこの子とか。
稲田:小松さんの可愛らしい性格がこういったところに表れているのかなと思います。この子と目を合わせてみると…かわいいですよね〜。
なになに、私もしゃがんで目を合わせてみます。…か、かわいい!
顔を同じ位置に持ってきて目を合わせてみる。これはぜひ試して欲しい鑑賞方法です!
展示室中央には山犬様が並んでいる。
稲田:この展示室の構造を生かして、神社の参道にいる狛犬のようなイメージで中央に山犬様の立体作品を展示しました。山犬様は小松さんにとって、神獣を描く原点になっている大切な存在なんです。
『山犬様 相思相愛』(2018年) 瞳の中に注目♡
いろんなポーズの山犬様、なんとも言えない可愛らしさ!私には見えていないだけで、自分の周りにもこの子たちがいて守ってくれているんですかね。振り返りながら道案内してくれていたり。だとしたら嬉しいなぁ〜。
あ、あちらは展覧会初日のライブペインティングの作品ですね!
稲田:ライブペインティングの作品は、当日の様子を再現したかったので養生シートごと展示しました。衣装も絵の具も実際に使われたものを展示しています。
ライブペインティング制作作品。
稲田:あらかじめパールホワイトで塗られた下地に、お蚕様とそれを見守る神獣たちが描かれています。
これが小松さんが富岡で見た神獣たち…神々しいですね…。
稲田:描かれていく様子を見ている間、過去に市民養蚕でお蚕様を飼育した時の感情が蘇ってきたりして、なんだかとてもドキドキしてしまって…終わってからもしばらくドキドキが止まりませんでした。
『お蚕様 桑の木の思い出・天命を受ける・紡ぎ紡がれ未来へと』(2019年)
稲田:こちらはこの展覧会に向けて制作された、お蚕様をモチーフにした新作です。小松さんは長野出身で養蚕が身近でもありました。本人もお蚕様を飼った経験があるということで、雑談をしながら「お蚕様って可愛いよね」という話で盛り上がったりもしました。個人的にとても好きな作品です。
写真では伝わりませんが、博多織のキラキラとした布地に描かれていますね。どの絵も神聖な雰囲気で、「命」を感じることができます。とても細かく描かれているので、ぜひ近くで見ていただきたいです。
他にもたくさんご紹介したいのですが、第2会場へと移ります!
『四十九日』(2005年) 小松さんの転機となった、大学の卒業制作の銅版画作品。
稲田:おじいさんが亡くなった時に作られたこの銅版画は、小松さんの名前が世に出るきっかけとなった作品です。
アクリル絵の具で極彩色の世界を描くようになったのは7〜8年前のことで、それ以前は白黒の世界で死生観などを表現していたんですね。銅版画の方は少し近づきがたい感じもします。
『天地の守護獣〜天地〜』(2016年) 大英博物館にも所蔵されている作品。
稲田:こちらの狛犬は有田焼の作品です。天と地を守ってくれていますね。これを見て、可愛い愛犬を思い出したという声をよく聞きます。
狛犬さん、守ってくれてありがとう〜。
はっ。私、もう完全に彼らが「いるもの」として見ています。そしてそう思い始めたら、なんだか幸せな気持ちになってきました。
稲田:誰しも神様に力をもらいたい時や、お願いしたい時ってありますよね。「そんなのいないよ」と否定する人もいるかもしれないけれど、そういう時の自分の感覚を信じて、大事にして欲しいなと思います。
そうですね。自分の感覚を信じていきたい。私も作品を見てそういう気持ちになることができました。
魂に訴えかける小松美羽作品、多くの人に体感していただきたいです!
(ナカヤマ)