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まゆといと

2025.01.10 地域で働く

【もみじの湯 御山亭】料理長 田畑竜司さん

それは私ナカヤマが以前、妙義山ビジターセンター内の『山カフェ妙義』を取材した時のこと。その日のカフェ業務を担当していたスタッフさんに、「メニューはもみじの湯の食事処『御山亭』の料理長が考案しているんですよね?」と聞くと、こんな言葉が返ってきたのです。

 

「そうです。料理長は本格的な修行を積んできた人。和食・洋食にこだわらないアイディアマンで、細かい仕込みもしっかりやっています。ご飯を食べにわざわざ高崎から来る人だっているんですよ。だから私はもっと、料理長の腕を世に出したいの!」

 

その熱量に圧倒され、「料理長にインタビューします!」と宣言した私。一連の流れを料理長ご本人に伝えたところ、「だいぶ話を盛ってるんだよな〜」と首を傾げながらも、取材を引き受けてくださいました。

 

 

【田畑 竜司さんプロフィール】

富岡市出身。19歳から料理人として数々の店で修業を積む。42歳で帰郷し、2022年に妙義温泉もみじの湯『御山亭』料理長に就任。2023年にオープンした妙義山ビジターセンター『山カフェ妙義』のメニューも手掛けている。

 

 

 


 

 

 

厳しい競争の世界から地元・富岡へ

 

 

妙義山ビジターセンター内の『山カフェ妙義』

 

 

― 群馬を離れていた19歳から42歳までの間、どのような所で経験を積まれたのでしょうか。

 

田畑さん:初めは伊豆の旅館でした。それから横浜や都内の街場の料理屋さんで働いて、丸の内や麻布の高級レストランでも働いて。時には大企業の保養所のレストランに行くこともありました。ジャンルはずっと和食ですけど、何でもやります。他のジャンルの良いところを取り入れながら柔軟に対応しないと、誰にも相手にされなくなりますから。

 

― 厳しい世界でキャリアアップを続けてこられたんですね。

 

田畑さん:東京は全国から料理人が集まってくる場所。そのなかで3万円とか5万円の料理を作るような世界に身を置くことができて、いい経験をしたなと思います。自分がそこまで行けたのも、それまでいた店のオヤジ(料理長)たちが育ててくれたから。辛かったけど耐えてよかったな、オヤジには足を向けて寝れないな、と思いますね。

 

 

パートさんの休憩時にカフェのカウンターに立つ田畑料理長

 

 

― 富岡に戻るきっかけは何だったのでしょうか。

 

田畑さん:最後に働いた店が、この人は桁違いに凄いなと思えるシェフがいたり、いろんなジャンルの料理人が周りにいるという状況で、常に “負けていられない” という気持ちで戦っていました。でも戦い抜いた時に、“もう競争はいいかな” と思うようになって。その店が閉店したタイミングで、たまたま父親から「そろそろ戻ってこいよ」と連絡が来たこともあって、田舎でのんびりするつもりで帰ってきました。

 

― お父さんナイスタイミングですね。帰ってきてのんびりできましたか?

 

田畑さん:日帰り温泉の食堂ならゆっくり働けると思ったのに、カフェもやることになって大忙しです。こんなはずじゃなかったのにな(笑)。

 

 

カフェメニューの「珈琲こんにゃくクレープ」。スイーツは季節ごとに添える果物が変わるので、何度来ても楽しい。

 

 

 


 

 

 

育ててくれた親方たちの教えを胸に

 

 

妙義ふれあいプラザ 妙義温泉 もみじの湯 ※食事のみの利用も可能

 

 

― 定番料理の『御山亭』、ワクワク感がある『山カフェ妙義』、どちらもおいしくて満足感があるのでリピートしているのですが、いつもスタッフさんたちが料理の仕上げをしている様子を見て、オペレーションがしっかりしているんだなと感心しています。

 

田畑さん:そこはよく考えています。一定のところまでは揃えられるけれど、人によって全く違うものができてくることもあるので、それをどこまで許せるか。突き詰め過ぎてもだめだし、突き詰めなくてもだめだし…人生勉強ですよね。

スタッフさんにいつも言っているのは、「おいしくなぁれと思って作るのか、嫌々作るのか、何も考えずにただやってるだけなのか、それは味に出て、必ずお客さんに伝わるよ」ということです。料理は愛情。それは自分も駆け出しの頃に教えてもらいました。技術がなくても好きな人のために一生懸命考えて手間暇かけて作った料理と、ただ見様見真似で作った料理のどっちがおいしいと思いますか?

 

― 今、家でご飯を作る自分を振り返ってハッとしました…。

 

 

食事処『御山亭』

 

 

― 『御山亭』で食事をした時にもうひとつ感じたことがあります。田畑さんはお客さんともよくコミュニケーションを取っていますよね。子どもに「お腹いっぱいになった?」と優しく話しかけている姿には感激しましたし、田畑さんに会うことが楽しみで来ているというお客さんも見かけました。

 

田畑さん:それも今までの教えの中の一つです。毎日来れる人でも、3ヶ月に一回の人でも、来てお金を使ってくれる人はお客さん。変なプライドを持ってお高くとまるより、いろんな人といろんな話をしたほうが、自分にとって刺激にもなるし、その人を変えられるかもしれない。「お店の人と話しをして楽しかったな」という、いい思い出にもなりますよね。

 

 

丼物にそばorうどんとデザートもつく御山亭のお得なセットメニュー

 

 

― 確かに、ちょっとした会話があるだけで「また利用したい」という気持ちになります。師匠からの教えは、料理人に限らず全ての職業に当てはまりますね。

 

田畑さん:育ててくれた親方が、人生の生き方を教えてくれた人です。「何でもいい、ひとつでもいいから、自分の武器を持て。人間いつかは丸くなる。若いうちにどこかひとつ飛び抜けておけば、そのぶん人間が大きな丸になる」と教えられたこともありました。家族じゃなくて赤の他人に、働いてお金をもらいながらそんなことを教えてもらえる。これって大事なことだなと思います。

 

― 修行は辛い・厳しいという部分がクローズアップされがちですが、素晴らしい師匠との出会いは、その後の人生を良い方向に大きく変えてくれますね。

 

 

 


 

 

 

伝えていきたいこと

 

 

御山亭の食券は写真を見ながら買うことができる

 

 

― 妙義のキノコなど地のものを使うことも意識されていますよね。カフェのパスタやピザを食べて「こんな組み合わせもいけるんだ!」と驚いたりもしました。家だとワンパターンになってしまうので…地元食材のオススメの食べ方とかありますか?

 

田畑さん:その土地で育つ野菜のことは、その土地の人が一番よく知っているんですよ。逆にいつもスタッフさんたちに聞くんです、みんなどうやって食べてるの?って。一辺倒になってるけど、それが生き残った一番おいしい食べ方じゃないですか。郷土料理ってそういうことですよね。

最近は面倒だからと里芋の皮をむくことも家でやらないらしいけれど、そこをやることもせずに、新しいもの・新しい食べ方を!って、頭でっかちになっちゃってる人が多い気がします。目の前においしいものがたくさん転がってるってことに、気づいてほしいなって。

 

 

妙義のしいたけ、まいたけ、なめこがたっぷり入った「妙義そば」

 

 

― たしかに、祖母がいつも作っていた野菜料理が結局一番おいしく感じるかも…。今日はとても良いお話が聞けました。田畑さんはこれからも料理の世界でお仕事を続けていかれますか?

 

田畑さん:この先も料理人。俺の生きる道はこれしかないです。本当はもうちょっとゆっくりのんびりやりたかったけれど、そうも言ってられないですね(笑)。もし料理を学びたい、和食をやりたいって人がいれば、仕事はいくらだって教えますよ!いつか死ぬ時に後悔したくないから、今やるべきことは今やって、目一杯生きて、生きた証を残しておきたいと思います。

 

 

 

 


 

 

【御山亭】

月曜定休
3月~11月:11時~19時30分まで(ラストオーダーは19時)
12月~2月:11時~18時30分まで(ラストオーダーは18時)

妙義ふれあいプラザ 妙義温泉「もみじの湯」|しるくるとみおか

 

 

【山カフェ妙義】

月曜定休 11時~15時まで

山カフェ妙義-妙義山を眺めながらお食事-|しるくるとみおか

 

 

 


 

 

 

紅葉の終わりから桜が咲くまでの間、観光客が少なくなり、静かになる妙義山。私はそんな冬の妙義山が大好きです。

なぜなら、晴れる日が多く空気が澄んでいる冬は、景色を見渡すと遠くの山々までくっきりと見えるから。

そして外が寒いぶん、暖かい室内に温かいご飯、そして温泉が、心と身体にじわーっと染みるのです。

 

みなさんもぜひ、雄大な景色を眺められる「妙義山ビジターセンター」や「もみじの湯」を訪れて、愛情がこもったお料理をゆっくりと味わってみてください。

 

(ナカヤマ)

 

 


 

 

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